cococolor cococolor

27

Jul.

2024

event
26 Sep. 2022

チーフ・ダイバーシティ・オフィサーフォーラム CDOは日本の組織で何を実現するのか? 取材レポート

硲祥子
副編集長 / Strategic Planner
硲祥子

8月22日、筑波大学インクルーシブ・リーダーズ・カレッジ主催で「チーフ・ダイバーシティ・オフィサーフォーラム」が開催されました。企業経営においてもダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の視点が不可欠になる今、D&I推進のけん引役としてチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)というポジションを経営幹部に置く企業が欧米企業を中心に定着しています。今後日本でもCDOが一般化していくことを見据え、日本におけるCDOのあり方、育て方、そして今見えている課題や可能性について探っていくプログラムです。

日頃から日本の企業におけるダイバーシティの実現に関心を寄せていた私ですが、恥ずかしながら「CDO」という職について知ったのは今年のこと。(最初は、チーフ・デジタル・オフィサーのことかな…?と一瞬頭をよぎってしまったほど。)実際にCDOを担っていらっしゃるパネリストの方々からお話が聞けるということで、非常に楽しみにしながら参加しました。

 

日本でCDOを設置して、ダイバーシティに取り組む意義

パネルディスカッションに先駆けて、まずは株式会社カレイディスト代表取締役 G20 EMPOWER 日本共同代表の塚原月子さんより、世界や日本におけるCDOとDE&Iをめぐる現状についてのシェアリングが行われました。

最初に触れられたのは、「ダイバーシティ」をめぐる潮流について。「社会的意義の変化」「概念の進化」「ターゲットの拡大」「アプローチの進化」「スコープの拡大」「グローバル化」など、様々な視点でアップグレードされ、今や企業価値を左右する中心的・横断的な経営アジェンダのひとつとしてダイバーシティがより重視されるようになり、だからこそC-職(CEO、CFOといった事業や部門の最高責任者)でダイバーシティを扱う必要性がますます増加しているとのこと。非常に興味深かったのは、日本のCDOを設置しダイバーシティを取り組む意義として「日本企業はどうしても、目標設定や取り組みが『現状からの改善』発想になりがち」という塚原さんのご指摘。ビジョンが不明瞭だと、女性の役員の比率を現状の〇%から〇%に上げよう!といった表層的な目標が掲げられたり*、本質的な課題にアドレスできなかったり、といった問題が起こるため、CDOなどのリーダーによる“ビジョン発想”の取り組みが非常に大きなドライバーになるということでした。
*注)あくまで表層的な目標の立て方への問題提起であり、目標値設定そのものを否定するわけではありません。

 

先行企業から学ぶ、日本の組織におけるCDOの目指す未来とは

企業におけるCDOの役割の重要性を理解したところで、すでに日本企業でCDO設置に取り組んでいる先進的な事例として、4名のパネリストから自社の取り組みやCDOとしての働きについてお話いただくセッションへ。

 

登壇パネリストは以下4名。※敬称略、番号は発表順

  1. ⼭岸裕美(アサヒグループジャパン株式会社 執行役員 DE&I Diversity, Equity and Inclusion室 室長)
  2. 北⾵祐⼦((株)電通グループ 電通ジャパンネットワーク 執行役員 Chief Diversity Officer (株)電通そらり 非常勤取締役)
  3. 鍋嶋美佳(東京海上ホールディングス株式会社 執行役員 人事部長 グループダイバーシティ&インクルージョン総括)
  4. 種家純(ANAホールディングス株式会社 執行役員 グループCDO グループDEI推進部長)

 

4名のパネリストの皆様は業種もキャリアも様々。それぞれの会社で、それぞれのやり方で、CDOとして企業のDE&I推進にまい進していらっしゃいますが、面白いほどに共通していたポイントが4つありました。

まず一つ目が、DE&Iの考え方について。「女性の仕事と育児の両立を支援」のフェーズを超え、「社員全員が“活躍”」できる組織を目指す、というもの。

“CDOとして何を実現するか、ひとつだけ選べと言われたら「全員活躍」。” ―北風さん

二つ目が、取り組み方について。ひとつの会社単体の取り組み、もしくは欧米拠点だけの取り組みで終わらせず、きちんとグループ全体としてビジョンを宣言し、DE&Iの推進体制を構築すること。

“ANA一社だけではなく、ANAグループ全体としてのD&I宣言を発表した2015年が、会社のDE&Iにとって大きな転換点に” ―種家さん

三つ目は、DE&Iの意義について。ただ働く環境として“DE&I”な状態を目指すだけではなく、それにより企業価値向上を目指し、企業の成長・進化の重要な原動力としていくということ。

“ジェンダーギャップ解消のためにはパイプラインの強化も必要。キャリアステージごとに自律的に参加できるキャリア構築支援策を実施。そして個人の成長が企業の成長につながる” ―鍋嶋さん

そして最後に、DE&I推進にはボトムアップとトップダウン、両輪のアプローチが必須であり、CDOがそのハブの役割を果たすべきということです。

“DE&I室は22年4月~人事部から離脱し社長直轄の組織になり、DE&I室をハブとしてDE&I委員会、DE&Iサポーター会議の両輪を回している”―山岸さん

 

いずれも、DE&Iを一部マイノリティ当事者だけの問題として閉じさせず、組織全体がコミットすべき課題として自分事化させていくための工夫が感じられるポイントでした。

 

その後のパネルディスカッションでは、モデレーターの方、そして参加者の方から寄せられた質問について議論が交わされました。

たくさんのテーマがありましたが、議論の内容を少しだけピックアップしてご紹介します。

そして最後に、今回のお題である“CDOが実現すること”に答えて頂き、プログラムは終了となりました。

ひとりひとりの“個”に向き合い、自分自身も“個性”を発揮できるリーダーに

合計2時間を超える濃密なプログラムでしたが、最後に感じたのはCDOの目指すダイバーシティの根幹は“個”にあるという、痛切なメッセージ。属性のかたまりで問題を捉えるのではなく、個人の悩みや思いに向き合うことが、ダイバーシティの始まりだと皆様からそれぞれの言葉で伝えられたように思います。

そしてもう一つ、パネリストの皆様のキャリアや個性の多様さも非常に印象的でした。DE&Iのバックグラウンドを持ち、CDOに着任するケースが多い欧米とは異なり、DE&I知見を持つ人材がまだまだ少ない日本だからこそ実現できる、日本ならではのCDO像のヒントが垣間見えたプログラムでした。

 

取材・文: 硲祥子
Reporting and Statement: shokohazama

関連ワード

関連記事

この人の記事