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21

Nov.

2019

interview
21 Oct. 2019

あなたはどう生きていきたいと思ってらっしゃるの?

川口真実
アソシエイト・メディア・プランナー
川口真実

生命を脅かすような病気に罹ったとき、人はどのような選択をするでしょうか。少しでも長く生きていくことを第一優先にしますか?それとも家族との時間?趣味?病気に罹っている本人と家族の多様な価値観と向き合う緩和ケア医の西智弘先生に、緩和ケアにおけるダイバーシティの考え方に関してインタビューをしてきました。
※緩和ケアとは緩和ケアとは病気に伴う心と体の痛みを和らげるケアの総称。

WHO の定義
WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002 年)緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティー・オブ・ライフ(QOL:生活の質)を改善するアプローチである。

――西先生が緩和ケア医に興味を持ったきっかけは何ですか?

研修で緩和ケア科を経験したことがきっかけです。医者の研修というのは、様々な科を順番に経験していくものなのですが、まずは内科で研修をしていたんです。内科で出会った患者さんは、本当に苦しそうでした。ベッドの上を苦しくて、のたうち回っているんです。患者さんをみているご家族も…。辛そうでした。その後の研修で緩和ケア科へ行ったら、先ほどの患者さんの様子が変わっていました。あれだけ、内科で苦しんでいた患者さんが、病院の中でスタスタ歩いているんです。こんな魔法のような状況を見て、緩和ケアの技術に魅了されたことがきっかけです。


――
緩和ケア医として、大切にしていることはありますか?

例えばみなさんは、どんな生き方がしたいですか?私が出会った患者さんだと、どんなに辛い治療をしてでも、一秒でも長く生きることに対して、生きがいを感じる人もいれば、一方で長く生きることよりも、家族との時間が大切を大切にして、家でできる治療に専念することに生きがいを感じる人もいます。人それぞれ全然違うんです。ただ、それを医療者の死生観を通して見てはいけない。医療者は真っ白な心で、患者さんと向き合う必要があるんです

 

――人それぞれ生き方に関して自分の考え方がある中で、真っ白な気持ちになるのはプロの技術ですね。ところで、人の生き方を聞き出すというのは、そう簡単なことではないと思うのですが、どのようなコミュニケーションを行うのですか?

特に決まりはありません。医療者一人ひとりの方法で患者さんと関わり対話することに尽きます。一朝一夕ではできないです。突然、あなたはどう生きていきたいと思ってらっしゃるの?と聞いたとしても簡単には答えは出ないです。体調が辛いときに聞いたらなおさらです。ですから、元気なときから、これまでどんな人生を歩んできて、これからはどう生きていきたいのか、何を大切にしたいのかを話し合って、一緒に自分だけの答えを探していくお手伝いをするようなイメージです。前に、全く話をしてくれない患者さんがいたんですが、何度も何度も対話をしていくうちに、信頼関係を築くことができました。そこで、患者さんのニーズにあった医療を提供することができました

 

――人との関係性を変えることはそう簡単なことではないですよね。対話の力を感じました。ちなみに、全ての患者さんと何度も対話を行うのですか?

基本的にはすべての患者さんと対話をします。ただ、役割的に看護師の方が患者の本音を聞くことに適している場面もあります。医者に対しては、何か具体的に治療をしてほしいという気持ちで患者さんがおはなしをしてくれることが多いのです。話の内容は必然的に医療中心になります。いつどんな検査をするとか、薬の話とかです。しかし、看護師さんは違います。看護師さんには抽象的な感情も訴えやすく、看護師さんにしか聞き出せないことがたくさんあるんです。なので、医療者全員でチーム一丸になって患者さんに向きあいます。

 

――対話が本当に大切だということがわかりました。これまで関わった患者さんの中で、対話によって、具体的に生き方や行動が変わったケースなどあれば教えてください

そうですね、たくさんあります。前の病院では抗がん剤をする一択しかなくて、苦しみながら抗がん剤をしている患者さんが、私のところに来ました。
そこで治療をやめることもできるし、抗がん剤を続けることもできる。どちらでもご自身で選んで大丈夫ですよと、お伝えしたところ、抗がん剤を続けるという選択を患者さんがしました。

その後、自分で選んで治療に取り組むのでは全く姿勢が違いましたね。医者は患者さんに、たくさんの選択肢を共有してその中から患者さんが、自らで治療を選ぶ決断をすることが、自分の人生を、前向きに歩む助けになるということがわかりました。

 

――今後はどんなことを考えていますか?

今、暮らしの保健室という活動をしています。ここでは、ワークショップをしたり、不安に思っていらっしゃることを相談してもらったりするような、地域に根ざした場所です。この活動をより多くの人に届けられるように持続性があるビジネスプランを考え続けています

 

――気になります!少し教えてもらえませんか?

いまは、飲み物を利用者の方に買ってもらうカフェのような形式にしてお金をもらっています。あとはコワーキングスペースに所属しているノマドワーカーの方向けの健康サポートを暮らしの保健室で実施することで継続的な収入を可能にしています

 

――社会により良いものを届けるために、継続力は必須ですものね。最後に先生が目指す緩和医療を教えてください

本当は生きたいと思ってるのに、「苦しむくらいなら早く死なせてもらう方がいい」と感じなくて良いようにしたいです。そのために、自分の人生を生き切り、最後まで自分の生を全うできるための方法を整理して、全国に広めていかないといけないと思います。

 

――取材を終えて

自分自身どう生きていきたいと思っているのか考えるきっかけになりました。緩和ケアに取り巻く多様性を理解し、真っ白な心で向き合う先生のお話を聞き、緩和ケア以外のシーンでも同じように、真っ白な心で人と向き合うことで、相互理解が進んでいくのではないかと思いました。
西先生、お忙しいなかお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。



西 智弘 氏
医師。
家庭医研修の後、2012 年から川崎にて腫瘍内科-緩和ケア-在宅ケアをトータルで診療。暮らしの保健室を立ち上げ、病気になっても安心して暮らせるコミュニティを作る。

書籍紹介
「がんを抱えて、自分らしく生きたい がんと共に生きた人が緩和ケア医に伝えた10の言葉」

取材・文: 川口真実
Reporting and Statement: mamikawaguchi

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