話題の『グッドワークス!』 著者に尋ねる企業社会とダイバーシティ
- 共同執筆
- ココカラー編集部
<「対応型」から「共通価値の創造」へ>
日本でもにわかに注目が高まりつつある「ダイバーシティ」。女性、障がい者、外国人、LGBT(性的マイノリティ)といった多様な人材の活用という文脈で用いられることが多いこの言葉は、企業にとって「必ずしも利益を生む訳ではないが、便宜上取り組まなくてはならない課題」と認識される側面もあります。「企業の社会的責任(CSR)」もまた、そのような意味合いで受けとめられがちな言葉でした。けれども近年、企業が「善い行いをしながら良い業績を残すこと」は可能であり、むしろそれこそが企業が身につけるべき姿勢であるとする、新たな潮流が生まれています。経営学の世界的権威、マイケル・ポーター氏がCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)と名付け、フィリップ・コトラー氏がマーケティング3.0という言葉で紹介してきた「企業は、社会的ニーズや課題に答えることで経済価値と社会的価値の両方を創出することができる」という考えに基づく企業活動です。そのトレンドや優良事例が豊富に紹介されたフィリップ・コトラー氏らによる著作『GOOD WORKS!』の日本語版が、この度出版されました。
<GOODはWORKする>
アメリカでは2012年に出版されたこの書籍。その著者のひとり、コーズ・マーケティング・フォーラム社長のデビッド・ヘッセキエル氏が、本の出版に合わせて来日しました。同氏は10年以上もの間、コーズ・マーケティング(社会貢献型のマーケティング活動により推進される事業)の優良事例を集積・表彰するコーズ・マーケティング・フォーラムを開催。同社の運営するサイトは今や、CSRやマーケティング担当者が欠かさずチェックする情報源として知られています。
(コーズ・マーケティング・フォーラムのウェブサイト)
http://www.causemarketingforum.com
単なる利益追求を超えた社会的貢献を求める声が消費者の間で高まりつつある中、企業はそれにどのように応えてゆけばよいのか。この本ではそれを、マーケティング部門よりとコーポレート部門よりの6つのアプローチ(コーズプロモーション、コーズ・リレイテッド・マーケティング、企業のソーシャルマーケティング、企業の社会貢献活動、従業員のボランティア活動、社会的責任のある事業の実践)に分類して紹介し、企業が取り組むべき課題を選択・実践・評価してゆく上での課題やポイントを、豊富な実例やソーシャルメディア活用事例と共に紹介しています。そして、企業の社会善(ソーシャル・グッド)への取り組みは、もはや義務の履行ではなく、企業目的の達成のために積極的に取り組むべき課題であると明確に言い切り、この領域へ積極関与を奨励しているのです。本のタイトル『GOOD WORKS!』に内包された3つのメッセージ:「よくできた仕事」「これぞ善き仕事」「Good(よいこと)はWork(機能)する」がこのことを的確に表現しています。
<グッドワークスにダイバーシティの視点>
紹介される優良事例には、ダイバーシティに関連するものも複数みられます。
例えば、ナイキは先住民族の7世代哲学(三世代前から叡智を学び、三世代先に何が残るかを考えなくてはならない)に基づくN7(Native Seventh)プログラムを通じて、スポーツとそれに伴うさまざまなメリットを北米の先住民族コミュニティにもたらす多様な活動や事業を展開しています。同社は2007年に米先住民族を対象にデザインした運動靴を発表、2009年には先住民族文化をヒントに「ナイキの熟考デザイン(Nike Considered Design)」の精神を具現化した一般向けのシューズ、アパレル、N7コレクションの販売を開始。収益の一部をN7財団に寄付し、先住民族支援に関連する社会貢献活動へと結びつけました。
国際送金サービスを手がけるウエスタンユニオンは、2007年から「私たちの世界、私たちの家族」という移民コミュニティ支援に結びつく企業市民プログラムを展開。その活動は主な顧客層である移民社会における同社の知名度向上にも結びつき、双方の利益に結びついています。
この他にも、企業が非営利団体の活動支援を通じてダイバーシティ社会の実現を後押しする事例も、数多く紹介されています。
<境界を超えるメッセージングを>
こういった活動を展開するにあたり重要となるのが「メッセージの情緒的側面(Emotional Content of the Message)」だと、ヘッセキエル氏は語ります。「コーズ・マーケティングの優良事例の多くが、感情に働きかけるメッセージを持っています。人びとの持つ先入観や文化的慣習を変えることはとても難しいです。ですから、『自分と異なる立場の人の目からみたら、この状況はどう見えるだろう』ということを問いかけるようなメッセージの発信を考えていくことが、とても重要になるのです」。
ダイバーシティに着目して、社会から優れた才能をくまなく発掘し、それを活用かしていくことは、企業や国が競争力を高める上でもとても大切な視点である。また、こういった取り組みは世界的にも加速しつつあり、社会的な期待も高まっていく。ヘッセキエル氏はそんな観点からも、日本企業がダイバーシティに取り組むことの重要性は益々高まるだろうと語りました。ダイバーシティへの取り組みからどのようなグッドワークスが生まれるのか。今後も注目していきたいと思います。
デビッド・ヘッセキエル氏
『グッドワークス!』共著者、コーズ・マーケティング・フォーラム社長。『フォーブス』『メディアポスト』『ハフィントンポスト』のブロガーでもあり、産業アナリストとして活躍している他、企業や非営利機関の人びとに向けて、コーズ・マーケティングやCSRについての講演を定期的に行っている。
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