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30

Apr.

2024

event
20 Apr. 2022

【前編】いま、刑務所と共にできること

増山晶
副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
増山晶

【レポート】「刑務所と協働するソーシャル・イノベーション」前編

3月17日、日比谷図書文化館にて、「刑務所と協働するソーシャル・イノベーション 誰も置いていかない社会のために、いま刑務所と共にできること」という公開カンファレンスが行われ、cococolorはメディアパートナーとして参画した。

ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)や、映画やドラマにもなった漫画『前科者』(小学館ビッグコミックオリジナル)など、昨今は刑務所と社会の関係を問うコンテンツが話題だ。

しかし、刑務所とソーシャル・イノベーション、さらにはサーキュラーエコノミーなどの循環型社会との関係は、すぐにはピンと来ない人が多いかもしれない。「誰も置いていかない社会」というキーワードに込められた新たな共生社会のあり方について、前中後編の3回に分けてレポートする。

*期間限定でアーカイブ動画配信中。
【公開期間】2022年4月5日~2022年5月5日

 

■カンファレンスアジェンダ 

・オープニングリマークス

・基調講演1:「刑務所と協働する企業が歩む、再犯防止と循環型社会への道のり」

・基調講演2:「地方創生と未来の刑務所のあり方」

・インスピレーション・トーク:進行:遠藤祐子氏(MASHING UP編集長)

1 再犯防止を目指してわたしたちにできること

2 サーキュラーエコノミーが刑務所のあり方を変える?

3 ソーシャル・イノベーションとお金の新しい流れ

・PFI刑務所事例紹介

・ワークショップ

 

■オープニングリマークス:いま、刑務所と共にできること

さまざまな分野で社会課題を解決すべく活躍中のソーシャル・イノベーターや企業のビジネスパーソンに向けて、刑務所との協働を呼びかける当カンファレンスは、「再犯防止」と「地域社会への貢献」を目標として掲げる。そこでキーワードとなるのが「PFI刑務所*」だ。

*PFI(Private Finance Initiative)刑務所:民間の資金とノウハウを活用して国と民間が協働運営する刑務所。現在日本にあるのは、美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)、島根あさひ社会復帰促進センター(島根県浜田市)、喜連川社会復帰促進センター(栃木県さくら市)・播磨社会復帰促進センター(兵庫県加古川市)、東日本成人矯正医療センター(東京都昭島市)の5か所。入所の対象となるのは主に「犯罪傾向が進んでいない受刑者」である。

 

開会に際し、実行委員会委員長で刑務所PFI事業を受託している喜田力氏(小学館集英社プロダクション)から紹介があった。

 

喜田氏「刑務所との協働ってどんなことだろうと不思議に思われている人が多いと思う。官民の協働業務として、受刑者の皆さんに職業訓練や更生のための教育プログラムの提供から刑務所内の食事や医療のほか、生活するために必要なサービスを担っている。この事業を始めるにあたって、企業として経験がなく『本当にできるのかな?』と不安な思いだった。が、ひとりでも多くの方が一般社会に復帰していくことのサポートという社会的使命感が募り、刑務所が社会の縮図と言われるように、社会課題の解決を我々が担っているという誇りも、従業員のすべてに生まれてきた。また、刑務所はその地域から支えられて運営されているという新しい発見もあり、職員の方たちとの触れ合いの中で理解が深まり、地方創生への活力の実例にもなっていると思う。本日は、国内外を問わず実践家、社会事業家、起業家の方々に、今求められているSDGs達成の示唆に富んだ取り組みもご紹介いただく。我々の刑務所運営事業の紹介、刑務所や再犯防止を絡めたビジネスアイデアを探るワークショップ含め、盛りだくさんな内容だが、ひとりでも多くの皆様が再犯防止への理解を深め、『誰ひとり取り残さない社会の実現』に向けた取り組みの第一歩となることを願う。」

続いて、元法務省人権擁護局長・矯正局長の名執雅子氏(NEC顧問)より、「刑務所と民間企業との協業-その経緯と展望-」として、今回のカンファレンスを受刑者や刑務所も仲間に入れて一緒に社会課題解決を考える場にしようとのお話があった。

 

名執氏「刑務所における民間協働の歩みから、私自身が目を見開かされた点をお話したい。2007年以降に官民協働刑務所が創設されて以来、これまで民間企業との協働、地域との共生には様々な試みがあった。ちょうど「開かれた刑務所」を推進しようとする時期。それまで閉ざされていた刑務所に外の視点がもたらされ、刑務所の運営も受刑者の処遇や教育の内容方法も大きく変わっていった。官の側にいて目を見開かされた3点は、①民間ネットワークを活用することによる官と民との相乗効果、②仕事の枠を超えて本質を追求する行動力、③市民を巻き込んだ地域社会との共生。新たな次元への期待として、刑務所は地域社会にどう貢献できるのかという、今日のカンファレンスのテーマがある。刑務所と受刑者を活用したソーシャル・イノベーションは、結果として再犯防止にも役立つ活動になるのではないかと思う。目指すべき社会のあり方は、持続する豊かな環境、偏見・疎外のない共生、再犯のない安心安全。今日は分野を超えた活発な意見交換に期待する。」

次に、カンファレンス企画のインフォバーン代表取締役 会長(CVO)小林弘人氏よりコンセプトやプログラムの紹介。

 

小林氏「これまで国内外で地方行政と企業、そして地域の人々と一緒に社会課題を解決する、その糸口を見つけるための学び、アイデアのぶつけ合いと言った場を創出してきた。最近感じている大きな変化は、社会課題解決にイノベーションを使うということ。これまで企業は自社製品やサービスといった文脈だったが、従来は慈善事業もしくはCSRで語られていたことが本業、もしくは新規事業としてメインテーマになりつつある。その理由としてひとつ言えることは、一社では限界があるということ。様々なセクターの方々と協働していくことで、この社会課題が解決できると信じている。本カンファレンスを通じて、共創のパートナーとして刑務所を選択肢のひとつに加えていただければと願う。」

©「刑務所と協働するソーシャル・イノベーション」実行委員会
中編に続く

取材・文: 増山晶
Reporting and Statement: akimasuyama

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