障害者と共に走るSLOW RUNビジネスワークショップin横浜
- 共同執筆
- ココカラー編集部
「共に走る」体験から、ビジネスのヒントを探る
2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を受け、組織内にダイバーシティ推進を担う部門を立ち上げた企業が多くありますが、一方で、具体的にどのような施策を打ち出せばよいかがわからないという悩みも多く寄せられているようです。そんな声に答えて「先ずは交わり合う体験を持つことが大事」だと、企業を対象としたビジネスワークショップが横浜市象の鼻テラスで開催されました(採録:2016年1月26日)。
企画したのは、象の鼻テラスを拠点に、アーティストや企業、福祉施設をつなげた特色を活かしたものづくりを手がける特定非営利活動法人スローレーベルと横浜市都市整備局。一般社団法人日本ランニング協会と協力して開発した「SLOW RUN」というプログラムを体験するこのワークショップには、企業のダイバーシティ担当者や横浜市の職員、福祉施設関係者や一般参加者など、約40名が集まりました。
SLOW RUNは、障害がある人とない人とが5人1組のチームに分かれ、街中2キロの道のりを5つのミッションをこなしながらゆっくりと走るスポーツです。昨年11月には徳島県の徳島市で、初めてのイベントが開催されました。
(チームメンバーと自己紹介)
体験から気づかされるもの
この日に開催されたビジネスワークショップでは、先ず、参加者が5人1組のチームに分かれて、自己紹介を行います。どのチームにも、障害のある人が参加。ひとえに「障害」といっても、その特徴はさまざまですし、運動能力は障害のあるなしに関わらず個人差があります。そういった前提を共有しながら、チームのメンバーは、課せられた5つの課題に挑戦するのです。
例えば、ティッシュボックスを脚またはスティックでパスしながら目的地まで運ぶボックスシュート。
ブラインドをして、ペットボトルを乗せたトレーを持つ人を、目的まで、ペットボトルを落とさないように連れていく「ブラインドギャルソンリレー」。
メンバー同士の体でポールを支え合いながらゴールを目指す「ポールバランス」。
アイマスクをつける、モノで身体の自由を奪うなどして、普段使っている感覚や機能を制限した上で、互いの置かれた状況や感知している情報を推測しながら、共にミッションをこなしていく。相手の体力レベルや、情報の受け取り方を読み解きながら、自分の行動を調整していく。楽しみながら、同時に神経を研ぎ澄ましながら行うこのエクササイズは、これまで意識しなかったさまざまな視点へと、気づきをもたらします。
エクササイズが白熱すると、目隠しをして目が見えない相手にもつい「右!」といった指示を出してしまうことも。そんな失敗も、チームメンバーで声を掛け合いながら、笑って乗り越えていくうちに、メンバーの間に仲間意識が芽生えていきます。
5つのミッションの他、チームメンバーが行ったのは、街の中を実際に歩いてみるという作業です。障害がある人がいることで、普段は気づかなかった街中のバリアや魅力に気づいたり、街中にもっと欲しいものに気づいたり、街のインフラの使いやすさのチェックにもつながる効果がありました。
(街中を歩き、互いに気づいたことを共有することで、新たな街の魅力や、街中のバリアが認識されていく)
ワークショップのあとは、障害のある人や高齢者とのものづくり・インクルーシブデザインのワークショップを多数手掛けられている、京都大学総合博物館の塩瀬隆之准教授による振り返りがありました。この日のワークショップは、先に5つのミッションに挑戦したチームと、先に外の散策を行ったチームに分かれましたが、最初に外歩きをしたチームの方が、互いを知り合う時間をより長くとれたため、5つのミッションへの挑戦もよりスムーズだったようです。
(ワークショップ後の、全体の振り返り)
参加者からは「参加したことで、知らない人たちと知り合い、友達になれたことが良かった」といった声が寄せられました。
2キロを走るというと、障害のある人には困難なことに聞こえます。けれども、実際にチームを組んで走ってみると2キロはあっという間で、昨年の徳島県でのイベントでも「疲れたけれど楽しかった」と参加者の評判も上々だったとか。
「まちづくり」のヒントにも
今後は実際にSLOW RUNを開催することも想定し、3月16日には横浜市で試験コースのテストランが行われます。横浜市の職員の方からは「今後、高齢者人口が増えることを考えると、これまでの基準のバリアフリーのまちづくりでは対応できないかもしれない。こういった学びを、みんなが安心して、気持ち良く、魅力を感じて過ごせるまちをつくるヒントにしたい」「防災計画などの観点からも、みんなで街を歩いた体験を役立てたい」といった声がありました。
共に、楽しく作業する体験を持つことが、他者への想像力を育む。頭で理解するより、実際に交わり合う体験の場をいかに持つかが、ダイバーシティ社会に備えるポイントと言えそうです。
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