生理から紐解く、ジェンダーステレオタイプ ~“アタリマエ”を越えた新しい選択肢~
- プランナー
- 河合はるか
月経が始まり、閉経を迎えるまでは平均で約38年間。
1か月に、約5日~7日間に渡ってやってくるため、一生分で計算すると約6年。
改めて足し上げてみると思っていたより、長い期間を生理と共にしていることが分かる。
今回のメインテーマは、「生理×ジェンダーステレオタイプ」。
生理という身体現象に対しての機能性に、女性らしさというジェンダーステレオタイプは不要なのではないか。
ジェンダーステレオタイプと戦うサッカー選手と一緒に、紐解いていこう。
1年ぶり、3回目のオンライン会議
下山田選手(以後、愛称を込めて、しも)とは、ココカラーを縁になぜか毎年この時期に会話させてもらっている。
2019年に取材したときは、まだドイツでサッカーをプレーしていて、これから日本に帰ってくるというタイミングだった。
その時のお話しは、女子サッカー界の「メンズ」として記事化している。
メンズについては理解があるものの、サッカー界はまだ、性表現のステレオタイプが強いということを教えてくれた。
2年前の記事の中でも、しもはジェンダーのステレオタイプに疑問をなげかけていた。
2020年5月。
「そういえば、2019年の時はドイツと日本で時差通話したね~」と、ZOOMミーティングで、しもの近状を伺ったところ、
なんと、生理の時にはく吸水パンツを作りたいと思って、開発中だというから驚きだ。
そして、先日届いた1通の嬉しい報告。
(約1年ぶり、絶妙な距離感で攻めてくる下山田選手こと、しも)
なんと、パンツ。できたらしい。
すごい。どんなパンツができたのだろう?!
クラウドファンディングサイトへすぐにアクセスし、まず視覚的なデザインで納得、そしてコンセプトを読み納得。
「これは、しもだから作れるパンツだ。」と感動したところで、購入ボタンをクリック。3人目の支援者に。
(しもはお洒落な喫茶の個室スペースから、オンラインで取材に参加)
こんなクールでスタイリッシュな吸水パンツに出会ったことはないんだけれど、どんなこだわりを持って製作したの?
「女性用プロダクトのジェンダーステレオタイプに依存したくない、という想いがあったので、カラー・デザイン展開においては自分の思う“かっこいい”を表現しましたね。ボクサー型なんですが、開発にあたっては、ボクサーパンツのユーザーにもヒアリングをして、レディースボクサーとメンズボクサーの違いについては徹底的に話し込みました。」
OPTとは、4層の素材で、液体の漏れだけなく、履き心地に繋がる伸縮性や、不快感を軽減する速乾性・吸水性、
そして、抗菌まで備わったボクサーパンツ型の吸水パンツ。
予約販売開始のリリースから、なんと1日で100%に到達し、残り3日…現在は、500%を超えている。
はじめは、約2年に渡る開発期間を知っている人と、Rebolt共同代表の内山さんを起点に広がっていたが、今やOPTのようなプロダクトを欲していた潜在的なユーザーたちからの口コミで話題沸騰だ。
生理の気持ち悪さ、違和感からの開発
ところで、しもはどうしてOPTというプロダクトを製作しようと思ったの?
「元々、生理用品を付けていて気持ち悪かったからですね。特に、サッカーのプレー中は邪魔をされるという感覚がありました。」
たしかに、ズレるかも、モレるかも、と心配になりプレーに集中出来なさそう。
筆者自身も、学生時代に「あ、生理なのかな?」って思われるのも嫌で、なかなかトイレに行けなかった。
私は、生理用品を持ち歩いたり、ポーチに入れたりするのも嫌だった…そういう経験ありますか?
「わかる…わかりすぎる。ポーチとかないし、制服にナプキンを滑りこませていました。」
ナプキンを裸のまま握りしめていた、学生時代。
このような1人1人の小さなストレスを失くしていきたい。と、しもは語ってくれた。
(ナプキンを制服に滑り込ませていた学生時代を表現中。学生時代の2人にOPTを送りたい。)
吸水機能のあるかっこいいボクサーパンツがあればいいのに
「他の吸水パンツが登場したときに、これで全部悩みが解決される。と思ったんです。
ただ、デザインを見たときに、機能はあるけどいつも通りではなかった。機能面の気持ち悪さは解決されたけど、デザイン面での心地悪さが残りました。」
レースであしらっているものやピンク色なデザインのものにも素敵なものもありますが、確かにジェンダーフリーなデザインではなかったかもしれない。どうしても、生理用品に「女性らしさ」のステレオタイプは付いてきがちだ。
「ああ、自分は買えないな。と思うとともに、絶対自分と同じように悩んでいる人がいると思いましたね。
どうしても生理用品の開発時に、“女性らしさ”を意識してしまうのだと思います。
フェミニンな女性ばっかりじゃなくてもいいじゃん?という考え方が広がる中で、中性的なものや、可愛すぎないものは増えてきましたが、“かっこいい”とか“強い”というプロダクトは無いと感じました。」
なぜ、デザインで排除されるのだろう?とモヤモヤしたという、しも。
いつもはいているスタイルのパンツに吸水機能がつけば、毎月ハッピーなのに。この思いが開発の引き金になった。
誰もがOPTできるように
現在は、ボクサーで黒という展開だけど、他のカラー展開などは考えているの?
「正直、1枚を作るのに手いっぱいで、作る話はなかったんですが、“選ぶ”という視点を大事にしていくことを考えて、2週間前からカラー展開とショーツ型の開発を検討しています。
また、OPT=ボクサーパンツだと固定されてしまうことで、理念には共感するが、選択したいと思わない人がいるのではないか?と、皆さんからの意見を受けて、チームで考え直すことも多いです。」
クラウドファンディングをしてから、出てきた声を率直に受け取って改良、開発を進めているようだ。
その思いは、プロダクト名の「OPT」にも込められている。
「OPTとは、“選択する”という動詞です。“選択”というワードは譲れないキーワードだったので、とても丁寧にワード選びをしました。これからは、OPTを通じて、女性の身体を持つ人、生理が来る人にとって、選べる幅が狭まることはおかしい。と問題提起していきたいです。」
持ち運びやすさ、吸水の量、カラーやパンツの形状など、色んな人の視点でのOPTを広げていきたいと語った、しも。
そんなしもに、これから取り組んでいきたい挑戦を伺ってみた。
OPTを自己表現ツールに
ジェンダーのアタリマエを超えていくという理念を掲げるReboltとしては、今後どんな活動を視野に入れていますか?
「これからは、アスリートの自己表現を支えたいと思っています。アスリートの中にはまだまだ、表にでることに臆病な人が多いので、OPTを自己表現のツールにして、引き出していきたいですね。
だからこそ、どんな髪型でも、アイデンティティでも、性表現をしていてもOPTを履いて自由に自分を表現することに挑戦してもらいたいんです。そして、そんなアスリートの姿を通して、アタリマエに苦しむ人たちをエンパワーメントしていきたい。」
共同代表の内山選手(左)と下山田選手(右)
共同代表の内山氏とは、2人でいることで2つの側面で魅力の幅が広がっていると語ってくれた、しも。
Reboltのメンバー増員について尋ねてみた。
「実は、Reboltの理念に共感してくれたボランティアの方が1人います。サッカーを軸にして、心の部分で繋がっている仲間が増えることはすごく嬉しいですね。内山のこともコンビとして、リスペクトしています。」
“生理を楽しもうということではなく、どうせ長くつきあっていくなら、自分らしく、かっこよくいたい。”
これこそが、OPTが他の生理パンツと違う唯一無二である、ポイント。
しもが感じた、「ああ、自分は買えない。」という思い。
こんな思いをせず、選択肢に出会えるよう、これからもReboltには創造を続けて欲しい。
≪下山田選手プロフィール≫
サッカー選手。現在はなでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCに所属。
慶應義塾大学卒業後、ドイツへ渡り、女子ブンデスリーガ2部SVメッペンで2年間プレーした後、2019年夏に帰国。帰国後、同性パートナーがいることをカミングアウトし、サッカー選手として競技を行いながらLGBTQに関する活動をスタート。講演会やイベント、メディアなどを通して「ジェンダーやセクシャリティにとらわれず、どんな場所でもどんな時でも自分らしく生きていきたい」という想いを発信している。
2019年10月、内山穂南 と下山田志帆が共同代表で設立。
『ジェンダーのアタリマエを超えていく』というミッションを掲げ、アスリートを表現者に、社会課題への問題提起を行うプロダクト・サービスを生み出している。