いま、日本はどのくらいジェンダー平等ですか? ― 3,000人への意識調査から考える
- リサーチャー
- 中川紗佑里
ジェンダー・ギャップ指数2020 153か国中121位*1
衆議院の女性議員比率 9.9%*2
経済的な権利を巡る男女格差 190か国中80位*3
日本のジェンダー不平等を客観的に示す指標やデータは、枚挙にいとまがありません。では、実際に日本で生きる人びとは、社会の現状をどのように捉えているのでしょうか。
上に挙げたような数字が示す通り、人びとの意識の中でも日本のジェンダー不平等は深刻なのでしょうか。はたまた、日本社会は意外と平等であると映っているのでしょうか。
その問いに答えるため、電通総研では、3月8日の国際女性デーに向けて、全国の18~79歳の3,000人を対象に「ジェンダーに関する意識」を調査しました。社会・教育・経済・メディアなどの側面から、日本のジェンダー平等/不平等についての人びとの意識を捕捉することが目的です。
本題に入る前に、1つお断りしておくことがあります。本調査では、回答者をできるだけ正確な日本の縮図に近づけるため、日本の性別・年代の人口構成比に基づいて回答者を割付しています。その人口構成比の拠り所となる国勢調査が男女二元論的な性別区分を採用していることから、本調査でもそれを踏襲せざるを得ません。回答者のジェンダー多様性を確保しながら正確性の高い社会調査をおこなっていくことは、今後の課題としたいと思います。
では、調査結果を見ていきましょう。まず、「社会全体」において「男女は平等になっていると思いますか」と尋ねたところ、64.6%の人が「男性の方が優遇されている」または「どちらかというと男性の方が優遇されている」と回答しました(図1)。一方、「女性の方が優遇されている」または「どちらかというと女性の方が優遇されている」と回答した人の割合は8.8%、「平等」と回答した人は26.5%でした。男女別に見ると、女性の「男性優遇」の回答率は75.0%で、男性よりも20.9ポイント高い結果となりました。
「職場」「学校」「家庭」「法律・制度」「慣習・しきたり」「メディアでの扱われ方」という6つの分野についても同様の質問をしたところ、「男性優遇」の回答率は「慣習・しきたり」「職場」において半数を超えていました(図2)。「平等」の回答率がもっとも高いのは「学校」で、73.1%と突出しています。「女性優遇」の回答率は、全体的に「男性優遇」よりも低いものの、「家庭」と「メディアでの扱われ方」において高く、どちらも約15%です。
さらに、上記の6つの分野における「男性優遇」の回答率を男女別で比較したところ、もっとも差が大きかったのは「法律・制度」(27.9ポイント)でした(図3)。つまり、「法律・制度」についての平等感には、男女で大きなギャップがあるということです。残りの分野でも、「男性優遇」の回答率には男女で10ポイント以上の差が確認されました。
以上のことから、日本で暮らす約4人に3人にとっては、日本の「社会全体」は、それが男性優遇であれ女性優遇であれ、ジェンダー不平等なものであると捉えられていることがわかりました。しかし、分野によってジェンダーの平等感は異なり、「教育」では平等感が高く、「慣習・しきたり」「職場」などでは平等感が低いということも明らかになりました。また、「男性優遇」の回答率には、回答者の性別により大きな差が存在したことから、ジェンダー・ギャップに対する意識にも、大きなジェンダー・ギャップがあると言えるでしょう。
米国のPew Research Center(ピュー・リサーチ・センター)という調査機関が2019年に実施したGlobal Attitudes Survey(グローバル・アティチュード調査)でも、日本は意識のジェンダー・ギャップが大きいことが指摘されています*4。日本において「男性がもっているのと同じ権利を女性もいずれもつだろう」もしくは「すでにもっている」と回答した男性は77%であるのに対し、女性は58%に留まり、両者には19ポイントの差があります。他の多くの国でも女性よりも男性の方がジェンダー平等の達成を楽観的に見通していましたが、日本の意識の男女差は調査対象の34か国の中でも最大です。今回の電通総研の調査は日本のみを対象としていますが、もし他国でも実施したらグローバル・アティチュード調査と同じような傾向が出るのか気になるところです。
少し脱線しましたが、改めて今回の調査をまとめると、
・多くの人びとにとって、日本の社会全体はジェンダー不平等である。
・人びとのジェンダーの平等感は、分野によって異なる。
・ジェンダーに関する意識には、ジェンダー・ギャップがある。
という3つのことが明らかになりました。
みなさんはこの結果を見て、どのように感じましたか。読者の中には、自分と違う意見の人が大勢いることに、または数は小さくても存在すること自体に驚いた方もいるかもしれません。「会社は男社会なのに、どうして女性の方が優遇されていると思う人がいるんだろう?」とか、「法律とか制度って誰にでも平等なんじゃないの?」と思った方もいるでしょう。
定量調査では、自分と同じ/異なる意見を持つ人の存在が数として可視化されます。見た目はただの数字でも、それぞれの回答者にはその選択肢を選ぶに至った理由があり、その理由を一つ一つ丁寧にひも解いていく必要があります。今回の調査でも、それぞれの分野が平等ではないと感じる理由について自由回答で記述してもらいました。その結果、いくつかの代表的な争点は明らかになったものの、それらは相互に関係し合っており、社会全体として、そして社会のあらゆる局面で、ジェンダー平等に取り組んでいく必要があると感じました。この調査が分断ではなく、すべての人が生きやすい社会の実現に向けた対話を生むきっかけとなるように、これから分析を深めていきたいと思います。
※調査の詳しいレポートはこちらをご覧ください。
*1 世界経済フォーラム「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート2020」(http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf)
*2 「第5次男女共同参画基本計画:参 考 指 標」に掲載された2020年11月時点の数値(https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/5th/pdf/sanko.pdf)
*3 世界銀行「Women, Business and the Law 2021」(https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/35094/9781464816529.pdf)
*4 ピュー・リサーチ・センター(2020)「Worldwide Optimism About Future of Gender Equality, Even as Many See Advantages for Men」(https://www.pewresearch.org/global/2020/04/30/worldwide-optimism-about-future-of-gender-equality-even-as-many-see-advantages-for-men/)
●調査概要
調査名:「電通総研コンパス」第6回(ジェンダーに関する意識調査)
調査時期:2020年2月5日
対象地域:全国
対象者:18~79歳3,000人 ※高校生除く
調査方法:インターネット調査
調査会社:電通マクロミルインサイト
●本調査内容に関する問い合わせ先
電通総研 山﨑、中川、馬籠
E-mail:d-ii@dentsu.co.jp