パラリンピック・ムーブメント、入門しました。
- cococolor編集員 / ライター
- 伊藤亜実
2018年3月9日~18日、平昌にて冬季パラリンピックが行われました。私は、現地に5日間滞在し、初めてパラリンピックにやってきた観客の視点、マーケターの視点という2つの視点で大会を体験してきました。
短期の滞在でしたが、そこでの体験は、単にスポーツ大会を「観戦した」だけではなく、今後も続いていくパラリンピック・ムーブメントの「一員になった」という感覚で、今後の人生が少しずつ変わっていくようなものでした。
2年後にやってくる東京パラリンピックでも、きっと多くの人が小さな気づきや学びを得て、日々の行動が少しずつ変わっていくのを実感するのではないでしょうか。
やがて、日本がもっとインクルーシブになる、もう少し先の未来に、「2020年のパラリンピックがターニングポイントだった」「インクルーシブ元年だった」と振り返られる、そんな夏になることでしょう。
とはいえ、パラリンピックの価値は、まだまだ多くの方に伝わっていると言えないのが現状です。そこで、ここでは私の目を開かせた「パラリンピックの価値」を、入門編として5つのポイントでご紹介します。
- 世界大会の高揚感・特別感を、アットホームに楽しめる。
ご存知の通り、パラリンピックはオリンピックの後に行われますので、メインのスタジアムなど、同じファシリティを活用して競技が行われます。会場に足を踏み入れて、最初に目にするのは、万国旗や豪華な会場装飾です。やはり、オリンピックが培ってきたノウハウは素晴らしく、観客として、「ここに来られて良かった!」と一発で感じる空間演出が随所に施されています。
一方で、パラリンピックは、チケットが購入しやすく(価格、競争率の面で)、会場内も混雑しすぎていないので、オリンピックよりも気軽に楽しめます。
平昌は、今大会に向けて開通した高速鉄道のおかげで、韓国の首都ソウルから1時間ほどとアクセスが良く、地元韓国の家族連れや学生が来場していて、会場の雰囲気はとてもアットホームでした。
パラリンピックは、大人も子供も気負わず本格的なスポーツレジャーを楽しめる、またとないチャンスなのです。
- 初めて体験する「インクルーシブ社会」のショーケース
パラリンピック会場では、トイレや通路など、移動しやすさに配慮された会場設計や工夫がそこかしこで見られます。
また、今回の会場は車いすエリアに、座席も設置されていて、車いすユーザーと介助者が離れてしまうことなく、感動を共有しながら観戦することができるようになっていました。
また、会場のあらゆるところで、義手や義足、車いすを使う方や、視覚障害を持つ方と触れる機会があります。隣に居合わせた初対面の車いすユーザーと健常者が、競技の感想を話している姿を見たり、車いすの高さに調整された物販ブースやスロープを、自分も使い、恩恵を受けたりします。
日本では今、健常者と障害者は日常生活の中で分離されて、交流することが少なくなっているので、パラリンピックという共通のコンテンツを持ち、感動を共有したり、同じ空間で一緒に楽しむ経験自体が、多くの人にとっては貴重な機会になるのではないでしょうか。
大会での体験全体が、インクルーシブ社会のショーケースであり、未来社会へのタイムスリップになるのです。
- 「私たちを代表してくれてありがとう。」という感謝と誇り。
日本代表勢は今回、メダル10個という好成績を修めましたが、中でも現役大学生アスリートの村岡桃佳選手は、一人で金を含む5個のメダルを獲得するという偉業を成し遂げました。
幸運なことに私たちは、到着したその日に、彼女の金メダルセレモニーに参加することができました。金メダルを首にかけた村岡選手の表情を見ながら、そして、君が代が流れる中で挙げられていく日本の国旗を見上げながら、月並みですが「日本を、私たちを代表して戦ってくれてありがとう。」と、感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。
日本代表勢初の金メダルだったこともあり、村岡さんを見守る他選手たちの背中からも、その感動と興奮と熱気が伝わってくるような、特別な瞬間に立ち会うことができました。
パラアスリートを「自分の代表」だと感じ、強い誇りと感謝の気持ちを持つこと、その体験は、心のバリアフリーの大きな第一歩になると感じました。
- パラリンピック独自アクティベーションは、存在感と説得力が違う。
オリンピックは、世界最大規模のマーケティングチャンス。VIPが訪れ、最大の祝祭期間となります。しかし、まだまだその価値が認識されていないパラリンピック期間は、近年の大会でも、企業パビリオン等の規模が縮小してしまう、というのが現実です。
そんな中、パラリンピック期間にもパビリオンを継続し、中にはパラリンピック独自でのクリエーティブ開発を行う企業も存在します。
今回はVISAが目立っていて、パーク内最大の拠点の一つであり、多くの人が訪れるスーパーストア等に、パラスキーのクリエーティブを設置していました。
パラリンピックをマーケティングに利用すると反感を買うのではないか、という危惧の声を少なからず聞きますが、大会本番の熱気の前では、それは杞憂ではないでしょうか。
選手の姿に共感し、尊敬し、応援する姿勢は、自然と表現に現れますし、選手の姿に感動した観客や関係者に対して、その思いは必ず届きます。
起業の真摯な気持ちと表現が、観客の心に届いていく、またとない機会になります。
- 前例がないから、すべてが先進事例になれる。
19世紀末に始まり、1984年のロサンゼルス大会から大規模化、商業化が進んできた近代オリンピックと比較すると、パラリンピックは、2000年代に入ってから急成長を遂げてきた、まだまだ成長期のスポーツ大会です。オリンピックとは異なるマーケティングルールも作られており、例えば、選手の胸につけるビブスに企業ロゴが掲出することが認められています。
今回私たちは、IPC(International Paralympic Committee)のメンバーとディスカッションする機会も持つことができ、彼らは、あらゆる新しい取り組みを歓迎する、と繰り返し強調してくれました。あらゆることが先進事例になるのです。
そして、印象的だったのが、「If only I knew・・・」(=「もっと早くに知っていれば」)という言葉です。過去のパラリンピック開催都市関係者が、「パラリンピックがこんなにも素晴らしいものだと知っていれば、もっといろいろな取り組みをしたかったのに」、と、大会終了時に決まって後悔する、というのです。
そんなもったいないことがあるでしょうか。私たちは、2020年を後悔するわけにはいきません。
幸いなことに、Tokyo2020では「パラリンピックの成功無くしてTokyo2020の成功無し」と言われ、大会ビジョンでも多様性と調和を掲げるなど、パラリンピックへの取り組みの姿勢を、早くから表明しています。
あと2年、いよいよTokyo2020への準備が本格化します。
ここからが先進事例のつくりどころです。