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30 Apr. 2020

世界的に有名な「インクルーシブデザイン研修」に学んで

大塚深冬
プランナー
大塚深冬

今年2月、世界的に有名なデザイン教育機関にてインクルーシブデザインについて学ぶ機会を頂きました。その一部をcococolorで紹介したいと思います。(英語版の記事はこちらからお読みください)

講師と参加者と筆者(上段中央)

 

シー・アイ・アイ・ディーとは?

CIIDとは、2006年にデンマークのコペンハーゲンで創立されたデザイン教育機関Copenhagen Institute of Interaction Design(通称:CIID)です。CIIDが世界各地で行っている短期スクールが「CIID Winter School Tokyo」と称して、日本で初めて開催※されました。

※CIIDやWinter Schoolに関する詳細は、本記事の最下部にもまとめています。

 

多様性社会における
デザインを追求する

デザインに関する8つのコースが並行して開催される今回のCIID研修で、私は「Design for Impact and Inclusion」という、多様性社会におけるデザインを追求するコースを受けました。 以下は本コース概要の和訳です。

デザイナーは多様性を深く理解し、有意義な体験をデザインする必要があります。例えば、ジェンダー、民族性、身体能力、社会経済的な背景など。このコースは、包括的な視点を持ちながらサービスのコンセプトを作成します。ソーシャルインパクト創出にも重点を置きながら進められます。参加者は実践の中でインクルーシブデザインのあり方を学びます。

本コースを紹介するタイトルイメージ

 

英語づけになる
刺激的な5日間

2名のプロの講師による5日間の英語研修は、非常に刺激的でした。
まず、本コースの18名の参加者の中には、広告代理店やマーケティング会社に所属する私のような人もいれば、メーカー、出版社、医療従事者、学生もいるという、なんともダイバーシティな構成です。

講師・受講者・通訳・スタッフの集合写真

 

専門的な概念やテクニックを英語で(人によっては通訳を介して)教わりながら、街中から課題や事例を見つけるフィールドワークや、実際に多様性課題を持つ人への個別インタビュー、更に、特別講師として電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)を代表してcococolor事業部長の林も招かれて、DDLの取り組みを紹介するセッションもありました。

講義の様子

 

5日間を通じて「よりインクルーシブな職場環境をデザインする」というお題へのアイディアを出し合います。様々な情報や知見を整理して、このお題への課題解決のアイディアを試作モデルに落とし込む作業(=プロトタイピング)まで行い、それを最終日に発表しました。

情報やアイディアは目に見える形でまとめます

 

五感をフル稼働させてインプットとアウトプットを繰り返した参加者たちは、研修が終わった今でも情報や意見を交換するような関係となりました。

研修最終日に全員が学びを共有するシーン

 

ここから先は、講義で教わった概念や事例を主に紹介します。

 

インクルーシブデザインとは
“プロセス”である

インクルーシブデザインとは何なのか。授業で紹介された定義を紹介します。

インクルーシブデザインとは、広範囲のヒューマンダイバーシティに関するサービスや仕組み、組織体を創るプロセスのことであり、歴史的に十分にサービスを受けてこなかったコミュニティをより良くすることを目指す。

 

上の和訳は少々堅苦しいですが、注目して頂きたいのは「process」と「historically underserved communities」という単語です。

ジェンダー、民族、身体能力、社会経済的背景など様々な違いが存在する社会の中で、長きにわたって注目されてこなかったコミュニティ、不利な立場にあったコミュニティ、十分な支援を得られていなかったコミュニティのために(=historically underserved communities)、継続的に改善していくこと(=プロセス)のことです。また、コミュニティと協力して製品やサービスを開発するプロセスもインクルーシブデザインと呼ばれます。

 

この定義以外にも、授業の中で紹介された言葉を紹介します。

インクルーシブデザインは、
多様な領域のダイバーシティを象徴できる。

インクルーシブデザインには、
インクルーシブなチームが必要である。

 

ユニバーサルデザインと
何が違うの?

インクルーシブデザインは時にユニバーサルデザインと混同されますが、ユニバーサルデザインが個々の相違を標準化し、できるだけ多くの人々に使用される製品やサービスを開発するという「一人でも多くの人たち」を対象にするのに対して、インクルーシブデザインは「ある特定の個人や集団」を対象にしているのです。

 

そのバイアスに
気づいているか?

インクルーシブデザインを実践する上で、非常に重要になってくるものがバイアスです。バイアスはこのような言葉で紹介されました。

バイアスは捉えにくく見つけることが難しいもの。同じバイアスを持つ人たちが集まることで、システムや仕組みにバイアスが組み込まれてしまい、組織的で習慣化されたエクスクルージョン(除外)になりかねない。

 

エクスクルージョン
vs
インクルージョン


「エクスクルージョン」は「インクルージョン」の反対を意味する言葉です。
バイアスがエクスクルージョンを生み出してしまった例として、当時のミシェル・オバマ大統領夫人が着用したベージュ色のドレスが「ヌードカラー」と呼ばれたこと※や、顔認証機能を持つアプリの機能が、白人の顔には反応しても黒人の顔は正しく認識しなかったという事例などが授業では紹介されました。
※日本での“肌色”とバイアスの関係性はcococolorでも過去にこの記事で取り上げました。

勘違いしてはいけないのは、「バイアス=悪」ではないことです。存在するバイアスに気づくことがデザイナーに求められる能力であり、同時にデザイナーの責任でもあります。

 

自分の頭と心の癖に
気づけるか

研修の初日、「You are all designers.」と講師は私たち全員をデザイナーと呼びました。
例えば私の様にデザインに関する専門知識も資格もない人間も、人々の言動や感情を動かそうとする活動をしているのであればそれはデザイナーであるということです。これは、今この記事を読んでくださっている読者の皆さんも、デザイナーとしての瞬間はあるということです。

デザイナーは「自分が抱く先入観はどのようなものか?」「自分はどんなレンズを通して世界を見ているのか?」「自分の作りだすモノや状況は誰かを排除しないだろうか?」といったことを自問する必要があります。これを私は自分なりに噛み砕いて、自分の考え方や感じ方の癖に気づけるか、と理解しています。

 

Design our future,
inclusively.

非常に厳しい状況が続く今の世界情勢において、社会における多様性の重要性は増しています。多様な立場の人々が協力して生き抜くために、インクルーシブな思想や仕組みをもって社会をデザインしていくこと。
それはいつかの未来で必要とされるのではなく、今日、今、この瞬間に求められていると実感しています。

 

参照リンク

Copenhagen Institute of Interaction Design

CIID Winter School Tokyo

コペンハーゲンのデザイン教育機関CIIDがウィンタースクールを日本で初開催

北欧発デザインスクールに、世界中の経営者が殺到するわけ。

・cococolorのインクルーシブデザイン関連記事はこちら

・「バイアスって、いつどこでどのようにうまれるのだろう? ー ネット検索と肌色から考えてみた ー

・本記事の英語版はこちら「CIID Winter School Tokyo Report」

取材・文: 大塚深冬
Reporting and Statement: mifuyu

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