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Dec.

2024

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30 Apr. 2024

【レポート】Wellbeing conference「多様性を力に。Equileapのデータに見るDE&Iの進化」

中川紗佑里
リサーチャー
中川紗佑里

Equileap(エクイリープ)は、企業セクターにおけるジェンダー平等に関するデータとインサイトを提供する、オランダ拠点のNGO。管理職や取締役会の男女比、男女間賃金格差、育児休業やセクハラに関する方針など、21項目にわたる独自の包括的な「Gender Equality Scorecard™」(ジェンダー平等スコアカード)を用いて、世界中の約4,000社の上場企業を調査・ランク付けを行っている。

2024年3月8日(金)、「Wellbeing conference ──これからの社会と私たちのウェルビーイング」(Business Insider Japan とMASHING UPのコラボレーションにより開催)が実施された。注目のキーノートセッション「多様性を力に。Equileapのデータに見るDE&Iの進化」には、エクイリープのCEO、ダイアナ・ヴァン・マースダイク氏が登壇。世界5,600社以上の企業を評価してきた経験をもとに、DEIの重要性とビジネスへの影響、世界のダイバーシティ推進の動向、そして日本の課題について語った。本記事は、マースダイク氏のプレゼンテーションのレポートである。

ダイアナ・ヴァン・マースダイク氏(エクイリープ CEO/Co-Founder) © Equileap / Wellbeing conference / Business Insider Japan / MASHING UP

 


 

■ なぜエクイリープはジェンダー平等に関するデータを提供するのか?

© Equileap / Wellbeing conference / Business Insider Japan / MASHING UP

こちらは日本企業を含む、世界4,000以上の上場企業のデータです。企業のあらゆるレベルで、驚くほど大きな男女比の偏りがあるのがわかります。女性比率はそれぞれ、CEOで6%、取締役で28%。そして、企業活動において最も重要な役員レベルではたった20%です。大企業として知られる、先進国の上場企業でさえこの数字です。

私たちエクイリープのミッションは、職場における不平等をなくすことです。全ての人が平等な機会を持てるよう、ジェンダー平等に関する最も包括的なデーターベースを提供しています。エクイリープのデーターベースは、先進国・新興国問わず世界45カ国以上で活動する、大・中規模の上場企業5,600社のデータから構成されており、9年間のデータの蓄積があります。

このデータを基に私たちは指標を開発し、資産運用会社や年金基金にデータを販売しています。そうすることで、ESG投資に「ジェンダー・レンズ」(ジェンダー視点)もしくは「ソーシャル・レンズ」(社会視点)を加えることができます。投資家の方々には、「ESG統合」(投資先を選定する際に、従来通りの財務情報だけではなく、非財務情報も含めて分析する手法)のために、このデータを使用していただいています。なぜなら、E(環境)やG(ガバナンス)に関するデータはすでに良いものがありますが、S(社会)に関するデータは十分にないからです。

 

■ エクイリープ「ジェンダー平等スコアカード」

© Equileap / Wellbeing conference / Business Insider Japan / MASHING UP

こちらが、みなさんにご共有したい最も重要なシートです。私たちが企業の調査の際に確認する指標が書かれています。例えば、カテゴリーAは「意思決定層や従業員のジェンダーバランス」に関するもので、取締役・役員・上級管理職・管理職・従業員の女性比率、従業員から上級管理職に昇進する女性の割合、CEO・CFO・会長の女性比率という項目が含まれています。

また、私たちの指標は女性比率を数えるだけでなく、企業の文化や方針も考慮しています。「平等な報酬とワークライフバランス」に関するカテゴリーBでは、男女間賃金格差に加え、育児休業や柔軟な働き方の選択肢を調べます。カテゴリーCの「ジェンダー平等を推進するための方針」では、セクハラを許容しない方針の有無や、自社のサプライチェーンで働く女性の権利を守っているかなどを見ていきます。

そして、カテゴリーDは「コミットメント、透明性、説明責任」です。「女性のエンパワーメント原則」(WEPs)に署名しているか、ジェンダー監査を受けたことがあるかが含まれます。

私たちはこれら全ての項目のデータを収集し、最終的なスコアを出します。そのためにも、一社一社丁寧に調査します。私たちは公開された年次報告書やCSRレポートをチェックするだけでなく、企業に直接連絡し、データの裏付けを取ります。希望する企業はさらに情報を提供することも可能ですが、私たちのスコアに使用されるのは、公開されているデータのみです。スコアカードの日本語版は、エクイリープのウェブサイトから請求していただくことができます。

 

■ なぜジェンダー平等はビジネスにとって重要なのか?

私たちのジェンダー平等スコアカードで高いスコアを獲得した企業の多くが、低いスコアの企業よりも業績が良いことがわかりました。

© Equileap / Wellbeing conference / Business Insider Japan / MASHING UP

実際、アメリカの資産運用会社グレンミード・トラストが数年前に行った独自の調査があります。彼らは、ラッセル1000(米国のラッセル・インベストメンツが公表するラッセル3000指数の構成銘柄のうち、時価総額などを基準に上位約1000銘柄を構成し、それに連動する時価総額加重方式の指数)の全企業を、エクイリープのジェンダー平等スコアに従ってランク付けしました。すると、スコアが上位20%の企業の業績は、下位20%の企業を、約2.5%上回っていたのです。つまり、企業におけるジェンダー平等の実現は、社会的に良い影響があるだけではなく、業績にとってもポジティブに働きます。

 

■ 最下位脱出も、さらなる改善が期待される日本企業

日本企業の総合スコアは、2022年の32%から、2023年は36%と、4ポイント改善しました。私たちが日本企業の調査を開始してから数年間、日本は最下位でした。しかし、2023年はついに最下位を脱出し、上昇傾向にあります。特に男女間賃金格差の公開が飛躍的に進みました。これは企業の透明性の向上を義務付ける法律の施行によるものです。また、セクハラを許容しない方針により、報告件数が10ポイント増加しています。

© Equileap / Wellbeing conference / Business Insider Japan / MASHING UP

さらに、ジェンダーバランスも全てのレベルで改善が見られました。特に興味深かったのは、2021年〜2023年にかけて、大・中型株の企業の取締役における女性比率が2%から17%に向上したことです。ただし、役員や管理職、従業員における女性比率は微増にとどまっており、一層の改善を期待したいところです。

 


 

マースダイク氏によるキーノートの後は、ブリヂストンにてグローバルのサステナビリティ戦略を主導する稲継明宏氏と、SDGインパクトジャパン代表取締役であり、SDG実現のためのビジネスとファイナンスに携わる小木曽麻里氏によるディスカッションが展開された。識者による議論は、議論はジェンダーギャップに留まらず、日本社会・企業が直面する人権課題にも及んだ。

エクイリープのジェンダー平等スコアで万年低い評価を受けていた日本が最下位を脱出したのは、2023年のよいニュースだった。エクイリープによる2023年版の「Gender Equality Global Report & Ranking」では、2022年の女性活躍推進法の改正と、2023年からの男女間賃金格差、女性管理職比率、男性の育児休業取得率の開示義務化が、日本におけるジェンダー不平等の解消に寄与していると書かれている。

企業の透明性を高めるこれらの動きが評価される一方、職場での性差別への対応は不十分であると指摘されている。女性管理職の置かれた状況への理解を深め、働き方改革、育児中の従業員のワークライフバランスの向上を進めることが、本質的なジェンダー平等の実現にとって鍵となるという。

同レポートによると、日本の上場企業で女性のCEOは3名。対して、「あきら」という名前の男性のCEOは11人、「ひろし」は17人もいる。この歪さを変えていくためには何ができるか。まずはエクリープのスコアカードを見ながら、各社が自社の取り組みを見直すことが大切だと感じた。

取材・文: 中川紗佑里
Reporting and Statement: nakagawasayuri

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