世界のLGBTマーケティング最前線!③マンチェスターにみる「街の祭り」の作り方
- 戦略プランナー
- 阿佐見綾香
昨今LGBTの課題への関心が高まる中で、LGBTの祭典への企業の出展も参加者も増大し、イベントの様子が大きく様変わりしています。そんな中、違和感をぬぐえない企業の取り組みも散見されるという指摘が挙がっています。
これから日本の企業はどうふるまえば良いのか。そのヒントを海外のプライドパレードから学ぶために、マーケティング分野で活躍してきた田辺貴久氏・山中肇氏・永田龍太郎氏の3人が「虫めがねの会(※1)」と一緒にパネルトークを企画。
(※1)「虫めがねの会」:若手教員の勉強会としてスタートした、LGBTと教育について考える会。会の代表の鈴木茂義はオープンリーゲイであり、小学校の先生をしている。
3回目はマンチェスタープライドのレポートをお届けします!
田辺氏がレポート!
公的機関のパレードのはしり!警察や消防が大人気の「マンチェスター」
田辺氏はリクルートでSUUMO副編集長として活躍、LGBT向け住宅情報サービスなどを紹介する専用サイトの展開を手掛け、現在は釧路市に身を置き地元のビジネス支援業務に携わっています。
田辺:マンチェスターはイギリスの第二の都市。
ニューヨークとアムステルダムは「世界の情報発信の中心地」という印象がありますが、イギリスのマンチェスターで毎年開催されているマンチェスタープライド(2019/8/23-26)は、「街のお祭り」という印象が非常に強い点がユニークなところです。
https://www.manchesterpride.com/
田辺:毎年同じコースを歩いており、「カナルストリート」と呼ばれるパレードの道は全て封鎖されます。みんなが沿道に座ってパレードの列を見るというかたちになっています。
https://www.manchesterpride.com/parade
田辺:「Gay Village Party」というエリアがゲイ・ヴィレッジと呼ばれていて、ゲイバーやパブが集まっているエリアです。
田辺:イベントは「ゲイ・ヴィレッジ」の広場で行われており、今年はアリアナ・グランデが来るという話題で持ち切りでした。アリアナ・グランデは2017年に自身のマンチェスター公演終了後に起きた悲しい爆発テロ事件の被害者を追悼・支援するために、チャリティコンサートを開催しています。それから2年ぶりに帰ってくるということで、アリアナ・グランデの話をしている人たちがそこかしこに多かったという印象でした。
パレードの道は両脇にフェンスの囲いを置いて完全封鎖され、真ん中を歩くというかたちです。
田辺:マンチェスターのパレードの特徴として非常に驚いたところは、警察や消防の人たちがパレードに参加していることでした。
田辺:実は、世界で初めて警察などの公的機関がパレードに参加したのがマンチェスターだったそうです。パレードの会場でも、警察などが現れると沿道がものすごい盛り上がりを見せます。
田辺:警察のパレードの山車をみると、警察も『Erase Hate Crime Report It』(ヘイトクライム(※2)を無くそう)とメッセージを出して歩いています。
(※2)ヘイトクライムとは‥人種、宗教、肌の色、民族、性的指向、性自認、心身の障害などを理由とした偏見や憎悪が動機で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行などの犯罪行為のこと
田辺:イギリス海軍の「ロイヤルネイビー」もきちっと正装し、車をレインボーにしてパレードを歩きました。
田辺:「Ambulance(救急)」も参加していました。救急車がサイレンを鳴らしながら通るので、何事かと思って見たらパレードの隊列だったのでした。
田辺:消防も装甲車でやってきて、曲は、ケイティ・ペリーの『Firework』(※3)を流すなど捻りもきいていました。
(※3)ケイティ・ペリーの『Firework』とは‥若年層LGBTの、学校でのいじめを原因とした自殺を防ぐための目的でスタートした活動「It Gets Better Project」(“It Gets Better”=より良い未来はある)の公認曲の一つでもある。
日本と違うところとして、企業が単体としてパレードの隊列をつくるケースよりも、たとえば教職員の組合や、医療従事者の組合など、業種ごとの組合での隊列が多い点があります。
当事者コミュニティの団体も、前出のニューヨークのLUSHの寄付先の「と同じように、「移民のセクシャルマイノリティの団体」など、どういう主張をしたい、どういう人たちの集まりなのかという集まりが一見して明確な団体が多いという特徴が見られました。「ここにアクセスすればこういう情報が得られるんだな」という情報の発信にもなっているようなパレードという印象を受けました。
公的なサービスの隊列が出ると、大変な盛り上がりでした。このことから感じたのは、警察や消防といったところが積極的な参加者になっているということは、街のお祭りとしても非常に盛り上がりやすいということ。さらに市民として、そういった街で暮らせることは安心にもつながります。街全体でウェルカムな雰囲気が非常に出ており、沿道からの応援も盛り上がる様子と、それに答える隊列の様子が非常に印象的でした。
街の様子を見ると、マンチェスタープライドウィークのオフィシャルなポスターが至る所に貼られ、ゲイ・ヴィレッジのパーティーとアリアナ・グランデのライブの告知が掲出されていました。
田辺:ゲイ・ヴィレッジの中へ入るには、入場料が必要で、運営を支える収入源のひとつになっているようでした。
田辺:街中でレインボーフラッグが掲げられる中でも、「ああ、すごいな」と感じたのは、マンチェスター大聖堂の上の旗もレインボーフラッグになっていたこと。
田辺:いわゆる自分たちのアイデンティティを象徴するような場所も全てレインボーになっているというところが、街のお祭りとしては非常に印象的でした。
田辺:各企業や店舗がレインボーを掲げている様子はニューヨークとも似ていると思います。
田辺:お店の中も、レインボーコーナーが多く展開されていました。各店舗が自分たちの物を売るだけではなく、このウィークのための寄付を求めるようなブースを出していたことも印象的でした。街全体でこのイベントを盛り上げるようなかたちになっていました。
田辺:化粧品メーカーのキールズ(KIEHL’S)では寄付のためのドネーションボックスを置いており、2ユーロ寄付するとサンプルをプレゼントするというインセンティブを提供していました。マンチェスタープライドにお金が集まるように、皆で協力しているという様子が見られました。
田辺:H&Mやプライマーク(Primark)といったアパレルショップでも、各社レインボーグッズをたくさん販売しており、街の人たちがそれぞれ「どこのを着る?」と選んでいる様子が印象的でした。
永田:プライマークはヨーロッパの激安アパレルチェーンで、今年は縦縞のレインボーの同じデザインのTシャツに「アムステルダム」や「マンチェスター」のように名前を変えてプリントしたものを各都市で売っていました。地域にコミットするアプローチは、ビジネスとしても成功していると言われています。
田辺:お祭りや観光地でよく見かける、移民の方のお土産ショップでもレインボーグッズを売るようになっており、街のお祭りになっているという印象を強く受けました。
田辺:街を歩く人はみんなレインボーグッズを思い思いにつけていました。
ブースを出展するなどということではない形で、街全体で一体感を出しているなというのが非常に印象的で、これは大いに参考になるなと思って見てきました。
■cococolor編集部がチェック!マンチェスターから学ぶポイント
世界で初めて警察などの公的機関のパレード参加が始まったマンチェスター。アムステルダムでも警察のフロートが盛り上げていましたが、市民にとって身近にある公的なサービスのパレードでの隊列は、街のお祭りに一体感を作る上で重要なファクターになるということが伝わってきました。
企業の関わり方では複数企業の連合チームで出展したりはせず、各社ごとに取り組んでいました。企業がパレードへ出展する以外のかたちで、街全体の取り組みとしてマンチェスタープライドを盛り上げようとしている点、また当事者コミュニティの団体が発信しているメッセージの内容が明確で、チャリティがさまざまなNPOに行きわたるように工夫されている点はニューヨークと共通しており、日本にとっても学びのあるところでしょう。
NEXT⇒12/19(木)公開!最終回
「世界のLGBTマーケティング最前線!④
3都市から学ぶ企業とLGBTの理想の関係」
。。。。。
世界のLGBTマーケティング最前線!全4回リンク一覧
①街全体がコラボして盛り上げる、ニューヨークプライドの底力
②国や市が積極的に後押し!アムステルダムをダイバーシティの震源地に
③マンチェスターにみる「街の祭り」の作り方
④3都市から学ぶ「7つのキーワード」企業とLGBTの理想の関係
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