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20

Apr.

2019

interview
19 Dec. 2013

新連載スタート!第1回★星の音が聴こえる世界

阿佐見綾香
戦略プランナー
阿佐見綾香

「星の音を聴くって、なかなか経験できないことでしょう。」

ユニバーサルデザインコンサルタントの松森果林さんは、軽やかに語る。明るい日差しが差し込む手話カフェ「Sign With Me」の中でも、松森さんの周囲はひときわ、ふわっと明るくなったかのように感じる。彼女が実は「聞こえない人」であることは、外見からは分からない。

10代で聴力を失った松森さんは「聞こえる世界」、「聞こえない世界」、「聞こえるときもあれば聞こえないときもあるという中途半端な世界」、の3つの世界を経験している。

障がい者へのインタビューで、「生まれ変わるとしたら、また同じ(障害のある)人生を選びたいと思うか」という質問がよく向けられるそうだが、松森さんはこれには躊躇いもなくYesと答えることはできないという。

「そんなの、ただの美徳ですよねぇ‥。現実は違うでしょう?」

朗らかに笑う、その華やかな姿からは想像し難いが、聴覚障がい者として生きる中で厳しい現実に直面することもあった。だからといって、「聞こえる人生がいい」というわけでもない。聞こえていたときの世界の魅力を知っているが、聞こえない世界の魅力も知っているからだ。

松森さんの半生を綴った著書『星の音が聴こえますか』の中で、こんなセリフが登場する。「こんなにたくさんの星が出ていたら、きっとうるさいんだろうね」。生まれつき耳の聞こえない少女の言葉で、「きらきら」「ぴかぴか」などの擬態語を、実際にある音だと思っていたというエピソード。

「私も、星をみていると音が聞こえてくるんだなぁって気がしてくるんです。」

健聴者にはなかなか経験できない、聞こえないならではの豊かな世界が存在するのだ。 

取材を行った手話カフェ『Sign With Me』。聴覚障がい者が立ち上げたこのカフェでは、手話が公用語だ。

取材を行った手話カフェ『Sign With Me』。聴覚障がい者が立ち上げたこのカフェでは、手話が公用語だ。

明るい日差しが差し込む店内には大きなホワイトボードが置かれており、思い思いに会話に使われる。メッセージを書きのこしていく人も多い。

明るい日差しが差し込む店内には大きなホワイトボードが置かれており、思い思いに会話に使われる。メッセージを書きのこしていく人も多い。

 

聴覚障害に生きるということ

聴覚障害は、視覚障害と並んで、外部からの情報をキャッチしにくい「情報障害」であることばかりに注目されがちだ。しかし、聞こえにくいことが生む最大の問題は、コミュニケーションをもとに人とつながり、社会とつながり、関係性をつくる部分で壁になる「コミュニケーションに関わる障害」であることだ。

一般的に「聴覚障がい者」と言うと「何も聞こえず、手話だけで会話して生活している」とイメージする人も多いかもしれないが、実際にはほとんどの聴覚障がい者は、音が聞こえているし、手話以外のコミュニケーション方法に頼っている。

手話をメインで使う聴覚障がい者も、他の手段を併用しながら健聴者ともコミュニケーションをとっている。平成18年厚生労働省の「身体障害児・者実態調査」によると、聴覚障がい者のコミュニケーション手段は、「補聴器や人工内耳等」が69.2%と圧倒的多数を占める。次いで「筆談・要約筆記」が30.2%、「手話・手話通訳」は18.9%だ。手話を使わない健聴者と共に生きてゆく中で、コミュニケーションにおける障害の壁をいかにして乗り越えるか、誰もが模索し続けている。

 

あなたの隣にも聴覚障がい者?!

6人に1人。

日本における聴覚障がい者の数だ。

平成25年度障がい者白書によると聴覚・言語障がい者は全国で36万人だが、日本補聴器工業会調査の「補聴器供給システムの在り方に関する研究」(平成14年度)によると、軽度の聴覚障がい者まで含めて全国で1944万人と推計される。人口にして15.2%だ。見た目に分かりにくいため気づかないだけで、聴覚障がい者はあなたも身近で、知らないうちに接しているかもしれないのだ。 

聴覚障がい者の出現率はなんと6人に1人!

聴覚障がい者の出現率はなんと6人に1人!

 

聴覚障がい者とコミュニケーションをとるということ

「ベストなコミュニケーションの取り方」は、個人の聞こえ方や、そのときどきの状況によって大きく左右されるため、簡単にマニュアル化することができない。

まず同じ聴覚障がい者といっても、聞こえ方で個人差が大きい。

音を耳の内部に届けるための「器官」に障害がある「伝音性難聴」の場合は、単純に音を大きくすればするほど、聞こえやすくなる。補聴器を装着したり、大きな声で話すだけでも、コミュニケーションの壁は大方解消される。

音を脳に伝える「神経」に障害がある「感音性難聴」の場合は、音としては感じても、言葉としてはっきり判別することが難しい。聴覚障がい者の多くは、こちらに該当する。音がボヤけるという状況は、「日本語なのに、外国語を聞いているような感じ」といえばイメージしやすいかもしれない。(伝音性、感音性の2つが混ざった「混合性難聴」も存在する。)感音性難聴の場合は、いたずらに音量を上げても、うるさく感じるだけで逆効果だ。

その他にも、音の聞こえる程度、言葉として聞き取る力の程度、左右の聴力、得意な音域と苦手な音域、難聴はいつからか(生まれつきか、中途か)等の違いで可能なコミュニケーションのレベルは変わってくる。また、話し相手の発音の明瞭さ、環境は聞きやすい状態か(騒音が無いか、音が響かないか)、会話の人数が多すぎないか、等の状況にも左右される。そのときどんなコミュニケーションの取り方がベストなのか、本人でも正確に判断できないことが多い。

だから、聴覚障がい者とコミュニケーションをとることを諦めてしまう人がとても多いし、聴覚障がい者側も、正確にコミュニケーションを取ることを諦めることが多いのが現実だ。

聴覚障がい者は、コミュニケーションで置いていかれたり、人に迷惑をかけたくないといった気持ちから、話についていけていないことを隠したくなる心理が働く。聞こえているふりをしたり、適当な返事をしてしまうことが、実はよくある。見た目に分かりにくい障害であるため、気づかぬ間にコミュニケーションが行き違い、つまらない誤解を生むことも多い。聴覚障がい者はこんなにも日本中に多く存在するのに、健聴者との垣根を取り除くことは容易ではない。

しかし社会で生きる以上、コミュニケーションは避けて通ることができない。松森さんを始め、聴覚障害を持ちながらも社会で活躍する人たちは、いかにして社会や人との関係性を築いてきたのか。

次回をお楽しみに!

 -この連載の記事-
→ 第2回★難聴のユニバーサルデザインコンサルタントの想い
→ 第3回★地道に種まいて、育てて、増やして、拡げて、続ける
→ 第4回★障害の向こう側にある、コミュニケーションの拡がりと深みの世界 

-Writer Profile-

プロフィール-4 阿佐見 綾香
2009年電通入社。ストラテジック・プランナーとして企業の商品やサービスのマーケティングや商品開発、リサーチ、企画プランニングなどを手掛ける。
電通ダイバーシティラボ電通ギャルラボに所属。
2012年12月に、中・高・大学生の女の子専門調査チーム「原宿可愛研」を創立。
日経トレンディネット「ギャルラボ白書」連載中。

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取材・文: 阿佐見綾香
Reporting and Statement: ayacandy-asamiayaka

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