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Apr.

2024

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24 Jun. 2020

ほどよく自分を愛することからはじめよう~Techo School Online~

八木まどか
メディアプランナー
八木まどか

6月12日「Techo School(手帳スクール) Online~障害者手帳を持つ『自分のプロ』から学ぶ学校~」というオンラインイベントが行われました。

このイベントはもともと、2018年3月 に障害者手帳を持つ経営者、弁護士、アーティスト、研究者など8名が独自の生き方を切り開いてきた「先生」となり、「学校」というスタイルのトークイベントとして虎ノ門ヒルズで開催され、多くの人に「こんな生き方があったのか!」と驚きを与えたそうです。

2018年3月「Techo School」の様子(虎ノ門ヒルズ、撮影:越智貴雄)

 

 

今、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの人が生活や仕事の変化を余儀なくされる中、「このままの働き方でいいのか?」と悩む声をよく耳にしたことが、オンラインでの開催理由だったと、モデレーターを務める澤田智洋さん(一般社団法人障害攻略課理事)は言います。

 

この日の先生は、ライラ・カセムさん(デザイナー/アートディレクター)と、菊永ふみさん(一般社団法人異言語Lab.代表理事)の2名。

ライラさんと菊永さんにとって、「自分を1000%活かす生き方」とは、一体どんなものなのでしょうか?

 

「あきらめる生き方」~ライラ先生より~

一人目の先生はライラさん。

 

ライラさんは自らのことを「一人国連」と呼びます。

脳性麻痺のため歩行に不自由があり、日本生まれで外国籍であることなど、様々なアイデンティティと一緒に生きているからです。

障害者、外国籍、女性・・・どこに行っても何かしらの阻害的な反応や指摘を受けたり、面倒な自己紹介などをする羽目になったりして、幼い頃はモヤモヤすることが多かったそうです。

また、10代の思春期の頃に移住したイギリスで出会った、高校の美術の恩師から「気になったら調べろ」と教わり、この習慣がついたことで「相手に興味をもつこと、そして、大切なメッセージを伝えること」ができるようになり、その後のグラフィックデザイナーの仕事に活かされたと言います。

 

その後、インクルーシブデザインの手法に出会い、サラエボの印刷会社で聴覚障害のあるスタッフと共にデザインプロジェクト関わる中で、自分の多様なアイデンティティからなる立ち位置や頼られ方に気づきます。日本へ帰国し、東京藝大の大学院で足立区にある障害者施設と協働し、障害者のアート活動のサポートや、商品開発の方法の研究を開始。その後研究成果を発表したところ、「支援や指導の方法を教えて!」と様々な施設や団体から言われました。この経験からライラさんは、デザイナーとしての自分をあきらめ、今は障害をもつアーティストと企業をつなげて商品を作るなど、アートディレクターとしての仕事を中心に活動しています(シブヤフォントSHIRO Lab. など)。

 

この「あきらめる」ことがライラさんの生き方のポイントの一つでした。

ライラさんは「一人国連」だったことから、いつも小さな「あきらめ」をしてきたと言います。だからこそ別の方法を試すことができたと考えているそうです。つまり、ライラさんにとって「あきらめる」とは「次のアクションを起こすための、心のスペースを作る」という大事な営みでした。

 

アクションと言っても大げさなことではなく、ライラさんが恩師から教わった「気になったら調べる」ことも1つのアクション。この、フィジカルな動きは、自分の頭の中のモヤモヤから離れるために大事なことだと言います。また、ある哲学的な考え方で、身体にこだわるのではなく、心が満たされることが大切だと気づき、悩んでいた10代の頃に楽になった経験から、何かに向かっているほうが、自分らしくいられると感じたそうです。

 

また、今の日本の状況について「言葉が大切。いま、言葉が足りていない!」とも言います。

たとえばイギリスは言葉を大事にする国だそうで、新型コロナウイルスの感染者も多く、この数か月は苦しかったものの、人々はユーモアを忘れず、言葉によって心を通わせているとライラさんは見ています。日本語も、漢字にルートを持っていたり、様々な地方の言語や方言、手話など本来は言葉が豊かな国。今、言葉を問い直すべきと言います。たとえば、ライラさんは母親から「障害のことは絶対に謝るな」と教えられ、それをずっと守ってきたそうです。そのため「そのタイミングで『すみません』って言葉は必要なの!?」などと投げかけてきたと言います。

 

障害とは、「社会や環境のあり方で物事がうまくいっていない状態」のことだとライラさんは考えます。その意味で、今は世界中で多くの人が思わぬ障害を持っている時だと言えるかもしれません。逆に「私は、今まで鍛えてきたから全然辛くない!」とライラさんは笑います。そして、今こそ自分を見返して自分らしさを取り戻すチャンスだと。

 

澤田さんも、「皆さんもライラさんのように、あきらめるプロフェッショナルになるチャンス」とコメントされていました。

 

 

「連鎖が連鎖をうむ働き方」~菊永先生より~

二人目の先生は菊永さん。 

菊永さんはろう者のため、この日は自身の手話と、手話通訳者の声によって伝えるスタイルでオンライン授業をしました。

 

幼い頃から補聴器を付け、口の動きを読み取ったり、発音の訓練を受けてきた菊永さん。小学1年生の時から家族と共に地域の手話サークルに入り、手話の勉強も始め、大人のろう者と交流する機会もありました。小学校は一般の学校で過ごしたものの、高学年になるとお喋りについていけなくなり、中学・高校はろう学校に通います。そして浪人時代、大学時代を再び一般の学校で過ごします。卒業後は聴覚障害児を対象とした福祉型障害児入所施設に就職しました。2015年のある日、友人に体験型エンターテイメント「謎解きゲーム」に誘われたことで人生が大きく動き始めました。

 

このゲームでは、数人で組むグループで協力して謎や暗号を解かなければクリアできません。共に取り組んだチームは、手話がちょっとできる友人と初対面の聴者二人でしたが、声を出したり、身振りで示したり、筆談したり、友人の手話通訳など様々な手段を使ってお互いにコミュニケーションを取り、みんなで協力してゴールを目指したことがとても楽しく、菊永さんは働いている施設の園長にすぐその体験を話しました。

 

すると園長が「企業の社員と、ろうの子どもたちによる手話交流会で、それを企画しては」と提案。菊永さんは「異言語脱出ゲーム」と題し、聴者とろう者・難聴者が同じチームで手話やジェスチャー、筆談などを使いながら取り組めるようにアレンジしました。この企画が大好評で、交流会に参加した企業の担当者から「自社内の研修でもこの企画をやってほしい」と依頼を受けて2年間で7回程実施しました。

さらに、ろう者で映画監督である牧原依里さんの後押しを受け、渋谷にある共創プロジェクト施設「100BANCH」に参画することに。

 

そして、菊永さんは2018年「一般社団法人異言語 Lab. 」を立ち上げます。

 

その後、  吉本興業とのコラボやNHKでの放映、国立国語研究所と音声言語として琉球諸島の方言を使ったアレンジなど、様々な企業・団体からオファーを受けて「異言語脱出ゲーム」は成長していきます。

 

なぜこのように、よい連鎖が続いたのか?菊永さんはその理由を「聴者の世界とろう者の世界の両方を行ったり来たりしている中で、『コミュニケーションの通じなさ』『他者とのズレと関わり合うこと』の楽しさ・喜びを味わったこと」「人一倍、伝えたい・分かりたいという気持ちが強いこと」に加え、「たまたま謎解きが好き」だからだと分析します。

 

これに対し、ライラさんは「菊永さんと話していると、3%くらい気が抜けちゃう時があるけれど、逆にそれが、相手に次の行動を促すことになるのでは」とおっしゃいます。

また、澤田さんも「人は情報がありすぎると思考がストップしてしまうこともある。けれど菊永さんは入ってくる情報が少ないからこそ、自分から情報を取りに行く姿勢になるのでは」と気づいたそうです。

このことは菊永さん自身も「人に言われて初めて気づいた」と、また新しい自分の一面を知った様子でした。

 

様々な特徴を持った人が参加したオンラインイベント

今回は、登壇者の菊永さんはろう者であるのをはじめ、様々な障害のある人が生徒としても参加したので、どんな人でも楽しめるように工夫がされていました。たとえば、2時間のイベント中ずっと手話通訳やUDトーク (音声の自動文字おこしアプリ)がつき、イベント中でも随時チャット欄で使い方について質問を受付けていました。

また、「ヤジリテーター」という、話の途中でいい意味でヤジるファシリテーターの方々がいてくれたおかげで、バラエティー番組を見ているような雰囲気でした。さらに、登壇者のジェスチャーが豊かだったり、「そろそろ疲れちゃった~」とチャットに書きこまれたりしてゆるい雰囲気だったので、視聴したこちらもリラックスして楽しく学ぶことができました。

菊永さんたちが即興で考案した「手帳スクール」の手話をして、記念撮影

 

ほどよく自分を愛している

2人の生き方に共通するのは「自分を愛するプロであること」「人よりも肩の力が抜けていること」だと感じました。なぜなら、2人とも自分の興味に正直で、悩んでも無理に正解を求めず、ほどよく自分を愛していたからです。働くうえでの困難を自分なりに突破した経験を聞き、この数か月間、制限された環境で何をすべきかモヤモヤしていた私にとって、心が軽くなった瞬間でした。

 

Techo School Onlineは、今後も月1回のペースで開催し、次回は7月31日20時から開催。先生としてのゲストは、中嶋涼子さん(車椅子インフルエンサー)と井谷優太さん(サウンドクリエーター/パフォーマー)です。
詳細はこちらをご覧ください。

中嶋涼子さん

井谷優太さん

 

少し肩の力を抜いて、一緒に「あたらしい働きかた」を考えてみませんか。

 

取材・文: 八木まどか
Reporting and Statement: yagi

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