男性も生理管理アプリを使う時代~相談できる生理管理アプリ【ケアミー】 開発運営者吉川雄司氏 インタビュー
- コミュニケーション・プランナー
- 國富友希愛
清潔感と安心感があるグリーンをモチーフカラーとし、シンプルに構成された、相談できる生理管理アプリ【ケアミー】が、幅広い世代の女性、だけでなく男性の支持も集めています。開発運営者であるヘルスアンドライツ(Health & Rights Inc.)代表取締役の吉川雄司さん(@UG_0117)に、ケアミーの特徴、開発までの経緯や、#生理の貧困がトレンドになってしまう現代日本のジェンダー課題や性教育の今後についてお話を伺いました。
▼相談できる生理管理アプリケアミー
https://healthandrights.jp/careme/
シンプルで使いやすく、記録した内容にあわせてアドバイスが表示される産婦人科医監修の生理管理アプリ。生理の悩みを相談できる「相談チャット機能」もあり、不安なときに頼れる。
■ケアミーについて
生理管理アプリを作り始めた当初、自身で多数の生理管理アプリをダウンロードし、老若男女にしっかりとヒアリングをして開発に挑みました。そして誕生したケアミーの一番の強みは【相談チャット】です。生理や妊娠の不安をチャットを通して、産婦人科医や知識のあるスタッフが、一人ひとりの相談に丁寧に返答します。相談内容にあわせて、医学的に正しい情報や病院に行く目安などをお伝えしています。
さらに【ペアリング機能】に好評なレビューをいただいています。ペアリング機能は、パートナーに生理日や排卵日、妊娠の可能性の高い日をLINE上で通知できる機能です。パートナーに共有リンクを送ったあとに、自分のアプリ上でいつ何を通知するかを設定します。ペアリング機能の使い方は多様ですが、主に三つの使い方があります。
・for妊活
女性に、自身の排卵日を認知していても、それをパートナーの男性に言うのがはばかられるというニーズがあります。相手のLINEに送ることで、わざわざ口で伝えなくても届けることができます。
・withカップル
生理期間中に外出したくない、性交渉をしたくないということをパートナーに察してほしいというニーズにも対応しています。PMSのことも理解しておいてほしいし、それをアプリが勝手に伝えてくれたら楽です。男性も「いつパートナーが生理なのか知っておきたい」というニーズがあるというヒアリング結果がでています。
・with親子
初潮まもないときに、親が子に使わせるというニーズがあります。LINEの通知があれば、デリケートな思春期にナプキンの補充の必要性をLINEに代弁してもらえます。シングルファーザーで娘さんとのコミュニケーションに活用されているユーザーの方もいらっしゃいます。
一言で生理管理アプリといっても、インクルーシブに、生理中の人もそうでない人も活用できる点が、ケアミーならではの特徴です。そして、ユーザーもお気づきのモチーフカラーについては、とても慎重に選んでいます。ケアミーはグリーンですが、生理管理アプリはピンクや赤が一般的でした。アプリ中には「男の子をとりこにするテク」「脱毛しよう」といった女性に対するルッキズムやジェンダーバイアスのかかったコンプレックス広告がでてきたりもします。健康管理や生殖機能の知識を提供するための生理管理アプリにそれらが本当に必要かどうか違和感がありました。月経は子宮があり卵巣があれば誰にでも起こりうるものですから、ピンクのノイズと共に「女性とは」「女の子とは」と語ることはしたくないので、ニュートラルなグリーンにし、シンプルに構成することで、従来的な価値観を押しつけないよう配慮しています。Z世代やジェンダーマイノリティの方にも好評ですが、30代・40代のユーザーの方にもグリーンが受け入れられています。もちろん、ピンクがお好きな方は、背景をピンクに変更することもできるように、選べる仕様にしています。
■男性二人の起業家が「生理」に挑むわけ
ヘルスアンドライツは取締役の柿本氏と共に、ケアミーの他に妊活バイブル『やさしく正しい妊活大事典』や、生理や避妊など広く性に関する正しい知識を得られる医師監修メディア『Coyoli』。そして、生理に関するQ&Aまとめサイト『生理のトリセツ』などを創刊・運営しています。僕のキャリアは最初から産婦人科領域のことに注力していたわけではありませんが、学生のころから、漠然と【人の幸せ】に関わる商品やサービスに携わりたいという思いがありました。その後、P&Gを経て、ONE CAREERの執行役員を務める中で、一貫して【女性のキャリア支援】に強い思いがあり、それは今なお変わりません。日本において女性がキャリアを構築する際、まず入口が狭く、偏ったジェンダーロールによって出産・育児の負担とキャリアの両立を自動的に担うのもの女性になりがちであり、同時に「28歳くらいで結婚~30歳くらいで出産」という暗黙知のプレッシャーを感じている女性も多く、そんな社会の不平等さ、不公平さに疑問を抱いてきました。女性のキャリア支援と地続きで、子育てや教育の分野で日本の未来がより明るくなるようなことをしたいと思う中で、日本は世界一不妊治療(体外受精)が行われている国だということを知ります。キャリア的、経済的、身体的、あらゆる側面からみて“子どもをもつ”ことが、ぜいたくな選択肢になってきている中で「産みたいのに産めない」という人がいるのであれば、支援をしたい。この国の少子化課題、欧米のフェムテック等のマーケット動向を読んで、不妊治療をサポートする事業や活動をスタートしました。事業の傍ら様々な方にヒアリングをする中で「卵子が年齢と共に減ることを知らなかった」「ただの生理痛の背景に子宮内膜症の可能性が潜んでいることを知らなかった」という切実な声を耳にするようになりました。私たちは自分の生殖機能について良く知らないまま、大人になっているのかもしれない。知識が十分でない状態で漠然とキャリアプランやバースプランを考えていくと、年齢が上がる一方で生殖機能が下がっていく壁に直面します。そこで、今まさにその課題を抱えている人だけでなく、これから大人になっていく、あるいはこれから妊活をするかもしれない潜在層にも、性の正しい知識を届けたいと思うようになりました。“不妊治療のサポート”から、“生殖機能の正しい知識を適切なタイミングで届ける”ことへとミッションが変わった瞬間でした。日々変化が伴う生殖機能について適切なタイミングで知識を届けるためには、年齢と生理周期を登録する生理管理アプリが最適だと考えケアミー開発に至りました。初潮から閉経まで年齢に合わせてそのときどきに寄り添い適切な情報を届けたいのです。HPVワクチンのこと、妊娠のこと、更年期のこと、ホルモン治療のこと。様々な発信をしていく中で、生殖機能に関する情報発信にとどまらない根本的な性教育の必要性を感じ始めました。企業が存続するためには、【採用】と【育成】が大切ですよね。企業を国に拡大してあてはめると、国が存続するためには、【出生】と【教育】の重要性に気づきます。僕は男尊女卑社会に対する嫌悪感を抱いていた母から、「男だから~」「女だから~」というバイアスをもたない寛容な教育を受けることができました。大学も女性の多いグローバルな学部で学びました。さらにそこで、女性たちの潜在能力が高くとも、女性よりも体育会系の男性が就職に有利だったりするという状況を男性の立場で目の当たりにしました。P&Gというジェンダー、宗教、差別に感度が高くフェアネスなカルチャーのある会社で、自らの考え方の偏りや言葉使いを顧みることができました。ONE CAREERでは、社会に自分のもつ資源や能力を還元するノブレス・オブリージュを学びました。そうした積み重ねの経験があるので、社会システムの中で不利益を被る女性たちの尊厳を守りたいというフェアな精神をベースに事業に取り組むことは、自然な流れで、自分が与えられたものや力を、世の中に使うには何ができるか日々考えています。
■大人が変われば子どもも変わる
男尊女卑やホモソーシャルに汚染されていない考え方をできる子どもを育てるには、という質問は極めて答え方が難しいですね。子どもが過ごす場所は、主に家と学校だと思います。僕の場合は母や姉妹のおかげで、家が良かったのです。学校は「男子はこう」「女子はこう」と二分化されていますよね。ジェンダーはもっとグラデーションがあってファジーなものですが、学校の運営上、男・女で二分して運営することが決まっています。あの社会で十数年過ごすと、ホモソーシャル的な価値観から突然脱することは厳しいと思っています。よって家庭での親の努力が必要なのかもしれません。しかし、親が“教える”というよりもむしろ親を含めた大人が学ばないといけないのではないでしょうか。新しい世代の子どもたちは僕たちよりも柔軟なので、僕らが受けてきた古い価値観のシャワーに比べるとリベラルなものを浴びていると思います。性別にまつわる差別語が減ったり、アニメや映画に女性が主役の視点をもつものが増えたという実感があります。僕らの小さい頃は、男性のヒーローで、女性がお飾りのようなシチュエーションが多かったですよね。そう考えると、汚染されているのは大人なのでしょうね。子どもに何かを学ばせるというよりも、大人が学ばなければならない。実は、生理に関してもそうです。【生理のトリセツ】を運営する中で、生理のトリセツを置いてくれませんかということを学校の養護教諭の方々にお願するのですが、とても好評なご意見を頂きます。生理のトリセツは、教科書的な生理の仕組みだけではなく、生理との付き合い方を伝えられるから良いと。そして保護者の方への説得材料になるといわれるのです。どういうことかといいますと、生理痛が重いお子さんに対して、鎮痛剤・低用量ピル・婦人科の診察・漢方薬という多様な選択肢を提示しない保護者がいて、娘さんが親に頼めず保健室で休んでいるという状況があるそうです。学生の分際で婦人科に連れていけない、ピルは卑猥であるということを、未だに思われている保護者もいるのです。生理のトリセツがあることによって、生理は隠すもの、生理は我慢するもの、生理は自己処理でなんとかしないといけない、子どもの生理にコストをかけない、といった刷り込まれた価値観が変化し、多様な選択肢に、子どもたちが自由なアクセスを得られるようになることを目指しています。
▼生理のトリセツ
https://healthandrights.jp/about-periodmanual/
生理に関するQ&Aをまとめた産婦人科医監修サイト。学校教育でも活用できるよう、生理痛やPMSに関する解説だけでなく、10代のうちに知っておくべき「性感染症」や「子宮頸がん」などの知識も掲載。
女子生徒だけではなく、男子生徒へのアプローチについても課題意識や意欲が強くあります。男の子もかわいそうなのです。誰からも性や自分の身体のことを教えてもらえない。マスターベーションのこと、セックスのことを正しく学ぶ機会がないのです。教科書がアダルトビデオという偏った知識のままで、大人になって、パートナーに出会って、大切な人ができて、大切な人が嫌がって、初めて間違いに気づくという経験が起こり得ます。情報過多の時代ですから、間違った情報にもポルノにも簡単にアクセスできます。エロ動画をSNSでファストフード店で並んでいる間に観られる、そんな現実があります。「避妊なしでのセックスをしてしまいました」という相談がケアミーを通して相次いで伺えます。正しい性教育を行わない弊害が、女性が被害者に男性が加害者になることで顕在化します。日本には、アダルトビデオが世界の中で特に進化している一方で、非常に性教育が遅れているという歪んだ側面があります。今後も、自分自身が経験したことを糧に新しいチャレンジをして社会に貢献したいと考えています。
▼吉川雄司氏profile
大阪大学卒業後、外資系消費財メーカーP&Gに入社。その後、就活クチコミサイトを運営するスタートアップのONE CAREERに参画し、執行役員を務める。2018年1月、日本の妊娠を取り巻く環境を変えるためにヘルスアンドライツを創業。代表取締役。現在は「正しい知識を、適切なタイミングで得られるようにする」をミッションにし、相談できる生理管理アプリ「ケアミー」や、産婦人科医監修サイト「生理のトリセツ」を運営している。著書『やさしく正しい妊活大事典』(プレジデント社)
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