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25 Feb. 2022

多様な視点でがんを考える~WCW2022 セッションプログラム取材レポートCancerX 教育~

海東彩加
ソリューション・プランナー
海東彩加

World Cancer Week 2022の4件目の記事となる今回は、「教育」をテーマにしたセッションをご紹介します。

 

2022年度の新学習指導要領より、高校で「がん教育」が独立した単元として扱われるようになります。

高校でがん教育を行う上で大切なことはなにか、そして一人一人ががんを自分ゴト化するためにはどうすべきか。

この記事でご紹介する「CancerX教育〜みんなで考えよう、これからのがん教育の進め方〜」は、計13名の登壇者とともにがん教育を考えるセッションです。

 

【登壇者】

浅野 大介 経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長

佐藤 健太 お茶の水女子大学附属高等学校 保健体育科教諭 / 同大学非常勤講師

鈴木 美慧(モデレーター) CancerX理事 / 学校法人聖路加国際大学聖路加病院遺伝診療センター 認定遺伝カウンセラー

現役高校生10名

 

冒頭、モデレーターの鈴木さんから「アクティブなセッションに」という言葉があった通り、現役高校生10名を登壇者に迎え、“多様な視点で”がん教育の進め方を考えていきます。

 

 

がんについて考え、対話する。ヘルスリテラシーの育成を。

 

佐藤さんから「高校におけるがん教育~事項事例の紹介~」として、自身の教育現場での実例を交えたお話がありました。

 

佐藤さんが行う保健の授業でのポリシーは「ヘルスリテラシーを育成する」こと。ヘルスリテラシーとは、健康を保持促進するために、情報を得て、理解し、さらにその情報を使いこなしていくことです。がんの知識を得ることにとどまらず、がんについて一人一人が考え、意見を交わし、実生活にまで落とし込む「がん教育を通じたヘルスリテラシーの育成」を目指します。

 

保健の授業でのポリシーとする「ヘルスリテラシーの育成」について(@CancerX)

 

「がん教育」と一口に言っても、がんを学ぶための入り口は多様です。生物や医学的視点で考えること、がん患者や家族の心理面から考えること、倫理の面から考えること。自分ゴト化しづらい人もいる中での工夫として、学生一人一人の興味テーマに沿って調べ発表する授業を行っています。

実際にそのような授業を行うことで、がんは身近であることを感じ、がん検診を受けたい、家族や身近な人とがんを話し合いたいという声がでてきました。

 

一方、佐藤さんはまだまだがん教育にも課題があると考えており、まずは講師自身も正しい知識を身に着ける必要性があること、個人個人の環境や経験に基づくさまざまな配慮を考えることが求められてくると言います。

 

佐藤さんが考える今後のがん教育の課題(@CancerX)

 

 

知識を得るだけでない、「がんを入り口にした探究」を目指して。

 

浅野さんからは、これからのがん教育の考え方についてのお話がありました。

 

がん教育は「○○教育」のひとつといわれており、実際の教育現場からは限られた時間の中で教えていくことに対しての不安や不満の声もあるようです。そんな中で、がん教育を取り入れてもらい、学生からも関心を持ってもらうためには「がんを入り口にした探究」が重要といいます。

 

一般的に、学校の授業では基礎を積み重ねた上で、応用問題に取り組みます。一方で、ある学校では、iPS細胞の論文を読むところから始め、読むために必要な生物や英語の知識を身に着け、さらに関心や疑問をもった内容を探求していくといった授業が行われています。

がん教育も、がんの知識を得ることがゴールではなく、そこから健康や生命、様々な学びにつながっていきます。がん教育を進める上でも、必ずしも基礎から応用に進むだけでなく、ホンモノの課題から学ぶ「学びの探究化」の考え方が重要なのかもしれません。

 

学びの探究化について(@CancerX)

 

 

関心ごとは人それぞれ。がんを自分ごと化するために。

 

実際にがん教育を受けることになる高校生たちは、がん教育に対し何を考え、どんなことを求めているのでしょうか。実際の高校生の声をご紹介します。

 

「関心を持ったきっかけは親ががんになったこと。がんを考えざるを得ない状況になり、今までがんに偏見を持っていたことを学べました。自分と同じように偏見を持っている人に対しても、正しい情報を発信していかなきゃいけないと思っています。」

 

「小学生の時に母が乳がんになりました。がんにより亡くなってしまうことも頭によぎり不安でしたが、薬を飲んで治っていくのを見て、がんになるとすぐに亡くなるという偏見をもっていることに気が付きました。」

 

「祖母ががんになって治った経験があるので、そもそもがんに対してネガティブイメージがありませんでした。今は、生物の時間を通じて、がんの仕組みに興味をもっています。」

 

こちらの3人は「家族ががんになったことがある」という共通点がありますが、がんに対するイメージ、経験から感じたこと、がん教育に求めることはそれぞれ違います。がんのネガティブイメージを払しょくしていくべき、という考え自体にも実は偏見が潜んでいるかもしれません。

 

そして、もともとがんは自分に関係のない病気と考えていた高校生たちからも、がんを自分ごと化するために必要なことについてお話してくださいました。

 

「がんは自分には遠い存在の病気だと思っていました。しかし、授業で調べる中で偏見を持っていたことや正しい情報を持っていなかったことに気付きました。そして、自分ゴト化するには、がんになったことがある人やその家族に話を聞くことがいいと考えています。」

 

「がん教育をするにあたって、関心を持つには共通性やつながりが大切だと考えています。授業内で知識を得るだけにとどまらず、自分との関連性や学ぶことの利点など自分とのつながりや答えを見出し、長期的に考えていくことが大切だと思います。」

 

授業で終えるのではなく、自分自身や実生活に落とし込んで考えてみることが大切だと言います。

 

高校生10人からそれぞれの想いや考えを聞いて印象的だったのは、「がんに関心を持つ切り口、そしてその考えは多様であること」です。人それぞれ感じることも、興味があることも違うという前提に立ったうえで、がん教育を進めていくことががんを身近に感じる一歩なのかもしれません。

 

セッションのグラフィックレコーディング(@CancerX)

 

さいごに

 

高校でのがん教育の必修化。

一つのクラスの中にも、がんを身近に感じる人もいれば、縁遠いものと考える人もいて、がんをネガティブに感じる人も、ポジティブに感じる人もいます。

違う意識や価値観を持っている環境でがんを学ぶからこそ、自分なりにがんとのつながりを考える機会となり、それを共有しあうことで、「がん」という一つのテーマに対して多角的な視点での考えを知ることができる。これはとても重要なことだと感じました。

 

そして、がん教育が授業内で一時的に学ぶ単元ではなく、がん教育を入り口として一人一人の生活に落とし込んでいけるように。

教育現場で実現していくには難しいこともあるとは思いますが、高校での学びの工夫は、「がんと言われても動揺しない社会をつくる」ことの大切な一歩になっていくのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

取材・文: 海東彩加
Reporting and Statement: ayakakaito

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