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Sep.

2021

interview
24 May. 2021

これからの、働き方と遊び方のはなし。

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

多くの人にとって、働き方が変化したこの1年。 自分に合った生活スタイルとはなにか?立ち止まって、自分に問いかけ、実際に住む場所や職場が変わった人もいるかもしれません。 今回は、自分の夢を叶えるために働き方を「調整」した結果、東京にある会社から出向し地方に移住した、岡野春樹さんにインタビューしました。


岡野春樹さんプロフィール

岡野春樹さん

ドイツ生まれ、神奈川県平塚市育ち。2012年電通入社、新聞社の事業開発・地方自治体のブランディング・内閣府による地方創生事業の広報などを担当し、2018年より岐阜県郡上市に出向し同市に移住(現在は電通に帰任)。一般社団法人Deep Japan Lab代表理事、一般社団法人長良川カンパニー代表理事、郡上カンパニーディレクター、慶應義塾大学SFC研究所所員。


東京での激務の日々でぶつかったこと

岡野さんは学生時代より「地域と教育」をテーマに研究し、就職後も地方に関わる仕事を希望していました。しかし、入社2年目に適応障害と診断され、休職することとなります。 岡野さんは、「今となっては、休職したことは人生の中で大事な転機だった」と語ります。

その理由の一つに、休職中にいろんな人に会ったり、マインドフルネスと呼ばれる領域の勉強をし、瞑想など、「自分を真ん中に戻す」ための様々な活動を実践しました。結果、TI理論というスイムの方法に出会い、「水に触れていると自分の心身がうまくいく」ということを発見しました。

復職後、調子も良くなったので、会社ではできない地域の仕事に取り組むべく、一時は会社を辞めることも考えた岡野さんですが、ある人から「自分のやりたいことが実現できないのは、全部自分のせいだ。夢を実現するために、全力で調整するんだよ!」と言われたことをきっかけに、働き方改革ならぬ、「働き方調整」をしていきます。どういうことかと言うと、「会社の仕事の時間」「社外での活動の時間」「家庭の時間」という物理的な時間配分を調整し、夢を実現するために、様々な人と出会い、自分の環境を自分でつくるべく、関係者へ相談・交渉したのです。そうして、誰に対してどう調整するか、ということを日々意識していったそうです。

 

移住のきっかけは、川に飛び込んだこと!?

岡野さんは、会社員としての仕事の傍ら、2014年「一般社団法人Deep Japan Lab」を立ち上げます。

設立のきっかけは、岡野さんの祖父が歌人で国文学者であり、日本のいろんなところを旅し、日本の良いところを祖父と語り合いたいという思いがあったことです。Deep Japan Labは「日本を愉しむ“関係”をつくる」編集チームとして、「日本みっけ旅」(問いを起点に約半年間かけて一つの旅を製作するアーティスト活動)、「ご縁しごと」(旅で出会った人の課題解決のためのデザイナー事業)、「旅と問いの学校」(人生を健やかな旅路にするためのオンラインサロン事業)の3つが主事業です。

中心事業である「日本みっけ旅」では、旅人が「自分の暮らしをよりよくするための課題」を考えることから旅を構築していきます。ただ旅をするだけでなく、自らの課題を掘り下げ、旅先の土地のことも深く学んでいくのが特徴です。

日本みっけ旅の様子

 

ある旅において、岡野さんは岐阜県郡上市を訪れます。 郡上市は岐阜県の中部に位置し、人口約4万人に対し年間観光客数が約600万人と、中部エリアでは有名な観光都市。豊かな山と川の資源を大切にしながら、まちづくりが進められています。

郡上市の川で遊ぶ岡野さんたち

 

郡上市の美しい川に飛び込んで遊び、魚を取り、夜には焚火を囲んで仲間と語らうことで、岡野さんは今まで味わったことのないような「身体と意識が一致するような感覚」を体験したと言います。

川辺にて焚火を囲んで語らう様子

 

 東京の、締め切ったオフィスの中で、大量の資料とにらめっこしながら働くことが、本当に自分の身体が求めていることなのだろうか?売上数字など、定量的なことだけを追い求めていては、次第に人の心は本当にほしい未来をつくりだせなくなってしまうのではないか?

今までの働き方に対し、岡野さんの身体は声を発し始めました。
そんな時「郡上カンパニー」という、地域の資源を生かした学びの場づくり事業を受注します。岡野さんにとっては、自らがやりたいことが詰まった仕事だったため、社内外の関係者と調整し、郡上市に移住してこの事業に関わることを決めました。

 

 

川が、人の身体を目覚めさせる

そうして、岡野さんは郡上市に住みながら、郡上カンパニーの事業や、個人の活動を発展させていきました。活動の一環として、都市部のビジネスマンを郡上市に呼び、郡上市の住民と一緒に事業共創を目指すワークショップを開催しました。すると、都市部から来た参加者たちが、源流域の川で遊ぶと表情を一変させて、目を見開き、創造的に思考し、自由にチャレンジし始める様子を目の当たりにしました。

ところで、なぜ川や水に触れていると人はエネルギーを取り戻し、自分らしくなれるのでしょうか。岡野さんは、川遊びが自律神経に及ぼす影響を可視化する研究も行いました。

郡上市に都市部のビジネスマンを招いたワークショップ

 

岡野さんが相談した相手は、たまたま登壇したイベントの控室で出会ったという、環境神経学研究所株式会社の藤本靖さん。神経と身体の専門家です。藤本さんの監修のもと、これまでに実施してきた郡上での川遊びを、都市部の人にモニターツアーとして提供し、同時に神経の調査を行いました。すると、「川のアクティビティは、神経の覚醒効果が非常に高い」ということが実証されました。

藤本さんによると、神経は「緊張―リラックス」という軸と、「停滞―覚醒」という軸の2軸で考えると理解しやすいそうです。多くのビジネスマンは、仕事で神経が「緊張&停滞状態」(このことを「神経の凍りつき状態」と藤本さんは呼ぶ)にあるそうで、それを解消するために都会のオフィスから一足飛びし、静かな森の中などに行っても、実は効果的ではないそうです。

しかし、都会のオフィス(緊張・停滞)⇒川(緊張・覚醒)⇒森(リラックス・覚醒)の順に体験し、川で身体を覚醒した後で心を静めることにより、身体と心が一致したような本来の自分の状態を取り戻しやすくなるといいます(※藤本さんが提唱する、神経の『二軸理論』より)

人が覚醒・リラックス状態になるまでの流れ

 

 3つの「あそび」

岡野さんは「いつも遊んでいるようだね」と人から言われるので、自分のことを考えたところ、「3種類のあそびをしている」と考えたそうです。 一つ目は「地あそび」。芸術・スポーツ・旅・狩猟など、思考より身体性を優位にした遊びで、本来の自分と深くつながりなおすような行為です。岡野さんにとっては、川に飛び込んだり、プールで泳いだりした時間がまさに「地あそび」でした。

二つ目は「プロジェクトあそび」。なるべく自分の心に素直になって、どんなに小さくてもいいので、自分自身と、他者とのあいだに、やってみたいことを置いてみる、という遊びです。「プロジェクトあそび」は、一般的に言われる「あそび」と「仕事」の中間のようなもので、これをやっていると自分の新たな社会的役割に気づくそうです。岡野さんにとっては、「日本みっけ旅」などの活動がこれにあたります。

そして三つ目は「しごとあそび」です。他者から求められた社会的役割を果たすため、情報処理を進めていく左脳中心の動きです。この時、最初の段階では必ずしも自分の身体が求めるものと他者から求められるものが一致しているとは限らないため、身体に負荷がかかりすぎると次第に本来の力が発揮できなくなる可能性があります。そこで、いかに他者から求められた役割を、自分のやりたいことに変換し、「自分事化」できるかが、ただの仕事と「しごとあそび」の分かれ目となるそうです。

一般的に「仕事」と呼ばれるものにも「あそび」と名付け、また「プロジェクトあそび」のように、既成概念の間の役割を作り出す岡野さんの発想の根本には、「まずは自分をいかすことが一番のしごと」という思いがあります。そして休職中の気づきもつながっています。

 

身体の声に従うこと

このように、場所や枠組みに捉われない働き方を「調整」してきた岡野さん。「大切なのは身体に従うこと」と言います。これは、表面的な「やりたいことをやろう!」というメッセージではなく、違和感に気づく、川に入った時の身体感覚を信じる、という自分の身体実感に基づくアプローチと、それを神経生理学など科学的根拠に基づいて分析する実証的アプローチをどちらも行っていくからこその思いです。

岡野さんは現在、郡上市に住みながらも、電通で「風土と創造性の関係を研究」する社内外横断のプロジェクトを企画しているそうです。

身体感覚という土台があってこそ、よい仕事ができ、仲間や家族と笑って過ごすことができる。そんな当たり前のことを、人は簡単に忘れてしまいます。

みなさんの身体は、今、どんな声を語りかけるでしょうか。

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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