多様化の推進は、現場の声に耳を傾けることから – JT 日本たばこ産業株式会社 –
- 共同執筆
- ココカラー編集部
LGBTについて取り組む国内企業の先進的な取り組みについて紹介するこのコーナー。今回はJT(日本たばこ産業株式会社。以下JT)の多様化推進室の室長・和中悠子さん、主任・近衛詩織さんにお伺いしました。(2017年6月13日採録)
東京レインボープライド初出展の手応え
— 2016年に企業のLGBTへの取り組み評価指標である「PRIDE指標」で最高評価のゴールドを獲得。2017年には、東京レインボープライド(以下、TRP)に初出展されました。
和中:(TRPは)国内最大規模のLGBTイベントと伺っていましたが、想像以上の盛り上がりでした。企業のブースも数多く出展していて、いわゆる当事者の方だけではなくて、それを取り巻く社会そのものが変わりつつあると実感しました。
近衛: 多様化推進室からはLGBTの担当者だけではなく、室のメンバー全員が自主的に参加しました。当日は、「自分らしくいられる空間って、こんなにイキイキできるんだ」と感じましたね。
(TRPのJTブース。喫煙所の提供とLGBTに関する情報をインフォグラフィックスで紹介した)
イノベーション推進や対応力強化を担う「多様化推進室」の設置
— LGBTに関する取り組みの推進を担う、「多様化推進室」とは、どんなミッションを持った部門なのでしょうか?
和中: JTでは「多様性を重んじる」ことをグループミッションに掲げて、ワークライフバランスの実現や女性活躍推進など、さまざまな取り組みを行なっています。私たちの所属する多様化推進室は2013年に発足しました。イノベーションの推進や、世の中の変化への対応力のある組織づくりという課題を前に、モノカルチャーな組織風土にならないよう、ダイバーシティを推進することが大事だと認識されたのです。そして、その多様化推進室には、営業や製造、広報など多様なバックグランドを持った人財が集められました。多様化推進室は人事役員の配下に位置づけられていますが、本社の人事部が制度面などを含む旗振り役とすると、多様化推進室では、より社員に親しみを持ってもらうための活動やコミュニケーションを担っています。その活動範囲は、全社的な取り組みだけでなく、弊社はたばこや医薬品、加工食品など多様な事業を展開していることからそれら事業部と共に個別のニーズにも寄り添った取り組みを実施しています。なお、現在では、各事業部、現場レベルでの独自の対応も活発になってきました。
(多様化推進のシンボル。コンセプトは「多様(TAYO)の中にある、一人ひとりの個性(I:Identity)を愛しながら、太陽(TAIYO)のようなあたたかさで会社の未来を照らしていきます」)
「レインボーフラッグ」が全役員のデスクに
— LGBTに関してはどのような施策をお持ちですか?
近衛: 2016年の2月から、社内向けのセミナーを始めて、これまでおよそ800人が受講しています。セミナーでは、NPO法人「虹色ダイバーシティ」を招くなどして、当事者の声を知る場づくりを大切にしています。昨年末からは、インパクトがあり、誰でもわかりやすい「インフォグラフィックス」を使ったリーフレットを作成して、セミナーの参加者に配布するようにしています。リーフレットには“Learn!(LGBTについて学ぶ)”、“Imagine(当事者の気持ちを想像する)”、“Listen!(当事者の声に耳を傾ける)”、“Talk!(カミングアウトできない当事者のニーズを代弁する)”、“Protect!(差別的な言動から守る)”などのアクションも提唱されており、日常的に携帯してもらえるように、IDカードケースに入るサイズにしました。(リーフレットはTRPの出展ブースの来場者にも配布した)
近衛: 社内のイントラネットには、「はたらしく。」というダイバーシティ関連の情報を掲載しているサイトがあり、その中に、LGBTコンテンツ「THINK LGBT」を作成しました。今年の5月中旬から、セミナー受講が難しい地方の社員の声を受けて、「Eラーニング」や「アライ確認テスト」を開設しています。「アライ」であることを表明した人が、しっかりLGBTについて理解していることが大切だと考え、Eラーニングを受講し、アライ確認テストで満点を取った人にはオリジナルレインボーステッカーを配布しています。開設後、2カ月間で、約200人が受講しました。
和中: 今年1月には、会長、社長を含む全役員を対象に、当事者を招いてのセミナーを開催しました。参加した役員からの「アライになりたいので、レインボーグッズを用意して欲しい」という声を受け、レインボーフラッグを作成しました。現在は全役員がデスクにフラッグを置いています。(全役員がデスクに置いているレインボーフラッグ)
(左から、Eラーニングコンテンツで満点を取った社員に配布する「I’m ALLY」のステッカー、役員向けに配布しているピンバッジ、LGBTへの理解を促すインフォグライックのリーフレット)
(レインボーステッカーは、社員証や端末に貼るなどして活用されている)
近衛: イントラネットのページには、LGBTに関する質問を受付ける相談窓口を設けています。本人のプライバシーに配慮して、メールは多様化推進室の室長にしか届かないよう設計しています。
和中: 入り口は最大限配慮すべきだと思うんです。どういう人たちに情報を共有して、本人の願いを叶えていけるのかは、状況によって個別判断をしています。これまでで一番多い問い合せは、社内制度の利用に関することでした。「当事者である部下をサポートしたい」、「部下からの相談に親身になって対応したいけれど、具体的にどうしたらいいかわからない」といった悩みを抱えているマネージャーへのサポートも行っています。
多様性を受容する組織文化の育てる
— テレワークやフレックスタイム制の推進などによる「働き方改革」や、出産や育児に直面する社員たちのネットワークランチ、部下のワークライフバランスを尊重しながら、組織の業績を出し、自らも仕事と私生活を楽しめる上司「イクボス」など、LGBTのほかにも、多様性の推進につながるさまざまな施策をお持ちですね。
和中: 私たちだけが旗を振っても、浸透には限界があり、それこそ、全員に多様化推進の価値を理解してもらわないと進まないと思っています。LGBTの方も含めて、いろいろな多様性や新しい価値観・アイデアを受容し、一緒に仕事を進めていくことが大事だと思っています。多様性の受容と多様性を活かす組織づくりをさらに加速していく取り組みが大事です。
和中: 2013年に多様化推進室が発足して以降、多様性の必要性については理解を得られつつありますが、行動に落とし込むにはもう少し時間がかかると思っています。その際「女性活用」や「LGBT」といった分野で切り取って進めると、何をするか、という方策に議論がよってしまいがちです。そうではなく、「多様性を受け入れる組織文化をどのようにつくっていくか」を考えていくことが、不確実性が高まる社会の中で、変化に柔軟に対応できる風土をつくる上で本質的に大切なことだと思っています。JTのカルチャーとして、ジョブローテーションがあります。さまざまなバックグラウンドを持った社員が、いろいろな配属先で能力を発揮し、部門を超えたつながりが生まれることも、こういった取り組みが広がることにつながっていると思います。
それぞれの現場に根づかせるために
— 今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
和中: 今年から、職場の多様化推進をサポートするプログラムを展開予定です。多様化推進といっても、現場によって悩みはさまざまですが、多様な個性の活かし方に悩んでいるという声をよく聞きます。そこで、全国の支社を訪れ、現場の悩みを聞きながら対策を共に考える場をつくっていくのです。
近衛: テーマは多様化推進の他、チームビルティングやイクボス、会議ダイエット(会議時間を減らす)、女性活躍などを予定しています。チームビルティングやイクボスは、各職場の社員にファシリテーターとして名乗り出てもらい、その方を中心に各拠点で推進していきます。多様化推進室が一方的に普及啓発を担うのではなく、「一緒に考えて、実践につなげていく」のです。
和中: 悩みや相談を聞いて、会社として必要な対策を考えていく。そういうことで、変化の芽が育っていくのではと思っています。ワークショップのファシリテーションも、外部に頼むのではなく自分たちでやっていきます。
近衛: 各職場を訪れることで、実際にネットワークができるので、私たち自身も課題や従業員の生の声を拾ういい機会になると思うんです。
和中:アンケートを取ることもできますが、一問一答だと、ファクト間の因果関係がどうしても見えにくいんですね。たとえば、女性社員がなかなか成長しないといった状況があるとして、その背景にあるのは、制度上の問題かもしれないし、上司の育成方法の問題かもしれません。具体的な悩みを聞きながら、それらの背景にある因果関係を理解することにもつながればと思っています。 (多様化推進室のみなさん)
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