みんスポ・ソーシャルドリンクスVol.5 –みんなのパラリンピックをつくろう!
- 共同執筆
- ココカラー編集部
<「みんなの」パラリンピックを考える>
ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例ヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」。第5回目は「みんなのパラリンピックをつくろう!」をテーマに、公益財団法人日本ケアフィット共育機構理事・事務局長の高木友子さん、Dreampic-International Great Charity Festivalを開催したシブヤ大学の上田晋さん、 そして電通ダイバーシティラボメンバーであり「みんスポ・ソーシャルドリンクス」の主催者の一人でもあるcococolor副編集長の林孝裕の3人をゲストに開催されました。
<サービス介助士が日本のスポーツ観戦文化を変える>
58,820人。これは2014年に厚生労働省が発表した100歳以上の高齢者の数です。平均寿命世界一を誇る長寿国家日本では、65歳以上の高齢者の割合は2014年で4人に1人(25%)、2035年には3人に1人(30.9%)にも及ぶと言われています。こうした高齢者や障がいのある方たちが安心して外出し、社会生活を営むことをサポートする上で期待されているのが、サービス介助士の存在です。公益財団法人日本ケアフィット共育機構はこのサービス介助士の資格発行や企業研修などを通じて、すべての人にやさしい社会の実現を目指し、これまで1,000を超える企業に研修を実施し、現在は12万人を超えるサービス介助士が公共交通機関、デパートなどで活躍しています。
(外出をサポートするサービス介助士(左)/リレーションセンターのロゴ(右))
「誰もが楽しめる観戦環境をつくること」を目的に、2014年11月に開催されたIBSAブラインドサッカー世界選手権2014で、ブラインドサッカー協会発案のもと、同機構が初めて開設協力したのが「リレーションセンター」です。ここでは、障がいのある人や一時的に体の機能が低下している人でも試合観戦を楽しめるようにと、サービス介助士の資格を持ったスタッフが常駐し、障がい者への情報提供や案内誘導の対応を行いました。不便な思いをさせるからと「障がい者割引」を設けるのではなく、同じ料金設定で観戦してもらう代わりに、十分楽しんでもらえるよう提供するサービスの質をあげる。そして、スポーツ観戦を「誰もが楽しめるもの」にすることを当然の前提にしていく。2020年のパラリンピックでは、このような発想の転換をもたらす象徴的存在として、リレーションセンターが評価されることも期待されるでしょう。同機構は、2015年5月から、日本ブラインドサッカー協会と連携し、リレーションセンターTASKALの他競技への普及や、障がい者への介助方法を教える授業「おも活」の推進を行っていくそうです。
(公益財団法人日本ケアフィット共育機構理事・事務局長の高木友子さん)
<音楽・スポーツ・アートで2020年パラリンピックを盛り上げる>
続いてのプレゼンテーションは、シブヤ大学の上田晋さん。渋谷区の教育員会スポーツ推進委員も務めていた上田さんは、音楽・スポーツ・アートの力で、2020年のオリンピック・パラリンピックを、一市民の立場からでも、世界中のアスリートやアーティスト、子どもたちが集い、つながる場にしていきたいと「World Dreampic 2020」を提唱し、そのキックオフ・イベントを2015年3月に代々木第二体育館で開催しました。IBSAブラインドサッカー世界選手権2014ではハーフタイムイベント全てのコーディネートを手がけた上田さんは、それをきっかけに出会い、熱い想いを共有した人たちと早速に動き出す飛び抜けた行動力には、驚かされるものがあります。その日は、子どもたちの夢を叶える技術「原田メソッド」の提唱者・原田隆史さん、なでしこジャパン澤穂希選手のトレーナー山田晃広さん、世界的ファッションデザイナーの桂由美さんなど、賛同を得たゲスト陣もとても豪華。北京オリンピックの開会式でも披露された、傘に世界中の子どもたちの笑顔をプリントするmerry projectの作品、世界プラインドサッカー選手権2014でも好評だったマイケル・ジャクソンパフォーマンスのアースデイwithマイケルのパフォーマンス、阿波踊りや和太鼓などなど「当日はかなりカオスだった」そうですが、兎にも角にも草の根的な活動を一定の規模のイベントに育てるという実績を積んだことには間違いありません。(ブラインドサッカー世界選手権2014のハーフタイムでも人気だった、アースデイwithマイケルのパフォーマンス)
「音楽・スポーツ・アートの力で2020年のオリンピック・パラリンピックを盛り上げたいと準備を重ねていますが、もし採択されず国立競技場に入ることができなかったとしても、惜しくもオリンピック・パラリンピックの選考に漏れてしまった選手や各種競技団体の方々、オリンピック・パラリンピックが夢である子どもたち、かれらを応援している人たちなど、いろいろな人たちを世界中から集めて、「勝手にセカンド・オリンピック・パラリンピック」を開催してしまう、なんてことも考えているんです」。関わりを持つことによって、より主体的に参加したい!という気持ちを一つ一つ実現させる。2020年に向けて、どれだけ大きなムーブメントが育っていくのか。予想を心地よく裏切ってくれるような、期待を感じさせるプレゼンテーションでした。
<あらためて「みんなのスポーツ」を考える>
そもそも「みんスポ=みんなのスポーツ」がこれからどうして必要とされるのでしょう。このイベントが本質的に目指すものは何か?みんスポとはそもそも何か?三人目のプレゼンテータとして、みんスポ・ソーシャルドリンクスの主催者の一人でもあり、cococolor副編集長でもある電通ダイバーシティー・ラボの戦略プランナー林孝裕から改めて投げかけがありました。
これまでの「みんな」が表してきたものは、いわゆる「マス」や「マジョリティ」と呼ばれる枠の中の人たちです。けれども、それは多くの枠の外の価値を見落とさせる罠にはまった概念であり、これからはダイバーシティという観点で視野を拡大し、多様な人たちを含む「本当のみんな」に視点を切り替えることが求められていきます。
そんな前提のもと「スポーツ」という切り口からはどんな可能性を見出していけるのでしょう。そもそも「スポーツ」というものは様々な価値や機能を内包もしくは付帯し得る、マルチ・ファンクショナル(多機能的)な存在であり、人間の根源的な欲求においても、社会文化的な側面においても、また経済的な側面においても、他に比するものがない程のポテンシャルを持った、ダイバーシティ社会の実現にも大きな力を発揮するものであるはずです。
しかしながら現在スポーツの多くは、「健常者スポーツ」と呼ばれるものと「障がい者スポーツ」というものに分けられていて、そのふたつの間には大きな溝が存在し、オリンピックとパラリンピックも、その構造の上で認識されてきたと思われます。
ダイバーシティという切り口も「障がい者スポーツの振興」に関心が向いがちですが、それは本当にダイバーシティと言える考え方でしょうか。豊かなダイバーシティ社会の実現を目指すのであれば、むしろこのふたつのスポーツの間の隔たりを越えたひとつの「ダーバーシティスポーツ」と言える概念を生み出し、スポーツが本来もつポテンシャルを最大限に引き出し、それをうまく機能させていくことで、社会のダイバーシティ化をうまく進めていくことができるのではないでしょうか。そしてそれこそが「みんなのスポーツ」の目指すべきものではないでしょうか。
障がい者スポーツ」と呼ばれるものの中には、①競技スポーツとしての可能性、②障がいがある人でも参加できるダイバーシティスポーツとしての可能性、③高度な技術の力によって人体の能力を最大限に引き出す、技術プレゼンテーションの機会としての可能性、④ダイバーシティについて学び合う教材としての可能性が秘められています。
「障がい者スポーツ」が持つ固有の価値にヒントを得ながら、「健常者スポーツ」も「障がい者スポーツ」も融合した「みんなのスポーツ」の可能性をみんなで考えていきたい。そのエンジンとして、このみんスポ・ソーシャルドリンクスは位置付けられるのではないか。だからこそ、この場では「みんスポ」というコンセプトにおいて、自分には何ができるか、何をしたいのかを話し合って頂きたい。プレゼンテーションはそんな呼びかけで締めくくられました。
<みんなのパラリンピック実現に向けて>
3人のゲストトークを受けて、会場では全体セッション/個別にと、さまざまな意見が共有されました。「障がい者」という表記はどうあるべきかという議論について。例えばそんなことも「いろいろな考えを持った人がいること」を前提に考えると「どれか一つ、絶対的に正しいという答えはない」と捉えることがむしろ重要なのではないか。社会の中で解釈の違いによって起こる誤解や見解の不一致の多くも、こんな風に多様な「みんな」を前提とした場を共有することで、解決していくのかもしれません。
最後に会場に集まった多様な方々のコメントを紹介します。
「4月からCSRを担当していますが、人々が触れ合える社会をつくる上で、スポーツは重要な役割を持っていると感じています。健常者も障がい者も交えたみんなのスポーツの可能性について考える、いいきっかけを得ました」(株式会社丸井グループCSR推進部野﨑さん)「フットサル大会を開催し、そのコートと同じ広さの地雷原を除去するNPO(GLOBE PROJECT)の活動をしています。スポーツには、人と課題をつなぐハブとなり、社会課題の解決へとつなげていく力があると感じています」(東京ヴェルディ栗原さん)
「いろいろな現場に足を運び、話を聞くことの大切さを実感しました。これからも多様な人たちを受け入れ、みんなで一緒に楽しめるスタジアムづくりを目指して行きたいです」(F.C.TOKYO宮本さん)「スウィーツのまちとして売り出している藤枝市から来ました。スポーツとスウィーツを組み合わせて、スウィーツ運動会といった企画も考えられそうですね」(ユウ工房瀧本さん)
次回、みんスポ・ソーシャルドリンクスVOl.6は、7月3日の開催です。
<追伸>みんスポロゴ
「みんスポ」のロゴマークができました!!今回のトップ画像がそれです。
色々な色が重なり合いながら、色々な形を作り出していきます。
皆様ご愛顧のほどよろしくお願いします!!
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