今、ハリウッドで話題の「インクルージョン・ライダー」ってなに?
- コミュニケーションプランナー
- 清水鈴
アカデミー賞授賞式で主演女優賞俳優が発した言葉
先月行われた、第90回アカデミー賞授賞式。今年もどの作品が最高峰の作品賞(Best Picture)を獲るのか、楽しみにしていた方も多かったと思います。ただ日本から遠く離れたところで授賞式が行われていることもあり、日本に入ってくる情報としては「シェイプ・オブ・ウォーター」が作品賞を獲ったことや、辻一弘氏が日本人ではじめてメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した話など、ごくわずかな情報だったと感じています。このような喜ばしいニュースに加え、北米で非常に話題となり、ツイッターで沢山の人につぶやかれた言葉がありました。
“Inclusion Rider(インクルージョン・ライダー)”という言葉です。
多くの方にとって聞き慣れない言葉だと思います。つい最近まで海外で長く生活をしていた私でさえ、全く馴染みのない言葉でした。この言葉は主演女優賞に輝いた女優フランシス・マクドーマンドさんが受賞スピーチの時に発した言葉です。
彼女は、受賞スピーチの折、最後にこう言いました。
「私は今晩二つの言葉を残したいと思います。インクルージョン・ライダーです」
このinclusion rider、アメリカ人も”inclusion writer”などの言葉と勘違いすることもあったぐらい、まだまだアメリカでも浸透はしていませんが、コンセプトとしては納得深いものかもしれません。
米『ワシントンポスト』紙によると、「inclusion rider」は「映画に登場する人物のなかに、女性、少数民族、LGBTQコミュニティの人々、障害をもつ人々がある程度の割合で入っていること」を条件とした要項のこと。つまり、現在のアメリカを舞台にしたドラマを制作する場合、出演者の50%は女性の役者、50%は白人以外の役者、20%は障害を持つ役者、5%はLGBTQコミュニティに属する役者というように、その土地の実態に即した割合でキャストの構成をしなければならないということです。また、これは、主要キャストに限らず、映画クルー、すなわちエキストラや制作スタッフに対しても同じことを求めています。
この言葉は、一般的な視聴者に向けられた言葉というより、その場に出席していた沢山の俳優や制作に関わる人々に対しての言葉と思われます。理由としては、riderとは「その俳優が出演契約を結ぶ際に付帯条項」という意味であり、その際に職場のinclusionも契約に含めることで、キャストだけでなく制作スタッフにも多様性に富んだ環境を保障することができるからです。
「インクルージョン」という考え方が各業界で広がり始めている
最近、この「インクルージョン」という言葉を耳にする方も多いのではないでしょうか。「ダイバーシティー」という言葉とあまり違いがないと考えるかもしれませんが、実は、似ているようで全く違う意味を持つと私は捉えております。
例えば、「ダイバーシティー」という言葉は多様性のある状態を、「インクルージョン」は内に様々な人を取り入れるという意味を持つと考えています。ゆえに、似ているようで似ていない、ここ最近のホットワードと言って良いかもしれません。この「インクルージョン」の考えは映画業界に留まらず、他にもフランスのファッション業界では業界大手企業のケリングとLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトンが共同で、女性サイズ基準をキャスティング要件から外したことやダイバーシティーの雇用が話題となっています。
「Inclusion Rider」という言葉自体は、まだ市民権を得ていると言えるほどの浸透はしていません。ただ世界的に注目が集まるようなアカデミー賞授賞式という場でフランシス・マクドーマンドさんのように、会場にいる女性に起立させ、声を高々にして多様性とインクルージョンを賞賛し、他の人も支援を表明するのを見ると、これからもますますエンタメという切り口で社会課題に大きなインパクトを与えていく機会を目にすることができるのではないかと思っています。
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