cococolor cococolor

26

Oct.

2020

column
7 Jul. 2020

[やさしい日本語]#3  「ハサミの法則」というシンプルなコツ

吉開章
やさしい日本語プロデューサー
吉開章

今回やさしい日本語とは具体的にどんな表現なのか、見ていきます。 

 

やさしい日本語「書き換え」の基準

前回のコラムでも書いた通り、やさしい日本語に答えはありません。しかし、情報を発信する場面では、表現を絞って「書き換える」必要が出てきます。そのときの基準には、どんなものがあるでしょうか。

 

これまで目安として使われてきたのは、第二言語として日本語を学ぶ人が多数受験する「日本語能力試験(JLPT)」のレベルです。英語で言えば英検に相当するJLPTですが、最上位のN1からもっとも初級レベルのN5まで5段階のうち、下から2つであるN4とN5の範囲の語彙や文法で表現することが推奨されています。

JLPT レベル別文法例

 

単語の言い換えチェックはツールを活用

やさしい日本語への「書き換え」は、基準にしたがって事前に準備するという側面が大きく、実際に手を動かす人も限られています。担当する人は基準を熟知することが重要    ですが、実際に上記のような表を暗記するのも現実的ではありません。そこで実務上は語彙の難易度をチェックするシステムを活用します。

 

最近ではAI技術を活用して、やさしい日本語に自動翻訳するサービスも登場しています。 

 

「ハサミの法則」:口頭でのやさしい日本語のシンプルなコツ

 一方やさしい日本語への「言い換え」は、日本語を母語とする人全員に関係する話です事前に基準を熟知することは難しく、相手に合わせた対応が求められますが、自分話す内容は、意識次第でコントロールすることができます。重要でない情報は、言い換えのではなくバッサリ切ってしまうという選択肢もありますやさしい日本語への「言い換え」は、単語単位での細かい基準にこだわらず、内容そのものをわかりやすくする方が効果的だと言われています  

日本語が少し話せる人と会話するときは、「ハサミの法則」役に立ちます 

 

 はっきり言う」は、単にゆっくり言うことではなく、できるかぎり明瞭な意味の言葉を、明瞭な発音で言うことです。日本語は他の言語より音の体系がシンプルで、聞き取りやすいと言われています。しかし日本語話者はひらがなの文字単位で単語を意識しているため、「お名前は?」と聞いて相手が理解しなかった場合、「お〜な〜ま〜え〜は?」と各文字を伸ばしたりします。このような言い方は、逆にわかりにくくなってしまうので、注意が必要です 

 さいごまで言う」は、文末の「です」「ます」「ください」まできちんと発音することです。「イヤフォンから音楽がもれているのですが。」というだけですぐに意図が伝わる場合もありますが、さいごまで言わないとコミュニケーションが成立しない場合もあります。相手は、まだ文章が終わっていないと理解し、話の続きを待っているかもしれません。そんなときは、はっきり「イヤフォンから音が出ています。小さくしてください。」と言うことで、伝わりやすくなります。 

 みじかく言う」は、3つのうち最も重要な心得です。やさしい日本語には答えはありませんが、長い文章を短く区切ることには答えがあります 

 以下の文を見てみましょう。 

 例1:私は医者をしている兄がいる。 

 「私」と「兄」の2人の登場人物と、「している」と「いる」の2つの述語(動詞)この1文に入っています。こういうと「私が医者をしている」と勘違いする人もでてきます。 

 文の最小単位は、「主語」と「述語」がそれぞれ1つずつある「単文」です。この例文を単文に分割し、日本語学習者が教科書で学ぶ「です・ます」の形に書き直すと、 

 書き換え例:私は兄がいます。彼は医者をしています。 

 となります。このような言い方をすれば、文の構造をかんたんにつかむことができます。 

もう一つ、長い文を「ハサミの法則」でチョキチョキ切ってみましょう。 

 例2:昨日はじめて行ったカフェで食べたケーキがとても美味しかったので、今日また行って家族の分も買って家で食べました。 

 このような表現はよく見られますが、以下のように単文に分割ることもできます 

書き換え例: 

・私は昨日カフェに行きました。 

私はそのカフェに初めて行きました。 

・そのカフェのケーキはとてもおいしかったです。 

・私は今日そのカフェに行きました。 

・私は家族のために、ケーキを買いました。 

・家族でケーキをおいしく食べました。  

これであれば、日本語初心者でも理解できる人が多いはずです。 

 このような分割をみて「くどい」と思う人も多いでしょう。その感覚はとても大事です。そもそも時間をかけて言うほどでもないことは、思い切って言うのをやめるも選択肢の一つです。例えば以下のような文はどうでしょう。 

 

 ・私は昨日カフェに行きました。 

・そのカフェのケーキはとてもおいしかったです。 

・今日そのケーキを家族のために買いました。 

家族みんなでそのケーキを食べました。  

 

このように、「はっきり」「さいごまで」「みじかく」言うことで、自分の言葉が相手に伝わっているか? 伝わっていないとしたら、どこで詰まっているのか? を考えることができます。相手の表情やリアクションを見ながら、細かく、何度もキャッチボールを重ねてみる。そのうちに、お互いに「あ、なるほど!」という場面が訪れるはずです。やさしい日本語を使おうとするときは、「ハサミの法則」をぜひ思い出してくださいね。 


—アートディレクション: 三宅優輝—

取材・文: 吉開章
Reporting and Statement: akirayoshikai

関連記事

この人の記事