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29 Mar. 2022

ふらりと訪れて浮世絵の世界を体感「UKIYO-E PROJECT in 丸の内ハウス」

半澤絵里奈
編集長 / プロデューサー
半澤絵里奈

東京駅に隣接する新丸ビル「丸の内ハウス」オープン15周年アニバーサリー第一弾として3月31日(木)まで開催されている「UKIYO-E PROJECT in 丸の内ハウス」を訪れ、UKIYO-E PROJECT FOUNDERの三井悠加さん(冒頭写真。以下、三井さん)にもお話を伺った。

KISSとのコラボレーション。彼らの激しいパフォーマンスが脳裏に再現されるような作風。

イベントスペースに足を踏み入れると飾られているのは15点の浮世絵。
UKIYO-E PROJECTの1つ目の特徴は浮世絵を取り扱うだけでなく、現代の感性で新しい作品を生み出していること。今回飾られている15作品もすべて2014年以降につくられている。そして、2つ目の特徴は革新性のあるプロデュースがされているということ。ロックバンドKISSやアイアンメイデン、デヴィッド・ボウイらミュージシャンとコラボレーションした役者絵や、日本以外にオリジンを持つ絵師を迎えて現代の江戸の風情を風景画として遺す取り組みをしている。

日本の美学を愛したデヴィッド・ボウイへのオマージュ作品は発表当時の個展も大盛り上がり。

『時鐘江戸俤(夕暮)』の順序摺。一番右に飾られているのが完成形。



展覧会を実施するときプロジェクトの創業者でもある三井さんは「順序摺(じゅんじょずり)」を飾ることが多い。「順序摺」とは浮世絵の制作工程がわかるように、摺の回数毎に作品化しているもの。本イベントでは、デヴィッド・ボウイの作品に加えて川越の風景を『時鐘江戸俤』として作品にした順序摺も飾られている。

摺りはじめから順を追って眺めていくと、次とどこが異なるのかわからないほど精巧な技術によって変化をした1枚もあれば、背景が大きく加わって絵の印象ががらりと変わる1枚もある。この動的な鑑賞方法もまた完成した浮世絵だけを眺めるのとは一味違った趣がある。


浮世絵は、絵師・彫師・摺師によって作品が完成するが、本イベントでは、摺師・小川信人氏による摺の実演も行われた。
お馴染みの北斎作品である『神奈川沖浪裏』についてすべてのプロセスをじっくりと見せていただくことができ、顔料を調合する難しさや職人が少なくなって和紙の希少性が上がっていることなども教えていただいた。





他にも浮世絵が最も栄えた江戸時代、版木や顔料、紙を無駄にしないようにされてきた工夫や知恵は非常にサステナブルなものだったことを伺えた。例えば版木は両面に絵が彫られていたり、何千枚と浮世絵を摺って版木が摩耗した際には再度版木を平たく削って新しい版下絵を彫り直したりしていたようだ。

 

今後は後継者育成と複数芸術としての面白さに力を注ぎたい

精力的に新しい作品をプロデュースし、展覧会も数多く企画・実施する三井さん。筆者も何度かお声掛けをいただき彼女のプロデュースする場やUKIYO-E PROJECTのオフィスに足を運んできた。

これまでも後継者育成のむずかしさや重要性についてはよく伺っていた。

国内外で日本の伝統文化に賞賛が集まる一方、効率性のよい技術が発展し、消費スピードも速い現代において、時間をかけて技術を磨き上げ職人として素晴らしい作品を遺していくことは容易ではない。職人の技術力、育成する師たちの存在、作品を愛でる人々の存在、パトロンの存在、時代にあったコンテンツプロデュース/PRなど多くの要素があって初めて成り立つ後継者育成なのかもしれないと三井さんのお話を伺って思う。

だから三井さんは、浮世絵が多くの人の目に触れ、体験してもらう機会として展覧会や職人の実演、ワークショップなどを数多く企画しているし、音楽事務所を経営する経験を生かして絵師・彫師・摺師のマネジメントや育成も行う。国外にも拠点を置き、日本的な視点だけに捉われない作品のプロデュースにもチャレンジする。

 

次は何を企んでいるのだろうと思った。

三井さんは言う、「浮世絵は複製芸術ではなくて、複数芸術なんです」

つまり、コピー機で刷られるものとはまったく違う。
同じ版でも摺師が1枚ずつ手摺りで摺り重ねて完成する作品なので、一つとして同じものがない。だから、浮世絵を購入する際には、同じ図柄の作品をいくつも並べてじっくり眺め、お気に入りを探したりする。

 

「複数芸術のキーとなる『彫・摺』の技法で新たなマーケットの創出をしていきたい」

後継者育成・浮世絵という技術の継承のため、浮世絵の愛し方をより多様化していくため、これまでの伝統を大切に守りつつ、浮世絵作品に関わる人や技術のすそ野を拡げていくようだ。まさに浮世絵がその名前の如く現代を映すものであるように、三井さんと彼女の仲間たちが新しく生み出していく世界をこれからも楽しみにしている。

 


本イベントは、2022年3月31日まで新丸ビル7階の丸の内ハウスで開催。

 

浮世絵劇場 from Parisは5月8日まで(Ⓒ角川武蔵野ミュージアム)


また、現在角川武蔵野ミュージアムでもUKIYO-E PROJECTが協力した『浮世絵劇場 from Paris』が開催中。こちらは360度映像に包まれ全身で浮世絵の世界を感じられるインスタレーション体験ができるようで、会期も2022年5月8日までと延長が決定しているのでもうしばらく楽しめそうだ。

UKIYO-E PROJECT

浮世絵の「浮世」は「今」「現代」という意味があり、各時代に人気のあった美人や歌舞伎役者、観光スポット等が描れてきたUKIYO-E PROJECTは、その浮世絵のスタンスを現代にいかしたいという考えの基、2014年三井悠加氏により発足された現代の版元であり、現代のスターや風景を伝統木版画で表現している。浮世絵職人の新たな需要を創出し、技術を後世に伝承していく新たな展開は、世界中で高く評価され、大英博物館(ロンドン)、やオーストリア応用美術博物館(ウィーン)、マイアミ大学図書館などに所蔵されている。

取材・文: 半澤絵里奈
Reporting and Statement: elinahanzawa

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