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29 Nov. 2021

11月29日は「いい服の日」~学生服のトンボが目指す、多様な生徒の最良の着ごこち~

増山晶
副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
増山晶

令和の学校現場では、多様な生徒への理解や配慮が期待されている。

LGBTQ+の生徒への配慮だけでなく、防寒性、動きやすさ、障がいや皮膚疾患などの心身の事情などからも、従来「詰襟(学ラン)とセーラー服」のように一律にジェンダー固定されてきた制服に対して、課題意識が高まってきている。

多様な生徒にとってのより良い制服とはなんだろう。11月29日に「いい服の日」を制定した、学生服メーカーの株式会社トンボに、お話をうかがった。

■学校制服への思い

―そもそも、制服とはどういうものなのでしょうか。

 

(左から)株式会社トンボ事業開発本部本部長 橋本さん、デザイナー室ジェンダーレス制服商品企画担当 奥野さん

(橋本さん)制服は生徒一人一人のかけがえのない貴重な時間に寄り添う大切なアイテムです。生徒にとっては、自分らしさやここちよさ、就学のモチベーションにつながるもの、学校にとっては、自覚や連帯感を促すもの、保護者にとっては、経済性やお手入れのしやすさ、3年間の耐久性も大切ですし、地域社会にとっては、街のシンボルであり、地域の風景をつくるものと言えます。この学校の生徒だな、と分かることで、生徒を見守る安全性にもつながっているのです。

同じデザインで誰もが着用できることが、制服=ユニフォームにとって大切です。さらに、理解され、長く愛されるということも必要です。肌の弱い方や障がい者、ユニバーサルデザイン対応、からだの大きな方小さな方への対応などは従来から行っていました。LGBTQ+にもこれまでと同様、工夫しながら対応していくことになると思います。

―ジェンダーレス制服にいち早く取り組まれていますが、近年のニーズの変化についてはいかがでしょうか。

(奥野さん)以前から女子スラックスというアイテムはありましたが、ジェンダーレスをテーマとした商品開発を始めたのは、文科省の「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」というパンフレットが公表された2015年くらいからです。きっかけは関西地区の公立中高を中心に学校様より相談が増え、そのことが原因で制服のモデルチェンジを考えているという声が聞こえてきたことです。当事者の方の声を聞きながら、商品開発に反映しています。

     

(性別でアイテムを絞らず、選択肢のあるジェンダーレス制服例 /トンボ)

―モデルチェンジのタイミングや理由としては、他にどのようなものがありますか?

(奥野さん)学校の周年行事、時代に合ったデザインの刷新や、家庭用洗濯機で丸洗いができる等の機能性の向上等があり、その中に先ほどのジェンダーレス対応も要望事項のひとつとして含まれます。

採用傾向としては、選択肢のあるラインナップや、性差を感じさせないユニセックスなデザインです。ユニセックスは異性のきょうだい間でも流用できるコストメリットがある一方、男女の体型差による着ごこちや見た目の課題もあります。そのあたりも含めて、学校等に判断してもらうことになります。

■生徒に寄り添う学生服のあり方とは

―ジェンダーレス制服導入において、気を付けるべき点は何でしょうか。

(奥野さん)学校へは、生徒や保護者に対して、説明会や学校紹介パンフレットで「ジェンダーレス制服」を前面に出してPRしないよう、利便性、機能面を重視した制服であること、選択の自由であることをアピールするように配慮しています。ジェンダーレスは、あくまでも多様性のひとつとしてとらえています。

(ジェンダーレス制服アイコン/トンボ)

生徒が自分らしく学校生活を送れるよう、選択肢を増やすこと、性差を感じさせないデザイン、多様な性を受け入れるための環境作りが大切だと考えています。

ジェンダーレス制服の考え方としては、心と身体の性が一致しないトランスジェンダーの方が強制カミングアウトしなくてもいいよう、極力男女差をなくしたり、カミングアウトしなくていい環境を作ったりと、一人一人が安心して制服を着用できるように考えたアイテムです。また、「女子とつくだけで違和感があり、何より、カタチ・シルエットが男子とは違う」「レディースを着るのは抵抗あるが、ユニセックスを着るのは抵抗ない」といった意見も多くあります。このことを踏まえ、男女で性差を感じさせないものをポイントに商品開発を進めています。

商品作りをしていく中で、生徒たちの悩みは様々で、もともとスカートが嫌いな子、アトピーで足を隠したい子などコンプレックスを解消するためのものにもなることが分かり、トランスジェンダーの方だけではなく、多くの生徒にとって着ごこちの良いものを提供できる商品であると感じてもらえるよう気をつけています。また、ジェンダーレス制服が教育現場に導入されるために、学校への提案はもちろん、ジェンダーに対する差別意識の改善、トランスジェンダーの認識向上を目指して、自社で行う制服の展示会や、当事者の方による講演会、勉強会を行っています。

―電通ダイバーシティ・ラボの最新調査では、11人に1人がLGBTQ+でした。それは同時に、11人に10人がセクシュアル・マジョリティでもあるとも言えます。心身ともに成長過程での変化の大きい学齢期の、すべての生徒に対する配慮として、どのようなことが考えられるでしょうか。

(奥野さん)制服に憧れて学校を選ぶことはもちろんあります。その理由としては、かわいいデザインであったり、選べるラインナップだったりします。憧れという要素は大切にしつつ、デザイナーズブランドを含め、時代に合った対応をしています。バリエーションがあることで、気分によって変化がつけられたり、モチベーションが上がったりします。最近では、市町村単位でまとめて学生服の対応を更新するところも出てきています。北九州市の公立中学校は、2020年度にブレザー型のスタンダードタイプを導入し、スカートとスラックスが選べるようになりました。

―女子のスラックス選択肢は、性自認や性表現だけでなく防寒や自転車通学での動きやすさなど、今後も広がりそうですね。多様性配慮におけるポイントはなんでしょうか?

(橋本さん)まだまだジェンダーレス制服という考え方自体が過渡期であり、確立されつつある段階の途中です。LGBTQ+当事者の方にアドバイスもいただいていますが、性自認のタイミングも、一人一人違いますし、カミングアウトする・しないというデリケートな問題もあります。さらに多様性という点では、ジェンダーレスだけではもちろんなく、宗教や民族への対応など、さまざまな視点が大切になっていきます。

■「いい服の日」に込めた、学生服の使命

―「いい服」という広い意味を持つ記念日を、学生服メーカーであるトンボが制定されました。

(橋本さん)着る人が着ごこちに満足し、大人になれば自分の子どもに着せたくなるようないい服を作ることがトンボの使命です。その気持ちを新たにする日として、2010年に「いい服の日」を制定しました。生徒や保護者、学校などに対して、新しい価値を提供していくこと、皆さんから長く愛される服を作っていきたいという思いを込めました。

そして生徒と一緒にいい服を作り、生徒と一緒に制服文化を守っていくことが大切だと考え、2010年より「トンボ1129デザインコンクール」を実施しています。着てみたいデザインやアイデアを多くの生徒に応募いただき、実際に商品化につなげています。第12回となる今年の受賞作品は、本日WEBで発表しています。制服デザイン部門の最優秀賞デザインは、性別を問わない「選択肢のある和制服」となりました。

(第12回トンボ1129デザインコンクール制服デザイン部門最優秀デザイン画/トンボ)

―最後に、これからの多様性ある社会の中での学生服について、お考えをお聞かせください。

(橋本さん)5年後、10年後、社会はもっと多様な人たちが可視化されるようになり、その度に課題が浮かびあがってくると思います。それらに対して解決策を常に模索していければと思います。LGBTQ+の生徒だけではなく、子どもたちは時代の背景によって抱えている悩みは違うと思いますので、全ての生徒にとって最良の着ごこちを提供できる制服作りを行っていければと思っています。

日々「世界は多様性で溢れている」という認識を持ち、生徒や学校が相談しやすい環境作りを意識しながら制服の提案に取り組んでいきます。

■取材を終えて

筆者の中高校生時代を思い返すと、制服やクラスTシャツなどで一体感を楽しむことも思い出のひとつだった。だが、当時も様々な理由で着ごこちや居ごこちの悪さを感じていたクラスメートがいたのかも知れない。

自分だけでなく多様なみんなにとって、それぞれに最良な着ごこちがかなえられること、そのためにも、誰もが自分らしさを大切にできる選択肢があること。それが、これからの学校生活におけるいい服にとって、多様性ある未来にとって、大切な視点なのだろう。かけがえのない学齢期の毎日に欠かせないものだからこそ、制服を考えることから気づくことは多く、幅広い。生徒自身のリアルな気持ちやアイデアがデザインという形で反映される「いい服の日」に、これからも注目していきたい。

取材・文: 増山晶
Reporting and Statement: akimasuyama

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