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interview
1 Oct. 2019

早稲田大学「パラリンピック概論」に見る、平田竹男教授の共生社会の作り方

開幕まで1年を切り、開催に向けて気運が高まっている東京2020パラリンピック。早稲田大学では、2015年度から、全学部生を対象に「パラリンピック概論」という講義が行われています。

アンカーを務めるのは、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の教授であり、内閣官房東京オリンピック・パラリンピック推進本部の事務局長でもある平田竹男教授。

1993年のJリーグ立ち上げ、2002年の日韓ワールドカップ開催招致などに関わり、日本のスポーツビジネスを語る上で欠かせない存在です。

 

そんな平田教授が主宰し、4年目の講義を大好評で終了した「パラリンピック概論」とは、いったいどのような講義なのでしょうか?大学生に向けてパラリンピックの講義を行う狙いとは?

 

講義の様子

 

第一線でパラリンピックに関わる人の生の声が聞ける「パラリンピック概論」

 

「パラリンピック概論」は、パラスポーツの価値を多角的に学べる講義ですが、最大の特徴は、パラリンピックに関わる人たちの生の声が聞けるところにあります。

実際にパラリンピックの舞台で活躍してきた、アルペンスキー金メダリストの大日方邦子さん、水泳金メダリストの河合純一さん、スキー日本代表チーム監督の荒井秀樹さんの3名が非常勤講師を務め、平田先生と掛け合いをしながら4名でファシリテーションを行います。

さらにゲスト講師として、選手やコーチ、メディア関係者、東京2020組織委員会のメンバーなど、様々な角度でパラリンピックに関わる人たちが週替りで登壇。学生たちは、現場のリアルな話に耳を傾けます。

 

そんな「パラリンピック概論」について、2019年度の講義を終えた平田教授に、世界のスポーツを体験し、パラスポーツに魅了されてきた、筆者がお話を伺いました。

 

「知る」から「行動する」へ。5年間での学生たちの変化。

 

―まずは、今年の講義を終えてみて、いかがですか?他の年との違いなど、ありますでしょうか。

 

今年の受講生は、これまで以上に学年、学部、性別などの偏りがなく、あらゆる学生が参加してくれました。

2015年に講義を始めた頃は、「こういう世界があるんだ!大事だね。」っていう反応だったのが、最近は「自分も何かしたい!」と思う学生が増えてきています。昨年の受講生は、自分たちで大日方さんと一緒に2019年9月に竣工したパラリンピック強化の中心となる「第2NTC(ナショナルトレーニングセンター・イースト)」周辺のバリアフリー環境の実地調査を行って、レポートを何と私が事務局長を務める内閣官房オリパラ事務局に提出してくれて、嬉しい驚きでした。そのレポートのおかげで関係省庁が動き、現在の周辺のバリアフリー状況は格段に進みました。

 

―そんなに積極的な取り組みが行われているパラスポーツ講義はなかなか他にないのではないでしょうか。何が、この講義の特徴なのでしょうか。

 

講師陣の人間力が、大きい要因だと思います。

私は、「待つ力」を大切にしています。学生たちの反応を待つ。質問が途絶えても、催促しない。一緒にタッグを組む講師陣の中に待てない人がいるとうまくいかないんだけど、大日方さんも、河合さんも、荒井さんも、ちゃんと待ってくれる。講師陣の一体感があるから、講義もうまくいってるんだと思っています。

 

講義が行われているのは、優秀な学生が多く通う早稲田大学

 

パラリンピアンとの出会いが気づかせてくれた、平田先生自身にあった「心のバリア」

 

―平田先生は、多様なキャリアを歩んでこられていますよね。そういったキャリアを経て、パラリンピックやパラスポーツにたどり着いたのは、なぜでしょうか。

 

よく多様なキャリアと言われますが、私の中では一貫していて、自分が大事だと思うことをやってきているだけなんです。通産省にいた頃に、Jリーグを作ったりワールドカップを招致したりしていて、その後日本サッカー協会に移って国際試合のマッチメイクをしました。これらは、日本の国際的プレゼンスの向上や、隣国との関係改善を目指したものです。なでしこジャパンも作りました。所属は違っても、サッカーを通じて社会を変えるという意味では同じです。ハーバード・ケネディスクールに通った経験から教育も大事だと思っていたら、早稲田大学から声をかけられて、教員もやれることになりました。

 

―パラリンピック概論は、どういった経緯で開講に至ったのでしょうか。

 

出会い、ですね。

ゼミ生にいた、荒井秀樹監督、パラトライアスロンの谷(旧姓:佐藤)真海選手、そして木村潤平選手との出会い。彼らに出会ったおかげで、自分の中にバリアがあったことに気づかされて、パラスポーツ・パラアスリートの大切さを実感したことが、きっかけです。

その後、2013年10月に現在のオリパラ推進本部の事務局長に就任して以来、ホテルや駅、空港のバリアフリー化などを推し進めてきたけれど、徐々に、ハードだけではなく心のバリアフリー化にも力を入れるようになってきました。一方で、教員としてやれることはないか、と思い、パラリンピックの講義を始めることにしました。

 

 

未来の社会を作っていく学生たちに、共生マインドを。

 

―ご自身のパラスポーツ・パラアスリートとの出会いから、心のバリアフリー化を推し進められているんですね。

 

教育というよりも、パラスポーツやパラアスリートの良さをまだ知らない人たちに紹介してあげたい、という感覚です。自分が経験した出会いを、学生たちにも経験して欲しい。だから、私は授業の中では極力喋らないようにして、自ら障害を克服してパラリンピックで金メダルを獲得した選手たちに、スポーツや社会を語ってもらうようにしています。

 

―授業は、学生たちの真面目で積極的な参加もありますが、一方で笑い声もたくさん聞こえるような、アットホームな雰囲気の中で進められているように感じました。

 

パラアスリートとの会話に、軽い下ネタなんかも交えながら、楽しく進めています。実は、こういうこともとても大事です。障害者も普通に下ネタ話すんだって分かると、それだけで学生たちの心のバリアが取り除けるでしょう?
障害者だから、って特別な話をするのではなく、普通に喋りながら講義をすることが大事で、講師陣には、なるべくパーソナリティが伝わるように喋ってもらうようにしています。

 

早稲田大学の卒業生は、一般企業、メディア、行政など、色んな分野に就職します。将来、多方面で活躍していく彼らに、バリアフリーマインド・共生マインドを持ってもらうことができれば、社会を変えることができると考えています。サッカーを通じて社会を変えていたのと同じで、今はパラスポーツを通じて社会を変えているという気概を持って、この講義を続けています。

 

東京2020パラリンピックは、必ずやこの国を変えていく。

 

―東京2020パラリンピックの成功と、その先の共生社会の実現に向けては、どのようにお考えでしょうか?

 

パラリンピックを成功させるのは、絶対命題ですし、日本なら、成功させられると思っています。2002年の日韓ワールドカップの時も、日本人には馴染みの薄い国同士の試合が満員になり、日本の力を肌で感じました。あの時、ワールドカップを通じて日本は世界を知ることができた。今度は、パラリンピックを通じて国民一人ひとりに共生マインドが芽生える。共生マインドを持った人たちが、必ずやこの国を変えていってくれるのではと思います。

 

スポーツと教育を通じて、ダイバーシティ&インクルージョンな社会の実現を。

 

平田先生は、教員は感情移入できる仕事だ、とおっしゃっていました。目の前の学生たちの心を変えることが、彼らのアクションを変え、インクルーシブな社会の実現につながる。スポーツやアスリートの持つ力を誰よりも信じているからこそ、パラアスリートたちのリアルな声を学生たちに届け、学生たち自らの気づきとアクションを引き出すことに徹する。そんな平田先生のお話を伺うことができて、2020年を迎えた後の社会がどのように変わっていくのか、ますます楽しみになりました。

 

執筆者 杉浦愛実

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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