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Mar.

2024

column
14 Oct. 2016

忍者になりたいむすめの話

半澤絵里奈
編集長 / プロデューサー
半澤絵里奈

娘が「にんじゃになりたい」と言い出した

七夕も間近に迫ったある夜のこと、保育園に娘を迎えに行くと、娘が「ねえ、ママ見て!」と言い、笹の葉にぶらさがった短冊をぐいっと私に見せてきた。そこには、娘の名前と共に「にんじゃになりたい」と書いてあった(先生による代筆)。「お、いいぞ、むすめ!」という気持ちと、「その選択は、なかなかしぶいぞ、むすめ!」という気持ちが瞬間的に交差した。「いいぞ!」と思ったのは、【忍者】に付随してくるコンテンツが、忍者そのものに限らず、他の歴史的人物や食文化、スポーツ、服装、暗号をはじめとするコミュニケーション技法など多岐に渡るため、様々なことを関連付けて日本文化を娘と体験できるのではないかと思ったのだった。
そして、周りのお友達の短冊を見渡すと、【忍者志望】はどうやら娘のみ、という状況も理解した。忍びの道を目指すものとして、その意思をはっきりと短冊に明文化してしまったところはちと痛いが相手は4歳、まずは、娘の思いの丈を聞くことにした。

 

どうやら本質的に忍者に憧れている様子

子育てをするとき、こどもの話を真摯に聞くべきだと思うが、一方で、何でも「うんうん」と鵜呑みにするのも個人的には好きではない。娘の思考に寄り添い、解析するかの如くゆるりゆるりと質問攻めにするのが楽しい。
何をきっかけに忍者を知ったのか、どう思っているのか、どんな仕事をしていると思うのか、忍者のしていることの何を娘がしたいと感じているのか…など、その夜、近所のレストランで、私はビールを片手に、娘は枝豆を両手に、忍者についての意見交換を実施した。

一言でいうと、娘はアニメコンテンツで忍者の存在を知り、保育園でお友達と情報交換や忍者ごっこを楽しみ、アンテナを張っているからこそ町を歩いていても忍者コンテンツが気になり始めていたようだ。また、スポーティで、かつ、難しくはないルールのある動作(両手を合わせて胸の前で組むこと等)が娘の心をつかみ、情報収集や情報そのものを大切にし、秘密を守り、正義心をもって戦うことに憧れているということも分かった。

「それって、まさに、心技体じゃないか…!本質的だ…」と、歴女の私はすっかり娘の夢にほれ込んだ。そして、忍者になることを応援しようと決めた。

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4歳といえども、座学と体験学習の積み重ね

「七夕の短冊見た?」と夫からも問われ、「・・・見た」と私。その日から、娘に「実はパパは忍者で、ママはくノ一なのである」というお知らせをし、娘からまぶしい視線を浴びつつ、夫婦互いの持ち場で娘の忍者修行を監修することにした。ポイントは2つ、座学と体験学習の積み重ね。「忍者が何者か、歴史的にどう扱われてきたか」ということも知ったほうが良いし、忍者の技もまずは全体的にどんなものがあるのか知ったほうがいい。できるだけ図解のものを選び、娘に何冊か参考文献を渡した。さらに、忍者は暗号を読み解くこともあるため、そこに近づく第一段階としてひらがなと数字の読み書きをマスターすることも目標にした。TVやウェブ動画の力も借り、座学ベースのイメージはこれで結構網羅できた。

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体験学習はまず自宅でできることからスタート。基本的には、身体能力の向上と成長に見合った技術力の獲得が望まれた。まっすぐに立ってじっとすることに始まり、片足立ち、物音を立てずに移動する、忍者のあらゆるポーズを覚える、シーツを使って背景とまじり隠れることなど、楽しみながら忍者の動きを体得していった。

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そして、小田原城へ行ってみることにした

親も楽なものではなかった、忍者と一口に言っても実在したと言われる人物や文献が多く残る歴史もあれば、作り話と言われるものまで多種多様ある。その忍者情報の中から、娘に提供できるコンテンツを選ばなければいけない。難しすぎると飽きてしまうし、簡単すぎると忍者を舐めかねない。ほどよい難易度の設定と、絶妙なタイミングでの新情報の提供が娘の好奇心と向上心を持続させた。ひらがなと数字の読み書きもだいぶマスターしてきていたので、より体感性が強く、娘の修行モチベーションも上がる体験をと思い、小田原城に行ってみることにした。

朝から「にんじゃにんじゃにんじゃにんじゃー!」と大興奮状態にある娘を引き連れ、小田原城に着いた頃には大雨だったが、早速、城内を見学。お城のベランダから相模湾を一望し終わったころ、娘がふと止まって、「で、ママ、にんじゃはどこ?」と言う。そうか、さすがに4歳。城内・城跡から忍者の歴史を感じ取ることは難しく、もっとわかりやすいものをということで忍者衣装の着付けを体験しにいこうと娘を誘った。

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着付け小屋の前に着くなり娘は一目散にスタッフに駆け寄り、「にんじゃでおねがいします!」と力強く伝えた。その後、着替えをさせてくれるスタッフのおじさまにも「にんじゃになりたいんです!」と熱く訴え、着替えている最中もずっとそわそわしている。忍者衣装に身を包んだ自分を何度も鏡で確認し、あらゆるポーズを試して写真を撮影するように催促。帰宅してからもずっとその思い出を反芻するようにお土産で購入した忍者の下敷きを愛おしそうに撫でていた。

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第二の目玉体験は、今年の企画展

実は娘が短冊に願いを書いた頃から目をつけていた企画展が、この夏から秋にかけて日本科学未来館で開かれていた(10/10で終了、次は10/25より三重県総合博物館で開催予定)。それが、「The NINJA-忍者ってナンジャ?!」という、忍者をあらゆる視点から科学的に紐解いた企画展示だった。聞くところによると、オープン直後から大人気で、土日は家族連れで溢れかえり、海外からの観光客も多く来場しているという。少しでも空いている平日を狙って、まずは私の両親に連れて行ってもらい(そこで買ってもらった手裏剣を毎日枕元に置いて寝ている)、娘たっての希望で私が休みをとれた日にもう一度再訪した。なお、来訪時のファッションは、小田原城で購入した忍者Tシャツに、くノ一らしいピンクのスパッツ、そして娘がどうしても買ってほしいと切願してきた頭からかぶる忍者マスクを身につけ、くまのぬいぐるみも頭に手拭いを巻いて同行した。

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重要なポイントである「心・技・体」を分解して、展示と体験ゾーンが展開されている。

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長い距離を楽に歩く方法を専属スタッフが指導してくれるプログラム、歩くときに物音がするとセンサーが反応する仕組みになっているコンテンツ、形も様々な手裏剣の展示、五感を利用した物事の判断体験、デジタル技術を活用した忍者ポーズの評価システムなど非常に興味深いものが多く、娘は体を使って楽しみながら理解し、私は展示内容や動画コンテンツを通じて科学的に説明される忍者の世界を改めて楽しむことができた。

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そして、企画展の最後には一人一人に【忍者認定】証が贈呈され、この夏の努力の甲斐もあって、娘はついに「にんじゃになる」という夢を叶えた。

忍者コンテンツを通した自国文化の理解

約4か月間に渡って、娘が短冊に書いた夢を家族で真剣に追った。初めの目論見通りと言うわけではないが、【忍者】というコンテンツを通して、自国文化である日本文化に関心を持って接するという機会を得た娘は、想像以上に自発的に修行に取り組んだ。
伝統的な日本文化といえば、これまでも歌舞伎の『連獅子』にはまったり、『寿限無』に大うけして一緒に落語を聞きに行ったりもしてきたが、娘の忍者への傾倒ぶりはそれらと比較しても群を抜いていた。だからこそ、「知りたい」「見たい」「やってみたい」という気持ちを引き出すことができたのだと思う。

自分とは違う環境で育ったり、過ごしたりしている人々と尊重しあっていくためには、まず「自らは何者なのか」というオリジンを幼少期から感じていくことも大切な経験といえるだろう。日本文化をすべてを知り尽くすのはとても大変だが、それを代表する一つのコンテンツを通じて、積極的に学ぶ姿勢をとれたことは非常に良かった。この4か月の努力で娘は、忍者を知らない人に対して、忍者がどんなものなのか説明できるようになったし、忍者文化に誇りを持っているように感じる。

その後も、娘の興味は留まることを知らず、忍者図鑑を読み漁っており、一人のくノ一としてこれからも修行に励むという。次に計画しているのは、伊賀忍者の軌跡をたどりながら娘と三重を旅することや、永く組紐技術に携わる祖母に弟子入りして組紐で忍者グッズを作ること、そして現代版忍者メシ開発などである。

忍者ファミリーとして、私たちの修行はまだまだ続いていきそうだ。

取材・文: 半澤絵里奈
Reporting and Statement: elinahanzawa

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