日本一小さくて、日本一優しい映画館【シネマ・チュプキ タバタ】に行ってきた!
- 副編集長 / ストラテジックプランナー
- 岸本かほり
今回は、ユニバーサルシアター「シネマチュプキ タバタ」にやってきました。
目の不自由な人も、耳の不自由な人も、お母さんも、子供も、どんな人も一緒に映画を楽しめるユニバーサルシアター。
たくさんの人々の募金によって、日本一小さくて、日本一やさしい映画館として、2016年9月にOPENしたそうです。
本日は、支配人の和田さんにお話を伺いたいと思います。
■日本初のユニバーサルシアター誕生のきっかけ
岸本:本日はどうぞよろしくお願い致します。シネマチュプキタバタには本日初めてきたのですが、アットホームでかわいい映画館ですね。元々、このユニバーサルシアターの支配人になるには、どんな背景があったのでしょうか?
和田:きっかけは、目が見えない人と一緒に映画を観るというバリアフリー映画鑑賞推進団体「シティライツ」の映画祭ボランティアに参加したことです。
当時の僕自身が、目が見えない人が映画を楽しめるのか?と、うがった目で見ていたところがありました。その時にペアだった視覚障がいのおじいちゃんは、映画開始5分くらいでおじいさんがいびきをかいて寝てしまい、そのあとも30分ほど寝ていて、「ああ、もうおじいちゃん目が見えないし、情報量が少ないから、映画のストーリーわかんないだろうな」と思ったんです。
そのまま自分は、映画に集中していて、後半のシーンで泣きそうになっていたら、隣でおじいさんも号泣していて、その時に、「あ、決めつけてしまってごめんなさい、恥ずかしい」という気持ちが湧いてきました。
その時、後ろを振り返って見ると、視覚障がい者も健常者も、一緒になってみんなが同じ映画を観て泣いていて、その光景が自分の人生を大きく変えて、「あ、これは伝えなければならない、今の時代に必要なことだ」と思いました。その時に、「ユニバーサルシアターを作る」という意思と思いを持つ平塚(シネマチュプキ社長)に賛同して、そこから携わっています。
岸本:このシアターは、いわゆる障がい者や外国人といったマイノリティと言われる方専用ではなく、だれもが映画を楽しむことができる本当の意味でのユニバーサルなシアターと伺いました。まさにダイバーシティ&インクルージョンを体現している施設だと感じています。
和田:現在の世の中で、多様性という言葉は、機能していないと思います。多様性という言葉を使うだけでは、本当の意味での多様性は生まれずに、世の中は閉鎖的なままです。
人々は、障がいを持つ方には、「障がい者」、外国籍の方には「外国人」という風に、個々人ではなくて、ジャンルに分類をするので、ある種の思い込みや偏見を持ってしまっています。
それを自然に取っ払う手段として、“エンタメ”が強いのではないかな、と思いました。
ふとお客さんが映画を観に当館に足を運んだ時に、実はそこにいろいろな多様性を持つ方々がいて、その空間で時を共に過ごすことで、ちょっとした気づきがあるといいなと思います。
■あんな人やこんな人も!日本一ユニバーサルな映画館
岸本:実際には、どの様な方がいらっしゃるのでしょうか?
和田:視覚・聴覚・発達などさまざまな障がいを持つ方や、外国籍の方、お子さんづれのお母さんや、シニアの方など様々な方がいらっしゃいます。おおよそ健常者8割、障がいを持つ人2割というバランスです。
これは全国の人口統計とほぼ変わりなく、これが本来の姿であるし、本当はどんな場所もこうあるべきです。
ただ、河瀨直美監督作品の「光」のように視覚障がいに関連したテーマの映画だったりすると、視覚障がい者が8割くらいになりました。
マイノリティとマジョリティが逆転する環境って面白いし、普通では起きない環境なので、健常者が取り残されるような、それこそ外国に行って言語が通じないような感覚を味わっていただけたのではないかと思います。
この環境で、いろいろな他者との出会いがあって、お客さんが、視覚障がいの方を駅まで送ってくれたり、見ず知らずの隣同士に座った人が、
ご飯を誘い合ったり、町の人が視覚障がいのお客さんをシアターまで連れてきてくれたり、この空間から町全体がやさしくなっているように思います。
岸本:素敵ですね!日本は、障がいを持っている方と、健常者の生活環境を分けてしまうじゃないですか。
だから、この場所で初めてさまざまな多様性に触れる場所になって、それによって化学反応が起きて、いい空間や町自体が作り出されているのですね。まさにダイバーシティ&インクルージョンを体現している場所ですね。
和田:そうですね。人間ってやっぱり目の前に困っている人がいたら、助けたいと思う心を持っていると思うのですよ。でも、話しかけたときになんか迷惑なんじゃないかと遠慮してしまう感覚がハードルになるんです。
たまに、「健常者もいってもいいですか?障がい者の席を奪ってしまわないですか?」という旨の電話がかかってくるんですが、経営がかかっているので、遠慮しないでとにかく来てくださいと返しています。(笑)
遠慮だったり、心の底にある無意識的な差別を取り除くには、だれかに教えられるよりも、実はこんな人だったんだ!って自分の目や耳で実際に知れたほうがいいと思うんです。
■どんな人にも映画を楽しんでもらうための工夫とは…
岸本:みんなが楽しめる映画館を目指したという事ですが、実際にはどのような設備や、映画上映の工夫がなされているのでしょうか?
和田:僕が力を入れているのは音声ガイドです。2016年時点で、映画用の音声ガイドの普及率は僅か数パーセントでした。視覚障がいを持った人は、年間数10本の映画を観ることしかできないことへの、問題意識もありました。
最近でいうと、これに音声ガイドは付けないであろうと思われる作品、例えば「バーフバリ」に音声ガイドをつけて皆で応援上映をしたり、これまでナレーターさんに読んでもらっていた音声ガイドを、有名声優さんに吹き込んでもらうことでエンタメ性を高めたことによって、視覚障がい者だけじゃなくって、「バーフバリファン」「声優ファン」が劇場まで来てくれたり、健常者に初めて音声ガイドというものに触れてもらえたりしています。
その他にも、映画を楽しんでもらえる工夫をしています。
お子さんが騒いでも大丈夫な親子室もありますし、映画には字幕をどの回でも常時つけています。
現在他社様で開発中のデバイスには、弱視の方々や、高齢で目が見えにくくなった方に向けて網膜に映画を映し出す「網膜ディスプレイ」があります。
岸本:いろいろな技術を導入しているんですね。先ほどフォレストサウンドを体験させてもらいましたが、本当に映画の世界の中にいるような没入感でびっくりしました。障がいを持った方にも、我々にとっても映画をもっともっと楽しめる素晴らしい技術だと思います。
和田:実際に、字幕なんかは子育て中の方にはめちゃめちゃ助かると思います。赤ちゃんが泣いちゃうと聞こえなくなるので、字幕があることによって、どんなに騒がしい環境下でもちゃんとストーリーを追えます。
■映画館の運営をして、ご自身の中で、変わったこと
岸本:シネマチュプキタバタができて、たくさんの方との出会い、様々な経験をされたかと思います。それらの経験の中で、ご自身の中で変わったことがあれば教えてください。
和田:
「自分の常識を疑うこと」ですね。自分の中にあるフィルターで物事や人を見すぎてしまうと、偏ったものの見方になってしまうので、いかにフラットに世の中の物事を見るか、をいつも試されているような気がします。それは、いわゆるマイノリティと言われる方々と触れ合ったことによる大きな学びだったのですが、この学びは特にマジョリティの方々に伝えたいことでもあります。ここを始めてから、いろいろな価値観の相違を面白がれるようになりました。
日本一やさしくてあったかくて、刺激的なシネマチュプキタバタで、みなさんも映画を楽しみましょう!
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