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14 Nov. 2014

ブラインドサッカー世界選手権 Vol.1 新しい世界へのキックオフ!

林孝裕
cococolor事業部長 / cococolor発行人
林孝裕

世界強豪12カ国が東京に集結

スポーツの秋。各地で様々な大会が開催されていますが、「ブラインドサッカー」と呼ばれる競技をご存知でしょうか。

11月16日から24日にかけて、国立代々木競技場フットサルコートに世界強豪12カ国のチームが集まり、ブラインドサッカーの世界選手権が開催されます。アジア初の開催となるこの大会は、2020年の東京パラリンピックの試金石としても、熱い注目を集めています。

前回の2010年の世界選手権の映像がこちら。

驚くほどエキサイティングな選手たちのプレーは圧巻です!

今回は大会を主催する日本ブラインドサッカー協会を訪問し、大会前の準備でまさに不眠不休の毎日を送られている事務局長の松崎英吾さんにお話を伺ってきました。

ブラインドサッカーとは?

今回世界選手権が開催されるのはB1と呼ばれる、全盲者を対象とした競技です。ルールはフットサルをベースとした独自のもので、4人の視覚障がい者のプレーヤーが、視力(全盲でも義眼もあれば、光を感じられる人もいる)の差をなくすためにアイマスクを着用。晴眼者である監督、ゴールキーパー、そしてコーラー(ゴール裏に立ち、声で指示を出す)の3人を加えた合計7人の「見えない人」と「見える人」の混成チームで行われます。「見えない人」が「見える人」からゴールを奪うという点も非常に面白いところです。

動かすと「シャカシャカ」と音のなるボールを使って、全員が音を中心としたコミュニケーションを図りながらプレーします。観客もそれを遮ることがないように試合中は音を立てずに静かに観戦しなければなりません。そうして選手も観客もそこで行われるコミュニケーションを大切にしながら楽しむスポーツなのです。それが「コミュニケーションスポーツ」とも呼ばれる所以です。ディフェンスが近づく際には、相手との衝突を避けるため「VOY(ボイ。スペイン語で「行く」という意味)」という掛け声をかけなければならないというルールや、サイドへの飛び出しの防止や、選手がピッチの環境を認知するためにピッチサイドにフェンスが設けられていることなど、さまざまな「工夫」がルールとして取り込まれています。

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(日本ブラインドサッカー協会HPより)

ボールを蹴ることは、楽しい!という根源的な喜びを

 2004年のアテネ大会からパラリンピック正式競技に認定され、今年、アジア地域初の世界選手権が東京で開催されることとなった、ブラインドサッカー。競技が開発されたのは1980年代ですが、実はサッカーの強豪国、イギリスやフランスのブラインドサッカーの歴史も、日本とほぼ同じくらいの、わずか十数年程度。ブラインドサッカーの普及啓発に向けた世界的なイニシアティブはほとんど存在していません。そんな中、日本のブラインドサッカーは、世界に例をみない独自のアプローチから発展してきています。

日本で協会が設立されたのは2002年。しかしサッカーというスポーツは、視覚障がい者が取り組むべき対象ではない状況でした。

「ある盲学校で小学校3年生の女の子にサッカーボールを渡したところ、その子が「蹴ってもいいのですか?」と聞いてきたんです。危険性を考慮すれば目が見えない子供たちにとってはボールは蹴ってはいけないものだったんです。いいんだよと言われてボールを蹴ると、ほんの数メートル転がっただけでも、キャッキャと、飛び上がって喜んでいて・・・。人は、蹴る喜びを根源的に持っているんだ。そんな人間らしい喜びを、もっとたくさんの人たちに伝えていきたいと思ったんです」

「混ざり合う社会」実現のためのブラインドサッカー

ブラインドサッカーは、目の見える人たちもともにチームの一員として参加することができる、裾野の広いスポーツです。むしろそれぞれが協力し合い、混ざり合って成立する競技です。日本ブラインドサッカー協会では、障がい者のためのスポーツというだけではなく、「ブラインドサッカーを通じて視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」というビジョンの下で、ブラインドサッカーの普及啓発に取り組んできています。多くの子どもたちがブラインドサッカーを体験できる授業「スポ育」や、企業研修に活用する(OFF TIME Biz)といったさまざまなプログラムに取り組んでいるのも日本独自の展開です。

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(スポ育では、ブラインドサッカーの選手が先生となる。教える楽しさを知ることが、選手の成長にもつながっている)

 選手の育成にも、もちろん力を入れています。日本チームは、2005年の第1回IBSA視覚障がい者サッカーアジア選手権大会で優勝、2006年アルゼンチンで世界選手権に初出場を果たしました。その後の世界選手権での奮闘もありましたが、各国が力をつけてきたこともあり、残念ながらまだパラリンピックは出場したことがありません。世界で勝ち抜くためには、選手が競技に集中できるだけの、十分な環境づくりも課題なのです。

一方、これまでの普及啓発活動が功をなし「混ざり合う社会」という協会のビジョンに共感する企業も複数現れるようになりました。企業スポンサーや普及啓発事業からの収入もあり、2013年からは強化のための海外遠征も可能となり、ブラインドサッカーに対する社会的期待も高まっています。

世界初を、東京から

今回の世界選手権では、世界初とも言える挑戦が行われます。障がい者サッカーに関わる7つの団体が集まり、大会開催期間中、訪れた人たちがブラインドサッカーや障がい者スポーツを体験する機会を提供するのです。観るだけではなく、体験してみる。「混ざり合う社会」の実現に向けた第一歩が、まさに提示されていると言えます。

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今回の世界選手権の開催は、2020年の東京パラリンピックに向けて、関係者が心をひとつにしてゆく上でも大きなきっかけとなったと、松崎さんは語ります。日本ブラインドサッカー協会には、東京都や他の競技団体からの視察の問い合わせやマスコミからの問い合わせも多く、松崎さんはこういった団体とも連携しながら、2020年の東京を目指していきたいと考えているそうです。

「ブラインドサッカーの観戦では、観客は音を立てたり、声を出すことはできません。けれどもその分、強い一体感が感じられると言われているんです。ゴールが決まった瞬間に起こるどよめきで、選手たちは笛がなるより先に、ゴールを決めたことを知るんですよ」。観戦の醍醐味を、このように語る松崎さん。グループAの日本は、フランス、パラグアイ、モロッコという強豪チームと対戦します。

「自分たちにはビジョンがある。だからこそ、切り開いていける世界がある」。お話を伺って、そんな強い意志と可能性を感じ取りました。より良い社会の実現に向けての強い「ビジョン」とともにある日本の「ブラインドサッカー」。今では選手たちもそのビジョンを胸に日々戦っているといいます。目が見えない選手たちには、大きなビジョンがはっきりと見えている。私たちはブラインドサッカーを通じてどれだけ多くのことを、感じ取ることができるでしょうか。この世界選手権をきっかけにその目で、その体で体験してみることから始めてはいかがでしょうか。

次回は世界選手権の様子をレポートします。

 

日本ブラインドサッカー協会

事務局長 松崎 英吾さん

日本ブラインドサッカー協会事務局長。慶応義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所研究員。国際基督教大学卒。1979年生まれ/2児の父。

学生時代に、偶然に出会ったブラインドサッカーに衝撃を受け、深く関わるようになる。大学卒業後は、㈱ダイヤモンド社に勤務。一般企業での業務の傍らブラインドサッカーの手伝いを続けていたが、「ブラインドサッカーを通じて社会を変えたい」との想いで、日本視覚障がい者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。「サッカーで混ざる」をビジョンに掲げる。スポーツに関わる障がい者が社会で力を発揮できていない現状に疑問を抱き、障がい者雇用についても啓発を続ける。サステナビリティをもった障がい者スポーツ組織の経営を目指し、事業型非営利スポーツ組織を目指す。

 

参考:

ISBAブラインドサッカー世界選手権2014
日本ブラインドサッカー協会

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ブラインドサッカー世界選手権Vol.3 その先の、社会変革へ

 

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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