みんスポ・ソーシャルドリンクスVol.4 -サッカーでつなぐ・つながる。
- 共同執筆
- ココカラー編集部
<サッカーを「みんな」のものに>
ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例ヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」。第4回目は「サッカーでつなぐ・つながる」をテーマに、日本サッカー協会グラスルーツ推進部部長の松田薫二さん、そして認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓さんをゲストに開催されました。
<これまでのサッカーとの関係を変える「グラスルーツ宣言」>
日本代表チームの育成など、日本のサッカー業界を牽引し続けている、公益財団法人日本サッカー協会(以下、JFA)。2014年5月15日、JFAは「だれもが、いつでもどこでも、安心・安全に、サッカーを楽しめる」ことを目指す「グラスルーツ宣言」を発表しました。Foodball for All、つまり「みんなのためのサッカー」の提唱です。
一人目のプレゼンテーター、松田薫二さんの所属するグラスルーツ推進部は、「グラスルーツ宣言」の実現のため、今年1月にJFAに設立されました。松田さんは、これまで常識的に捉えられてきた「サッカーとの関わり方・楽しみ方」を超えた世界を広げていくためには「意識改革」が必要だと語ります。
進学や就職、卒団などによる引退が当たり前とされる現状から、気持ちがある限り続けられる「引退なし」の世界に。レギュラーになれない大多数の人は万年補欠という状況から、誰もがレギュラーとして活躍することができる「補欠ゼロ」を可能とする機会づくりに。施設を借りないとサッカーができないという前提にしばられず、遊休地や廃校などを活用するなどの方法で「施設づくり」をしていく発想に。「障がい者サッカー」は別々にプレーするものという捉え方を超え、一緒に楽しむというマインドに。そして、自分たちが楽しむだけではなく、スポーツを通じて「社会課題への取り組み」にも取り組んでいくように。
(進学などによる環境変化に伴い継続が困難だったり、レギュラーのポジションを得るためにピラミッドの頂点をめざすといった「強化・一環指導型」から、誰でも、いつからでもスタートし、好きなだけ続けることができるマンション型・長屋型の「普及」の流れをつくることを目指す:松田さんのプレゼンテーションより)
こういった流れを受け、今年4月22日には国内の7つのサッカー団体が連携し「障がい者サッカー協議会」が発足しました。こういった連携はこれまでにない画期的なイニシアティブとして、注目されるものと言えるでしょう。
JFAグラスルーツ推進部では、今後、現状調査や奨励制度の提供、ファンドレイジングやモデル事業の共有などに精力的に励んでいく予定とのこと。サッカーを楽しむ、そしてサッカーを通じてより楽しみが広がっていく場を、自分たちでつくっていこうと多くの人に呼びかけていきたい。「グラスルーツ(草の根)」という一見柔らかな印象を持つ言葉の背景には、これまで「当たり前」とされてきた捉え方を改めて見つめ直し、サッカーの持つ可能性により鋭く切り込む、チャレンジ精神が感じられます。
(日本サッカー協会グラスルーツ推進部部長の松田薫二さん。プレゼンテーションタイトルは「もっと楽しいスポーツライフを」)
<サッカーにつながる「生態系」を育てる>
松田さんからのプレゼンテーションが主にサッカーのプレイヤーからの視点であったとすると、続いてのゲストスピーカー、認定NPO法人「育て上げネット」の理事長・工藤啓さんのプレゼンテーションは「サッカーをしない人」も含めた「サッカーを取り巻く生態系」という観点からのものです。
トルコやギリシャなどを旅した際に、言葉が話せなくても、その国のサッカー選手の名前をあげただけで大いに盛り上がり、居酒屋で居合わせた人にビールを奢ってもらったという経験を持つ工藤さん。サッカーには、言葉を超えて人をつなぐパワーがあります。そして、日本に多く存在する、サッカー漫画の数々。その漫画を読んだことがある人なら、必ずしもサッカーをしたことがなくても、そのストーリーをネタに盛り上がることでしょう。つまりサッカーとは「ボールがなくとも、みんなをつなぐことができるコンテンツ」なのだと、工藤さんは指摘します。
世の中にはサッカーが好きな人ばかりではないから、「サッカーをすること」を前提に人をつなぎ・巻き込むには一定の限界があると言えます。けれども「サッカー」という言葉の周辺に存在する人たちにまで目を向け、つながりを見つけていくことで、「サッカー」を接続役とした、さまざまなコミュニティを結びつけていくことができる。工藤さんは、サッカーやスポーツとつながる人や団体に目を転じることで、それらを取り巻く「生態系」がつながり・育っていくことに可能性を見出しているのです。
(サッカーには、多様な個人や組織、コミュニティーをつなぐ力がある。シカゴ大学のロナルド・バート教授のストラクチュアル・ホール(構造的な隙間)理論を参照しながら、工藤さんはサッカーやスポーツの可能性を説いた)
工藤さんの経営する「育て上げネット」は、若年無業やひきこもり状態などの、働きたいけれど働けずにいる若者の自立をめざして、就労・学習支援などを提供する非営利団体です。その支援対象者の多くは、生活困窮者など、サービス対価を支払うことが困難な状況にある人たち。そこで、事業を成立させるためには、この活動に賛同し、資金的支援を提供してくれる「第二顧客」を育てることが必要となります。ここでも必要となるのが、ある課題・テーマに対する「当事者」だけではなく、そこにつながる接点を見出し「つながり」に目を向けるという視点。テーマ・課題領域に関わる「生態系」を広げることが、やはりポイントとなるのです。
例えば、サッカーの試合を観にきた人たちに、自宅から不要な古本を持ってきてもらい、それらを集めて販売した収益を東北の復興支援へと活用する。例えば同じ居酒屋で飲む焼酎に、復興支援金分を価格に上乗せしたバージョンも打ち出してみる。そういった、日常の行動動線のプラスαの部分に着目することで、多くの人たちから、無理のない方法で支援金を継続的に集められるしくみを生み出すこともできる。
(育て上げネット理事長の工藤啓さん)
新しい社会的価値の創造にチャレンジし続ける非営利団体の活動に裏付けられた「つながり」を育むヒントの数々がとても印象的でした。
<サッカーをきっかけに考える「つながり」「広がり」>
ゲストスピーカーからの話題提供を受け、全体のトークセッションでも活発な意見交換が行われました。
例えば、最近はサッカー禁止の公園も増えてきている、という現象については「ルールは誰かが決めたもの。変えることだってできる。みんなで考え、変えていくことも醍醐味かもしれない」(工藤さん)
「ひきこもり」の人など、関わるきっかけを持てなさそうな人たちにもアプローチする方法は、という問いには「全戸配布の『市民だより』に掲載したり、同じような活動をしている団体と連携してより多くの人たちに届ける道筋を考えていける」(工藤さん)
日本にサッカーを定着させるためには、という質問には「ヨーロッパでは、どの街にも教会があるのと同じように、街にサッカークラブが定着している。学校スポーツとしてサッカーが広がってきている背景を持つ日本には、日本らしい広がり方がきっとある」(松田さん)
この他、多くの意見の交わされた、熱気あふれる会場でした。
(トークセッション。ファシリテーション役は日本ブラインドサッカー協会理事長の松崎さん(右))
<サッカー「から/と」つながることへのインスピレーション>
前回に引き続き、満員御礼となった今回のみんスポ。最後に会場に集まった多様な方々のコメントを紹介します。
「サッカーでいろんな人とつながることができるという、これまで考えたことがなかった話を聞けておもしろかったです。海外の人とも、サッカーでつながってみたい」(育て上げネットを支援している日本アイ・ビー・エムの社会貢献部小川さんの中学1年生の息子さん)「日本をリードするスポーツであるサッカー業界の方からこういう話を聞けたことがよかったです。年齢も経験も関係なく、優越を競うだけでなく楽しんでいけるのがスポーツ。補欠を出さない、引退がないといった考え方にとても共感しました。僕たちも仮設クライミングウォールを購入し、出前型で体験イベントができるようになったので、多くの方に体験していただきたいです」(NPO法人モンキーマジック小林さん。モンキーマジックや小林さんの活動は「視覚障害者と一緒にクライミング。見えてきたことは?」で紹介しています)
「渋谷区にある各国大使館の協力を得て、その国の文化などを学びながら行うワールドサッカーのようなことができたら面白いと思っています。例えば、今日はトルコ語でしか話しちゃいけない、というような縛りを設定してみると、プレーする側だけではなく応援する側も盛り上がりそうですよね」(NPO法人シブヤ大学上田さん)「スポーツはダイバーシティにつながるテーマ。難民支援活動とは違う世界のようだけれど、テーマとしてはつながりあっていると思う。可能性を感じました」(NPO法人難民支援協会吉山さん)
みんスポから生まれ育ちつつある「生態系」は、今後どんな発展を見せるでしょうか。次回、みんスポ・ソーシャルドリンクスVOl.5は、6月5日の開催です。
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18 Nov. 2022
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