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Mar.

2024

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17 Dec. 2014

ブラインドサッカー世界選手権 Vol.2 代々木で起きた熱狂

林孝裕
cococolor事業部長 / cococolor発行人
林孝裕

静かで熱い熱気に包まれて

11月16日(日)〜24日(月・祝)の9日間、国立代々木競技場で開催されたIBSAブラインドサッカー世界選手権2014。過去最高の12カ国もの強豪が参戦した激しい戦いの末、日本は初の6位入賞を果たしました。優勝はブラジル、準優勝はアルゼンチンと、ともにサッカー強豪国としてもおなじみの南米の二カ国です。

今回の大会は観戦チケットを有料販売していますが、これは障がい者スポーツの大会としてはかなりチャレンジングなことと言えます。しかしながら開幕戦、決勝戦ともにチケットは見事完売。まさに熱狂の9日間となりました。

2020年にパラリンピック開催を控える東京が経験したこの9日間に、私たちは多くを学ぶことが出来そうです。

先ずは、行ってみるしかない!

編集部は日本代表の勇姿を求め、フランス戦とドイツ戦を観戦してきました。

11月19日(水)フランス戦》

日本代表は初戦のパラグアイ戦に勝利。第二戦でモロッコと引き分けた後、第三戦となるフランス戦を迎えていました。

代々木競技場フットサルコートに設けられたブライドサッカーコートと特設スタンド。世界選手権の開催はもちろん、このような場所でブラインドサッカーの試合が行われるのも初めてのことです。会場に近づくにつれ次第に大きくなっていく「ニッポン!」コール、それがブラインドサッカーという競技に向けられていること自体に私たちはワクワクしてきました。

竭。(熱気あふれるスタジアム)

会場に入るとすでに観客席は満員、ブルーのユニフォームを身にまとうサポーターたちでごった返し、あちらこちらに横断幕が掲げられ、日も落ちて吐く息も白くなる中、まさに熱気が渦巻き、誰もがキックオフを今か今かと待ち望んでいます。

今大会はスカパー!による全試合中継が実現したことを始め、開幕以降、NHK、民放キー局を含む多くのメディアでの報道があり、この日も取材クルーの一団がピッチを取り囲んでいました。多くの人がこれまで目にしてこなかったブラインドサッカーという未知のスポーツに、今、にわかに熱い視線が集まっている。そんな、なんとも言えない緊張感と高揚感に、会場は包まれていました。

③(ブルーのユニフォームに身を包む応援団が、日本チームに熱い声援を)

ブラインドサッカーは音を頼りにプレーするスポーツ。試合中は、観客は声や音を出すことは出来ず、静かに観戦するしかありません。その分より一層、試合の前やその合間に展開される応援には熱がこもります。

そんな中、ピッチ上に両国の代表選手たちが登場。目にアイマスクを着けたフィールドプレーヤー、そこに晴眼者であるゴールキーパーとガイド(コーラー)と呼ばれる相手ゴールの背後に回りゴールの位置を伝える役割の選手が加わります。大きな歓声が止むのを待ち、静寂の中で試合は始まりました。

~激しさ~

初めてプレーを観戦した人が驚かされるのは、その「激しさ」。選手同士、あるいはピッチを囲む壁と激しく衝突し、転倒もする。「すごい。信じられない。あれで見えていないなんて!」驚きの連続の内に、ぐいぐいと吸い込まれていく感覚です。

④(サイドには、選手がピッチ環境を認識するため、フェンス設けられていて、しばし熱い攻防が繰り広げられる)

我が目を疑うほどの「速さ」にも圧倒されます。アイマスクによって目を完全にふさいだ選手たちは、ピッチ上を所狭しと全力で走りまわり、当然のようにドリブルをし、パスをつなぎ、フェイントで敵をかわし、敵陣に襲い掛かっていくのです。

(激しく体をぶつけ合うシーンには、ハラハラさせられる)

「Voy!」(ボイ:スペイン語で「行く」を意味する言葉。ボールに向かう際、自分の存在を伝えるために声を出さなくてはならない)。選手たちはそう叫びながらボールに、そして敵に果敢に向かっていきます。特に壁際の攻防戦はさながらアイスホッケーのよう。タッチラインという概念がないブラインドサッカーでは、ラインの代わりに壁がピッチを取り囲むように立てられており、まさしくアイスホッケーのように選手達はこの壁に激しくぶつかっていきます。こうして、互いの体制や位置を確認し、縦横無尽にボールを運び、奪い合うのです。

~静けさ~

「惜しい!」あるいは「ファインプレー!」のシーンに出くわすと、思わず声をあげたくなるのもスポーツ観戦の常。けれどもそんな一言が、選手から音を奪い、ゴールのチャンスを奪ってしまいます。そんな時、熟練のサポーターから、観客席に声がかかりました。「どうか、静かにお願いします。みなさんの気持ちは良くわかります。私も声を出して応援したい。でもその声が選手達のチャンスを奪ってしまうのです。そこはぐっとこらえて、心の中で叫んで下さい・・・」。

応援そのものが、試合の繊細な流れにも影響を与えうる。その一瞬一瞬に真剣に耳を傾けるのは、選手も観客も一緒です。あまりにも迫力あふれるプレーを前に私たちは、それが目の見えない人たちによって行われているということ自体を、大げさではなく、本当に忘れてしまうのです。

⑥(白熱のプレーに思わず声をあげたくなる時も、観客はぐっと我慢)

しかし試合の中では審判も音には非常に気を使っています。例えば、試合中に突然、審判が試合を止めるということがありました。何があったのかと思うと、審判が指差した上空には飛行機が。飛行機の音が消えるまで試合をストップさせていたのです。

そうした静けさの中で続いていく試合。私たちが聞いている音の世界とはまた違う世界で、選手達はサッカーをしています。我々にも聞こえる「Voy!」という声や、選手同士が掛け合う声。キーパーや、ガイド、監督やコーチからの指示。「シャカシャカ」となるボールの音はそれほど大きな音でもなく、当然ボールが止まってしまうと聞こえなくなります。一方で壁にぶつかる音は激しく、見えている私たちでもドキッとします。
さまざまな音がありますが、選手達はそれら無数の重なりあう音をより繊細に聞き分け、周囲の環境を正しく認知し、プレーしているのです。単純な「静けさ」ではなく、むしろ音に満ちあふれた世界がそこにはあり、それによって選手達ははっきりと「見ている」のだと思いました。

 1対1でフランスに引来分けた日本代表は、グループ2位で予選を突破し、次に駒を進めました。

⑦(誰もが息を飲んだゴールの瞬間)
⑧(勝利のあと、アイマスクを外して喜びを分かち合う選手たち)

《11月22日(土)ドイツ戦》

決勝トーナメント初戦を同点の末PK戦に敗れた日本代表は5位入賞をかけてドイツと対戦。熱戦の末、1対0で日本が勝利しました。

東京のど真ん中、原宿駅から徒歩すぐというアクセスの良さもあり、世界選手権には、これまでブラインドサッカーに触れたこともなかった、多くの観客が訪れました。友達の友達に誘われてきた、初めてみたといった声も多くきかれました。

小学校3年生の男の子を連れた男性は「テレビで見て、子どもが来たいというので連れてきました。仕事で障がい者に関わることはあったのですが実際にブラインドサッカーを見るのはこれが初めて、子どもにも良い経験をさせられたと思います」。お子さんも「目が見えないのに、あんなプレーが出来て本当にすごいと思いました。見られてよかった。」と興奮冷めやらぬ様子。

グラウンド脇から観戦していた、田中章仁選手の奥さん、秩香子さんは「みんなが団結し、力を発揮していると思います。この世界選手権が、ブラインドサッカーを知るきっかけになってくれたら嬉しいです」と話してくれました。

新しい世界を体験<併設イベント:“新しい世界デイ”>

この22日(土)から24日(祝)までの三日間同時併催イベント「新しい世界デイ」が開催されました。これは、今回の大会開催にあたり、日本ブラインドサッカー協会が実現したもう一つのチャレンジです。

日本ブラインドサッカー協会は「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」というビジョンを掲げています。この併催イベントではそうしたビジョンのもとに様々な障がい者スポーツの体験やダイバーシティに関わる活動などが紹介されました。サッカーについてはブラインドサッカー以外の障がい者サッカーが日替わりで紹介されました。

<ロービジョンフットサル>

ロービジョンフットサルは、全盲ではない視覚障がいをもった人びと対象としたスポーツです。視覚障がいと一言で言っても、視野の一部が遮られるように見える人、色彩認知が困難な人、見え方はさまざまです。ロービジョンサッカーでは、ブラインドサッカーと違って、目をアイマスクで覆うことなどはせず、音のするボールも使いません。ただひとつ、見えにくさを考慮したいくつかの種類の色や模様のボールを使います。そして、試合前には選手が集合し、複数のボールを転がしそれらを眺めながら、参加者にとって最もプレーしやすいものを両チーム全員の合意で決めるとのこと。つまり選手によって見え方や見えにくさに違いがある「見え方の多様性」を前提にプレーのルールを決めるのです。そう言った意味ではより、違いに敏感な、ダイバーシティなスポーツと言えるのかもしれません。

会場では、ボランティアの方々や選手の方々が、視覚障がいの違いについて、説明をしながら、体験の場を提供してくれていました。

実際に視野狭窄を体験できるゴーグルを着装してプレーしてみましたが、狭まり、見えにくい視界からボールが一瞬消えただけで、向かう方法を見失いそうになり、不安な気持ちになります。また全体にモヤがかかったような状態のものなど、プレーをするにはおそらく条件によって全く異なる技能が求められることは容易に想像ができました。それはサッカーのプレーのみでなく、社会生活においても同様であることは説明の必要もないことでしょう。

⑨(ロービジョンを体感できるマスクをつけ、ボールの見え方を確認)

⑩(着用するゴーグルによって、異なる視覚を体験できる)

この他、車椅子バスケの体験コーナーや、視覚障害者向けに開発された、香りの付いた砂絵を使った国旗の展示など、さまざまな体験コーナーがあり、代々木公園を訪れた多くの人たちが足をとめていました。

⑪(車いすバスケットボールの体験コーナー)

⑫(ブラジルではメジャーだと言う、ボタンを使ったサッカーゲーム)

⑬(視覚障がい者にも楽しめるよう香りの付いた砂絵によるアートプロジェクト)

次なる戦い

国内での次なる闘いの場は、国内リーグ。関東では12月6日(土)山梨会場から世界選手権後の最初のプレーがキックオフ。ついで、12月14日(東京.福生)、1月18日(新宿)と試合は続きます。入場・観戦は無料。是非この機会にその目で確かめてみてはいかがでしょうか。


参考:

ISBAブラインドサッカー世界選手権2014
日本ブラインドサッカー協会

関連記事:

ブラインドサッカー世界選手権Vol.1 新しい世界へのキックオフ!
ブラインドサッカー世界選手権Vol.3 その先の、社会変革へ

 

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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