性について親子で会話しよう。「生教育プロジェクト」スタート。
- 共同執筆
- ココカラー編集部
自分の子ども、あるいは自分の親と「性」についてどのような会話をしていますか?
「自分から話題にしづらい」と感じて避けている人や、子どもをお持ちの方は「性について子どもとどのように会話したらいいのだろう?」と悩んでいるかもしれません。
もしくは、「性の知識は学校で教えるもの」だから家庭での教育は必要ないと思う人もいるかもしれません。
日本が「性教育後進国」と呼ばれていることをご存知でしょうか?
国際的な流れでは、2009年「性の権利としての「包括的性教育」を具体化するため、ユネスコで「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」が開発され、性教育の国際指針となっています。ここでは5歳~18歳に対して質の高い性教育を提供することと、人権と福祉、人権とジェンダー平等の尊重が示されています。
しかし、日本の教育現場は「はどめ規定(※)」によって教えることのできる領域が限られています。
※「はどめ規定」・・・中学校の学習指導要領では、体の成熟の過程やヒトの受精卵が胎内で成長する過程は教えられますが、「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という一文があるため、性交について教えることができません。これは通称「はどめ規定」と呼ばれます。
そのため、社会や家庭での性教育が重要となるのですが、性について語ることへの抵抗感・タブー意識がある日本では、性教育を受ける機会が十分とは言えません。
実際に、性教育が進まないことによって、子どもたちは様々な問題に巻き込まれています。
このような課題意識から、朝日小学生新聞と電通Femtech and Beyondは、命と性を親子で学んで語るための「生教育プロジェクト」を4月からスタートしました。
本記事では、プロジェクトメンバーの思いと、プロジェクトが目指す未来について紹介します。
コロナ禍で増加した「望まない妊娠」
プロジェクトの発起人は、メディアプランナーの米澤直也さん。新聞社を取引先とした業務に携わる中で、新聞社だからこそできる社会課題解決にチャレンジしたいと考えていました。
そんな中「コロナ禍で10代の望まない妊娠に関する相談数が急増している」という記事を見つけました。もともと子どもが好きだった米澤さんは、この記事についてさらに調べていくと、日本の性教育が国際基準より遅れていることを知りました。2021年から文科省による「生命(いのち)の安全教育」が開始され、プライベートゾーンに関する教育や、性暴力・性犯罪対策のための教育プログラムが開始されましたが、「はどめ規定」があるためにどうしても踏み込めない領域があるとわかりました。
学校教育で限界があり、また、性について語ることがタブー視されがちなことから、「どう伝えるか」が重要だと感じたそうです。そこで、部署の先輩に相談しメディアを巻き込んで企画を作ることにしました。
この思いに賛同してくれたメディアが「朝日小学生新聞」でした。
「性について発育段階にそった知識をつけていくことは、子ども達の将来にとって必要なことだと考えています。性自認、互いの尊重など幅広く親子で会話をする一助になれば」と感じ、今取り組むべきと判断してくれたそうです。
「生教育」を日常に
プロジェクトは、「生教育プロジェクト」と名付けました。「性」ではなく「生」をあえて使った理由は、包括的性教育の考え方を前提とし、性を学ぶことは自分自身を知ることであり、相手を思いやることにつながることだと、広い意味で捉えてほしかったからだと米澤さんは語ります。このプロジェクトは、親子で性について自然に話せるようになり、「生教育」が日常的に行われる社会になることを目標としています。
こうして、4月18日付朝日小学生新聞で、プロジェクト発足が発表されました。
コピーを担当したのはコピーライターの大重絵里さん。
ご自身も3歳と6歳の男の子を育てている中で、性教育の必要性を感じていたそうです。性を語ることに心理的ハードルがある親が多い中、親子の会話のきっかけとなれるよう、あえて具体的なワードを使い、かつ子どもにも身近な表現を心がけました。
また、ロゴと広告デザインはアートディレクターの坂川南さんが担当。
性教育を生きるための教育として捉えたこのプロジェクト名を、真摯でありつつ肩肘張らず取り組んでいけるようなデザインを心がけたとのことです。広告では、読者の子どもたちが自分ごととして捉えられるように、子どもがよく書くようなラフな落書きイラストを取り入れました。
4月20日以後、毎月20日に朝日小学生新聞に折り込まれる「朝小かぞくの新聞」にて編集コラムとして連載がスタート。コラム記事は家庭でできる性教育を発信するサイト「命育(めいいく)」が協力しています。コラムのバックナンバーは朝日学生新聞デジタルプラスでも読むことができます。
親世代の読者からの反響として「面と向かって子どもと性の話をするのは恥ずかしかった」「関心はあったが、伝え方やタイミングが難しいと感じていた」「自分自身が、性教育をちゃんと受けた記憶がないので、子どもにどう教えればいいかわからなかった」という声が寄せられたそうです。また、子どもから性について質問を受けたことがある、と回答した読者も多かったとのこと。
プロジェクトでは、賛同してくれる企業を募って活動を広げていく構想です。米澤さんたちが製薬メーカーなどの担当者へヒアリングする中で「タブー視されがちなテーマだからこそ、企業が主語になって発信すると、批判の対象になるのではないかという不安があった」「新聞社が発信してくれると取り組みやすい」との声を聞きました。ニーズはあるが踏み込みづらい社会課題に対して、企業が取り組みやすい環境を作ることが必要で、そのためにメディアによる発信が重要であることを実感したそうです。
今後、朝日小学生新聞は紙面での情報発信だけでなく、よりインタラクティブな学びの機会も創出していきます。7/17は「朝小サマースクール2022」の1コマとして「からだ・プライベートゾーン・ジェンダー 生の知識を学ぶワークショップ」を、小学生(全学年対象)・保護者向けに開催予定です。クイズやワークシートを使い親子で楽しく学べるように工夫しているとのことです。今後さらに、教材化して情報をまとめ、読者のニーズに合わせていつでもどこでも学べるシステムを作ることも検討中です。
子どもたちの未来を変える生教育
子どもたちへ教える側にとっては、専門的な知識が必要ですし、個人や環境に応じた繊細なコミュニケーションが求められる場面もあると思います。しかし、「性」の情報は「命」にかかわる情報です。その前提に立つと、わからないから、聞きづらいからという理由で避けることの方が、大きなリスクを抱えることになります。そうした時に、「生教育プロジェクト」のように、信頼できるメディアを活用しながら、親子で学べる機会があると心強いのではないでしょうか。
「重要だとわかっているけれど、どう伝えればいいかわからない」と悩んでいる大人に対しても、「生教育プロジェクト」では子どもへの伝え方についても紹介していますので、ぜひ活用していただきたいです。
企業・自治体などさまざまなステークホルダーを巻き込むことも必要です。性教育は、今後の社会を担うすべての子どもたちの人生に大きくかかわるからです。学校や家庭など直接的に子どもと接するコミュニティに任せるのではなく、重要な社会課題の一つとしてとらえて進めていくべきテーマです。
朝日小学生新聞 https://www.asagaku.com/
電通Femtech and Beyond https://femtechandbeyond.com/
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