誰でも参加できる、ソーシャルサーカスの可能性。
- プランナー
- 吉澤彩香
カラダを動かす。社会が動く。
身体性から始まる、風が吹けば的共生社会のヒント。
Vol.2
自由に楽しむことから拡がる可能性
ソーシャルサーカスが、社会の課題を解決している理由
Vol.1でお話を伺った、栗栖良依さんと、TOMOYAさん が話題にしていた“ソーシャルサーカス”。
初対面の参加者が取り組むことで、コミュニケーションの土台をつくり、効率的なアイスブレイクとなります。
ソーシャルサーカスは、日本ではまだ耳慣れないです言葉ですが、ワクワクするイメージもあるサーカスが、ソーシャルという社会性にどう作用するのでしょうか。
SLOW LABEL主催のサーカスワークショップで講師を務めるサーカスアーティストで、SLOW MOVEMENTパフォーミングディレクターの金井ケイスケさんや、ワークショップの参加者にお話を伺い、筆者も実際に体験させてただきました。
ワークショップを覗いてみた
20人くらいの参加者が集まり、ソーシャルサーカスのワークショップが、横浜市の象の鼻テラスにて開催されました。親子で参加されていたり、お一人だったりと、老若男女問わず様々な方々が参加されていました。金井さんの掛け声で、みんなで輪になりストレッチと自己紹介が始まりました。
自己紹介といっても、只、名前を述べるのではなく、自分の名前を叫びながら、ジャンプしてみたり、回転してみたりなど、カラダも使って自由に表現します。このアイスブレイクが突破できると、自然とみなさん笑顔になって、早くも緊張がほぐれていく様子が伺えました。
ワークショップの前半はカラダとコミュニケーションのウォーミングアップが中心でした。3人グループで肩をくっつけ合ったり、自由に歩き回りながらすれ違う人とハイタッチしたりして、参加者同士の関係性を徐々に深めていきます。日常生活で、他人といきなりハイタッチすることなんてそんなにないので、はじめは戸惑いましたが、、みなさんが笑顔でハイタッチする光景を見て、思い切ってハイタッチしてみると、自然と笑顔で人と触れることができ、一気に心の距離が縮まるアクションなんだなと体感しました。
後半は、サーカスの実践です。準備された、皿回しやジャグリングなど、様々なサーカス用の道具から、自分のやりたいものを自由に選びます。始まると、同じ道具を使っている人同士がグループになって、自然とアイデアを共有していました。
わたしもやってみました。孔雀の羽を手や肩などカラダの好きな部分に乗せて、バランスを取りながら、羽が落ちない状態を保ちます。シンプルにみえますが、意外と難しくてはまります。
このワークショップでの一番の醍醐味は、“ソレイユ”という、小さなボールを細いポールの上に乗せる種目です。太陽のように広がってつながり、真ん中にボールを乗せた紐をみなで持ち、バランスを保ちながら移動させて、ポールに乗せます。これはチームワークが無いと完成しないので、見学してもハラハラしちゃいます。
ソレイユが終わると、チームの一体感が高まりました。徐々にコミュニケーションの壁を取り払えるように、プログラムが構成されていたり、カラフルなサーカス道具をうまく扱えるよう自分なりのペースで工夫しながら創造力を育んだり、ソレイユで協調性を高めることができたりと、コミュニケーションの基礎のトレーニングが楽しく身に付くワークショップでした。
ソーシャルサーカス体験者のお話
ソーシャルサーカスのワークショップに参加された、小川香織さん、五十嵐謙さんに体験後にお話しをお伺いしました。
左:金井ケイスケさん 中央:五十嵐謙さん 右:小川香織さん
五十嵐さんは、人と話すことが好きなので、ソーシャルサーカスに参加してみて、どうやったら自分の言いたいことが伝わるかを自分で考えるようになられたとのことでした。また、手が不自由な中、「できる範囲のことをやってね」と言われるのも嬉しかったそうです。
小川さんは、自分で考えたり、やってみようという気持ちの変化があり、出来なかったことができるようになっていくことで自信がつき、その経験から他の人にもお勧めしたいそうです。
体験中は、時に笑顔で時に真剣な表情で挑戦し、失敗しても、成功しても、みんな笑っていて、観ていても楽しさが伝わってきました。
金井ケイスケさんにインタビュー
元々は、日本で現代サーカスをやられていた金井さん。現代サーカスを学ぶために、フランスへ渡り、国立のサーカス大学卒業後、世界中で公演を行いながら、10年間フランスに滞在されていました。アフリカや中東でサーカスのツアーをしたときに、現代サーカス文化が無い国でこそ、逆に何もないからこそ、サーカスアーティストとして何かできるのでないかと、日本への可能性を感じて帰国されました。
金井さんにソーシャルサーカスについてお話をお伺いしました。
世界はサーカスで課題を解決している
サーカスって、昔は家族で経営していたものですが、現代サーカスは、サーカス学校を出た人などの集まりです。他人ではありますが、サーカスカンパニーはいまでも大家族として互いに協力し合うんですね。サーカスには主役が存在せず、チケットの販売やポップコーン売りをしたりと、フラットな関係性の中でそれぞれができることをやって協力しながら運営します。フランスではサーカスはもっと身近な存在で、例えば小学校では課外授業の選択肢の中にサーカスがあり、ジャグリングや一輪車や、綱渡り、空中ブランコ、アクロバットなどいろんな種目をアーティストに教えてもらえるのが魅力で、いつも人気です。フランスの郊外に、障害者のかたが自給自足をして、自立して生活している村で公演したこともあります。村の人たちが歓迎してくださり、公演後にも夜通し踊ったり歌ったりしました。僕にとっては、障害のある方に対して見る目が変わった面白い体験でした。
また、南アフリカでは、ソーシャルサーカスを、貧困や少年犯罪などの更生や集団生活することを学ぶ場として経営している団体もあり、世界的な課題の解決の手法としてサーカスのメソッドが活用されています。発展途上国や紛争のある地域ではサーカスのワークショップの参加者に、お金やお弁当を支給する地域もあるのですが、これは、自治体が積極的に少しでも文化やアートに触れる機会を市民に届けようと行っているんです。サーカスは、言語や文化的な背景の理解、予備知識や経験がなくても楽しめ、世界中の人が共有しやすい世界観を持っています。そのような経験を通して、気づいたらかつて海外で見聞きしていたソーシャルサーカスを、自分でも担うようになっていました。
居場所が生まれる
身体能力が高いサーカスでは技術が優れているからといって、舞台に立った時の表現力も高いかというとそうではありません。体が不自由でもキャラクターが立っている人の方が面白かったりします。僕が障害のある人とのサーカスを続けてきた理由のひとつは、彼らは既に個性が際立っていて、そこに魅力を感じたから。個性を認めてくれる場所があることは彼らにとっても発見だと思うんです。最初から人を育てようという意識が強く働いていたのではなく、ただ、素敵な舞台を創れたらいいなと思っていて、そのプロセスの中で参加してくれた方が生き方を変えたり、親御さんとの関係を変えたりと、結果的にソーシャルサーカスになっていったんです。
ワークショップから学ぶコミュニケーションの基礎
ワークショップを開催する際には参加者同士がお互いにバリアを取り除き楽しんでもらうことを第一に考えています。言葉にして伝えるべきことや言葉にしすぎず体感を優先するべきことを、その場の状況に応じて判断し、進め方を変えています。聴覚障害の人は声では意味を伝えるのは難しいんです。一般社会でのコミニケーション “目を見て話す”や、“相手に合わせる”、“相手に時間をとる”ことが難しい一方で、コミュニケーションの難しさがあるからこそ、別のコミュニケーションが新たに生まれるんです。
みんが自然と自発的にコミュニケーションをつくっていけるようワークをデザインしています。
自己紹介からはじめるのは、相手がどんな人かを知ることも重要だから。次に肩と肩を触れるなど、徐々にグレードを上げて距離感を縮めていきます。また、ソーシャルサーカスでは、コミュニケーションの間に物を使うことも重要で、体を触れあうことを嫌がる人も、道具を使うことで、相手と適切な距離を測れるんです。かえって道具を使った方が難しい場合もあったり、道具を通して相手の微細な動きが伝わってきたりと、日常とは違うコンタクトの方法で、違う角度から相手を知ることができます。
ソーシャルサーカスの可能性
サーカスってやってみたくなる魅力があるんですよね。オープンソースなので先生や演出家が絶対ではなかったり、そもそも指導者がいなかったりと自由度が高いのが特徴で。上達のステップが具体的なので、全くの素人でも熟練者でも、それぞれのフェーズで満足感を得ることができます。例えば、いかに投げないジャグリングをするかにこだわる人もいたりして、探求すればするほどさらなる満足度が生まれます(笑)
だからこそ、子供も親も、高齢者であっても、自分のレベルで楽しめ、自分で目標を定めて楽しみながら取り組めるんですね。海外では世代や障害や価値観や人種を越えて一緒に一つの物を成し遂げることにソーシャルサーカスのメソッドを活用することもあり、ソーシャルサーカスには物凄い可能性があるのに、日本ではまだみんな気づいてないんですよね。僕の持っているサーカスの引き出しから、障害のある人に何が響くかを考えながら、ソーシャルサーカスの可能性を伝えられるよう、しっかり準備したいと思います!
気づいたら夢中になっていた活動が、世の中に良いアクションになる。
今回の取材ではじめて触れた「ソーシャルサーカス」は、性別も年齢も国籍も関係なく、みんなが楽しめて自分も参加できる、新しい身体活動でした。小川さんや五十嵐さんが実体験を通してお話くださったように、自分で目標を決めることが出来、みんなで楽しめるからコミュニケーションもうまれる。だからまた参加したくなるのですね。
たくさんの可能性を秘めているソーシャルサーカスに、普段はあまり一緒に出掛けることがない人と参加してみるのも面白そうです。
カラダを動かして、新しいワクワクに出会いましょう!
********イベント等告知**********
SLOW CIRCUS SCHOOL(スローサーカススクール)
日時:4月6日(土)10:00-12:30
場所:新豊洲Brilliaランニングスタジアム
定員:20名
要事前申し込み
https://www.slowlabel.info/1758/
注目のキーワード
関連記事
この人の記事
-
5 Jun. 2020
モンゴルの誰もが参加できる社会づくり
- プランナー
- 吉澤彩香
INTERVIEW, インクルーシブ・マーケティング, グローバル, 障害者差別解消法, インタビュー, 文化, 福祉, 障害,