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Apr.

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25 Jul. 2019

福祉実験ユニットとファッションブランドが社会に放つ新提案 〜MUKU×TOMORROWLANDハンカチ

飯沼 瑶子
副編集長 / プランナー
飯沼 瑶子

ヘラルボニーを知っているか。

なんだか耳に残ってしまうけれど、聞き覚えのないその言葉。

意味は…実はない(かもしれない)。

というのも、この言葉は株式会社ヘラルボニー代表及び副代表である松田崇弥さんと文登さん兄弟(双子)のお兄さんの造語。

自閉症であるお兄さんが7歳の頃に自由帳に記した「ヘラルボニー」は、理由はわからないけれど、当時のお兄さんにとって何か特別な言葉だったのかもしれない。でも、世の中にとっては意味がまだない言葉。

その言葉を会社名にしようと思ったのは、一見意味がないと思われる思いを、企画して世の中に価値として創出したい、という松田さん兄弟の志によるもの。

お兄さんが実際に書いたヘラルボニーの文字

株式会社ヘラルボニーは、「異彩を、放て。」をミッションとし、障害を特性と捉え、障害者の視界から見る世界を、様々な方法で社会に発信することで、障害者の個性がありのまま社会に順応されることを目指している。

彼らの取組の一つにMUKUという、障害者によるアート作品をプロダクト化するブランドがある。

今回、MUKUがTOMORROWLANDとのコラボレーションでオリジナルのハンカチを販売することになったのだが、それがとても鮮やかで素敵だったので、取材をさせていただいた。

まずはハンカチを見てほしい

「TOMORROWLAND×MUKU」コラボハンカチ

カラフル。

手前はリンゴ柄のようだが、他は一体何の柄なんだろう…。

お話を伺ったのは、ヘラルボニー及びMUKU代表の松田崇弥さん・ブランドディレクターの深澤佳歩さん、きょうされんの渡部伸太郎さん。

「きょうされん」は、日本の福祉事業所を統括する全国組織であり、「きょうされんグッズデザインコンクール」を実施している。今回販売されるハンカチの元になった原画はこのコンクールの入賞・入選作品の中から選ばれたものだ。

取材させて頂いたみなさん。左から深澤さん、松田さん、渡部さん


ヘラルボニー(MUKU)ときょうされんの出会い

きっかけは、きょうされん主催のイエローリボンフェス。このイベントに松田さんが登壇したことが始まりだった。

MUKUでは、これまで障害者アーティストの作品を原画とするネクタイや傘、靴下、雑貨などをプロデュースしてきた実績があり、ちょうど絵を使ったオリジナルのブランドを立ち上げたところだったきょうされんと一緒に何か作れないかということになったのだ。

そんな経緯から、きょうされんからデザインコンクールの作品が、商品化の原画候補として提供されることになった。

「きょうされんグッズデザインコンクール」はもう30年近く続く歴史の長いもので、毎回全国から約1500作品が集まる中から100作品程度が選ばれ、カレンダーとして商品化されてきたのだが、カレンダーの特性上12カ月+残りの作品は裏面に一覧化されていた。この、半ば埋もれていた「残りの作品」群の中からMUKUとTOMORROWLANDによって選ばれたのが、今回のハンカチの原画だ。

物語を紡ぐハンカチの鮮やかさ

きょうされんからの原画を受け、MUKUとTOMORROWLANDにより、ハンカチとして世に出ることになったのは全部で6種類。2019年7月13日より全国のTOMORROWLAND店舗で販売が開始されている。(※販売店舗詳細は記事最下部参照)

それぞれの作品の背景やアーティストにまつわるストーリーについても、注目したいポイントだ。

一部を紹介させていただきたい。

例えば、下の作品は「シャビィ(愛犬)」というタイトルなのだが、一見すると犬は感じられないのではないだろうか。

久田菜津紀さんの作品

ただ、この背景となるストーリーを知ると、印象は変わる。

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中学生の頃、心を閉ざし、声を出さなくなった彼女は絵の世界と出会い、彼女が描く作品は、心のほぐれを一本一本ほどいていくように紙いっぱいに螺旋や渦を描き、ときには一色で、ときには多色で、線を重ねていく。線を重ねていく年月が経つにつれストロークは大胆にスピード感をましている。家にはいつも生き物がおり、シャビィは、養護学校の小、中時代に過ごしたゴールデンレトリバーのことであり、この絵は、死期の近いシャビィのことを気にかけて描かれた作品。
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そして下の作品。こちらのタイトルは「フラワー」。

菅原啓さんの作品

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日々とうふ工房にておとうふの製造販売に励む彼は、販売に出れば、持ち前の人当たりの良さでお客さんの中に彼のファンができるほど。本人は常に自然体。たどたどしい言葉ながら熱心に販売に取り組む姿勢が周りを惹きつける。彼がおのずと筆を走らせた作品が今回の作品。被写体を見ながら描くのではなく、彼の中にある花はチューリップやヒマワリ、サボテンなど様々で枠にとらわれず咲かせたかったとのこと。たくさんの色を重ねたのもお気に入り。「レモンイエローがいいねん」は描き上げた彼の言葉。
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アーティストの人柄が溢れ出すようなストーリーに思わず顔がほころぶ。

このストーリーは、MUKUのスタッフがアーティストやそのご家族など、一人ひとりにお話を伺って書き上げたもの。

きょうされん渡部さんは「これができたのはヘラルボニーさんだからこそ」と言う。

一人ひとりに向き合い、思いをくみ上げ、言葉にする。ストーリーとともに世に発信する。

その形は様々で自在だ。

気づいていないだけで、これまでにも身の回りには彼らの作品が存在していたのかもしれない。かといって、今後も作者が障害者ということによって殊更に気づく必要もないのかもしれない。

それぞれが素敵だなと思う作品や商品に出会ったとき、その背景に彼らがいるかもしれないというだけのこと。

今回はハンカチだが、次回は何になるだろう。次の出会いも楽しみだ。

※ご紹介:
今回紹介しきれなかった他のハンカチのストーリーはこちらから
ヘラルボニー WEBサイト
MUKU WEBサイト
きょうされん WEBサイト

 

取材・文: 飯沼瑶子
Reporting and Statement: nummy

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