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Apr.

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11 Nov. 2021

カンヌ受賞作品から考える、LGBTQ+とクリエイティブ

徳永栞
プランナー
徳永栞

今年6月にカンヌライオンズ2020/2021がフルオンラインで開催されました。カンヌライオンズは毎年6月に開催されている世界最大級のクリエイティブの祭典ですが、2020年は新型コロナウイルスの影響で中止となったため、今回は昨年分も含めた2年分の受賞作品が発表されました。

受賞作品の中には社会課題解決に取り組んだものも多いのですが、①LGBTQ+、②障害、③人種、④女性エンパワメントいう4カテゴリーに分け、特にアンメットニーズ※に着手している事例をピックアップして連載形式でお伝えしていきます。
※「アンメットニーズ」を、「まだ満たされていないニーズ」の意で使用しています。

初回となる今回は、LGBQ+をテーマに2つの受賞作品をピックアップします。

 社会的・金銭的障壁なく自分らしい名前を手に入れられるカフェ

I AM (ブランド:Starbucks、国:ブラジル)

まずはこちら。

ブラジル・サンパウロのStarbucks店舗の一角を登記所にし、店舗で名前の変更を無料で行い、新しい名前の公的書類を入手することができるアイデアです。

上記動画によると、名前の変更をするには高いコストがかかったり、その手続きをするうえで偏見がつきまとったりするため、名前の変更をしたくてもできないトランスジェンダーやノンバイナリーがいるとのこと。
このアイデアによって、名前を変えたくても変えられなかったトランスジェンダー・ノンバイナリーが、障壁なしに自分の名前を変えられるようになりました。結果、このキャンペーン期間中のサンパウロでの名前の変更数が年平均の7倍以上になりました。
本施策では「社会的・金銭的障壁のために名前を変えたくても変えられない」というトランスジェンダー・ノンバイナリーのに対して、それらのハードルが無く名前を変更できる場の提供により解決しています。

上記動画には、涙を浮かべながら新しい名前の公的書類を手にする人の様子が映し出されていました。この涙は、自分らしい名前で生きられず苦しんだ経験を思い出していたり、逆に自分らしい名前で生きていくことができるこれからを想い胸がいっぱいになったりしたことに起因すると思います。トランスジェンダー・ノンバイナリーの辛い過去を変え、明るい未来を切り開いた、ということが本施策の意義だと思います。

Starbucksでは飲み物を買うとカップに自分の名前が記入されるように、一人ひとりの名前が尊重されるカルチャーがあります。誰しもが自分の名前に誇りを持って生活できるような施策を実現している点が、とてもStarbucksらしいと思いました。

こちらの作品はGlass:The Lion for Change部門のグランプリを受賞しています。

自分らしい名前に変更できるPricelessなクレジットカード
TRUE NAME (ブランド:MASTERCARD、国:アメリカ)

次にこちら。

MASTERCARDによる、カード名義を戸籍上の名前ではなく自らのアイデンティティに即した「TRUE NAME」を選ぶことができる施策です。

ID上の性別や名前と外見が一致しない方の約3人に1人がいやがらせを受けたり、サービスを拒否されたり、暴力を振るわれたりしたことがあると言われています。(出典:PRIDE JAPAN「米マスターカードが、見た目とIDの性別が一致しない方のために通称名を使えるカードを発行」)

「TRUE NAME」によって、社会的・金銭的ハードルの高い法的手続きを行わなくても、トランスジェンダー・ノンバイナリーが、自身の性自認と一致した「TRUE NAME」をカード名義に選択することができます。

本施策では「自分のアイデンティティにあった名前をカードの名義に選びたくても選ぶことができない」というアンメットニーズに対して、法的手続きなしで自分らしい名前をカードの名義にすることで解決させています。

みんなが自分らしい名前を尊重することができる というPricelessな価値を提供していることが本施策ならではの魅力だと思います。
いろいろな生活の場面で名前を記入したり、他人に名前を名乗ったり、名前は最も身近な自分を周囲に表現するツールです。

Experience & Activation部門でグランプリ、PR部門・DIRECT部門でゴールドを受賞しました。


上記2事例に共通するのは、トランスジェンダー・ノンバイナリーの名前問題に対処していることです。双方ともどんなアイデンティティの人でも自分らしい名前のもとで生活することができる施策になっています。

私自身、プランナーとして、アンメットニーズに対してクリエイティブの力で取り組んでいきたいと思いました。

次回は、障害のカテゴリーからカンヌ受賞事例を紹介いたします。お楽しみに!

取材・文: 徳永栞
Reporting and Statement: shioritokunaga

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