[やさしい日本語]#4 やさしい日本語を必要とするさまざまな人
- やさしい日本語プロデューサー
- 吉開章
今回のコラムでは、「日本で生まれ、日本で暮らしながら、日本語に困難を抱える人々」に注目します。
聴覚障害者にとっての日本語習得とは。
第一回目のコラムで触れたように、生まれたばかりの子どもは、家族や地域で使われている言葉を聞くことで母語として自然に身につけていきます。では、音声でのコミュニケーションによって日本語を獲得できない場合はどうでしょうか。以下の2つがあると言われています。
- 聴覚口話法による日本語の母語習得
日本語を母語として習得することを目的に置く。補聴器や人工内耳を使って、自身の聴力を活用しながら、人が話す口元の動きから言葉を読み取る。自分では聴くことが難しい声を訓練によって発声する。聴者のコミュニケーションのやり方に近づけることを目標とする。
- 母語として「日本手話」を習得後、日本語を第二言語として習得
日本手話を自然に母語として獲得することで、「ろう者」として育つ。そのあと、書記日本語(読み書き)を学ぶ。聴覚活用や口話を学ばない場合もあり、その際は書記日本語か手話通訳を通じて聴者と意思疎通する。(日本手話およびろう文化については、「コピーライターが見た、手話という言語。手話という文化。」をご覧ください。)
聴覚障害者の人たちと話すときにも、やさしい日本語を。
聴者と聴覚障害者の人たちが直接コミュニケーションをとるときにも、意識したいのは「ハサミの法則」です。
聴覚障害者の人たちは、相手の口元を読み、微かな音の違いを活用していることに配慮する必要があります。だらだら話すことは、彼らの理解を妨げることになります。ほかにも、「公開する/後悔する」のような同音異義語を避けたり、「集合する」のような漢語ではなく「集まる」のような和語を使ったりすることも意識してみましょう。
しかし、どんなに発声を訓練したとしても、自分で聞こえない声を調整するには限界があります。「しゃ」と「ちゃ」の区別も難しく、「電車」を「でんちゃ」というように発音することもあります。また日本語を第二言語として学ぶろう者は、メールなどでも、日本語初学者と同じような文法の間違いをすることがあります。そこでも、第一回のコラムで触れた「お互いさま」の気持ちが何より大切になってきます。
他にもいる、日本語が理由で生きづらさを感じる人たち。
この他にも、言語、特に情報保障の面で生きづらさを感じている人がいます。例えば知的障害者の人たちです。家族など支援者たちが代わりに情報収集をすることが暗黙の了解となっており、本人の自立を妨げているという指摘があります。やさしい日本語での情報発信が増えていることは、同時に知的障害者がアクセス可能な情報の幅を広げることにもなると歓迎されています。
さらに識字障害(ディスレクシア)や視覚障害を抱える人への情報保障にも課題があります。これらの人たちがウェブサイトなどの情報にアクセスするときは音声読み上げソフトが便利ですが、誤読も多く、ふりがなを二重に読んでしまうなど解決すべき点が残されています。やさしい日本語でも、漢字にはふりがなを振ることが推奨されていますが、改善や検証が望まれています。
ここまで見てきたように、コミュニケーションや情報保障で配慮を必要とするさまざまな人たちがいます。日本自立生活センターのあべやすし氏の「ことばのバリアフリー」(生活書院)が詳しいのでぜひ読んでみてください。
今回は、やさしい日本語を必要とするさまざまな人について、見てきました。「やさしい」が示すものは、「平易な表現」ということだけではありません。そのことを、実感いただけたでしょうか。結局のところ、コミュニケーションを取る相手に対して、どれだけ想像力を持てるか? が大切なのだと思います。自分の話を、伝えたい。相手のことを、もっと分かりたい。その気持ちこそが、「やさしい」日本語のもっとも根幹となるものではないでしょうか。
—アートディレクション: 三宅優輝—
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