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Apr.

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24 Mar. 2015

音の可能性を追求する、サウンドデザインの未来

<音の活用で、製品の感性価値を高める>

デザインと聞くと、見た目の美しさを真っ先に思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?見た目の形状ではなく、音の快適さを追求するのがサウンドデザインです。音環境と言っても、芸術分野の音楽のことではありません。自動車、家電、オフィス機器など上質感が要求される製品に相応しい、快適かつ機能的な音を活用し、製品の感性価値を高めながら音環境を創造していくのです。たとえ車の内装の一部を、視覚的にリアルな美しい木目に見せかけて高級感を演出したとしても、触った時の音にギャップがあれば返って安っぽく、製品としてはマイナスイメージにもなり得ます。音をリアルに近づけるための研究はまだ始まったばかり。発展途上のサウンドデザインの振興と普及を図り、快適かつ機能的な音環境を構築することを目的に一般社団法人スマートサウンドデザインソサエティ(SSDS)が創設されました。

R0018190(2015年2月26日、第一回目となるSSDSシンポジウムが中央大学後楽園キャンパスにて開催)

 

<SSDS創設に込める思い>

SSDSシンポジウムでは、中央大学理工学部教授の戸井武司代表理事より、設立の主旨や活動方針について説明がありました。

サウンドデザインには、各種機器の動作音、サイン音、機能音などがあります。近年は低騒音化が進み、空間全体としての音は非常に静かになりました。それに伴い顕在化した小さな騒音は、単に音量を下げれば良いのではありません。たとえば、洗浄音は小川のせせらぎを連想させる音に、モーター音は森の中にいるような爽やかな音にするなど、ただ音量を下げるのではなく音をデザインし、心地良く演出することが求められています。他にも、回転するファンの機械音とピピッとなる電子音を融合して新しく音を創ったり、自動車の走行音で運転手の覚醒を維持したり、人がリラックスする機能を付加するなど、さまざまな視点から人の感覚を形成するデザインが期待されています。さらに音商標の認可が始まれば、音を統制することでサウンドブランディングを実現し、製品やサービスの価値を高めていくことが可能となります。

 R0018209(SSDS代表理事の戸井武司教授)

 

<商標は生きている。諸外国の事例から学ぶ音商標>

続いて、弁理士の本多敬子氏より「新しく始まる音商標の登録と諸外国の動向」についてお話がありました。これまで商標と言えば、商品やサービスを差別化するため、文字、図形、立体、色彩など見た目の識別に限られていました。2015年4月1日よりその対象は広がり、聴覚で認識される音商標の認可がスタートします。諸外国では音商標の歴史が長く、誰もが知っているインテルのCMの最後に流れる音(ピポパポン)やmacの起動音(ジャーン)、また「サロンパス」で有名な久光製薬のCM(ひさみつ〜)など、いずれも識別力があり、一般の人が「この商品だ!」とすぐにわかる音が商標として登録されています。日本での商標登録も、一般の人にどのくらい認知されているかという識別力が最大のポイントになります。時代が変わり市場が変われば識別力もまた変化することから、まるで生きているようだと言われる商標。日本企業の今後の動きにも注目していきたいと思います。 

<人の気持ちに寄り添う、サウンドデザイナーへの期待>

SSDS理事の藤澤孝史氏(株式会社T.C.FACTORY取締役)からは「エンタメ産業におけるサウンドデザインの実態」と題し、ゲームの起動音が創られるまでのプロセスを、機能面や情緒面などさまざまな角度から追求してきた事例をお話いただきました。
同じくSSDS理事の前田修氏(サウンドデザインラボ代表)からは「工業製品の商品性を高めるサウンドデザイン」と題し、前田氏が長年携わってきた自動車のサウンドデザインを例に、それぞれの音の意義を考えてデザインすることの重要性についてお話いただきました。車の色を選べるように、やがて車内の音も自由に選べる時代がやって来るそうです。日本では、自動車やバイクなど趣味性の高い分野を中心にサウンドデザインが発展してきましたが、多機能化や音商標の認可によって、今後さらに幅広い分野へ広がっていくことが期待されています。多様な人の気持ちに寄り添うことができる優れたサウンドデザイナーの育成は、SSDCの大きな役割の一つとなるでしょう。

<ダイバーシティ社会へ貢献する、ユニバーサルなサウンドデザインの可能性>

米国や英国では、障がい者を含む多くの人が利用する建物や公共の場所に「音と光の警報設備」の設置が義務付けられており、駅の売店や空港、博物館などへ展開されています。日本の法律では、これまで音以外の警報は想定していませんでしたが、多様性への取り組みが期待される2020年の東京オリンピック開催に向け、健常者はもちろん、音が聞こえにくい高齢者や聴覚障がい者、日本語がわからない外国人にも、音声アナウンスの内容や警告・通知音を伝えるための対応が進められています。たとえば、情報を伝える際に単に音を大きくするのでなく、それまで埋もれていた情報源となる音を浮かび上がらせるように周辺環境をデザインしたり、アナウンスや警告・告知音にあわせて、その内容と連動した文字情報や翻訳音声が手元のスマートフォンやタブレットにリアルタイムに表示されるなど、多様な視点から研究開発が進められています。
SSDSでは今後、諸外国の方々や障がいのある方々が識別しやすい音環境を創造する一方で、普及啓発のための表彰制度の創設などを検討しています。製品やサービスの価値を向上しながら、多様な人の快適さを追求するユニバーサルなサウンドデザインの可能性は、ダイバーシティ社会に大きく貢献することでしょう。

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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