食のダイバーシティ・アテンダント #3 「食から広げ、繋げるダイバーシティ・アテンダントの未来」
- プランナー
- 河合はるか
3回に分けてお届けする『食のダイバーシティ・アテンダント』
ダイバーシティ・アテンダントとは、「多様な人々への深い理解とまなざしを持つ人」のことです。
今回は衣食住の中でも国や宗教、文化で大きく異なる「食」について着目していきたいと思います。
#1 「コロナ禍で加速した食のダイバーシティ?」では、食の制限の分類を中心に、日本で広がりつつあるヴィーガンメニューを紹介。
前回、食のダイバーシティ・アテンダント #2 「実は日本はニッチ市場?日本から考える、フードダイバーシティ」では、
ムスリムフレンドリーメニューを展開する大久手山本屋5代目の青木さんに、フードダイバーシティ(食の多文化共生)をテーマに食の世界規格についてお話しをお伺いしました。
Vol.3の本記事でも引き続き青木さんと、世界規格というキーワードをもとに、日本だけでなく世界へ広げ、世界と共存していく食文化の未来について考えていきます。
日本食を世界規格にする必要性とは
新型コロナウイルスの拡大において、多大なダメージを受けた飲食業界。
インバウンドの観光客減少だけでなく、これからも未曽有のリスクが生まれるかもしれない中では、「誰かに依存することなく、自分たちで武器を持っていく必要がある。」と青木さんは語ります。
Q.飲食店の視点で、日本食を世界規格にする必要性は、どんな点にありますか?
「海外で日本食を広めたい!と思った場合、まずは、味・価格ももちろん大事ですが、その国の方々の宗教や考え方により食べられるかどうかも重要です。
どれだけ良い美味しい日本食でも、例えば、イスラム教圏で商売する場合、ムスリム対応していなければ、まず選択してもらう土俵に上がれません。ベジタリアン、その他の宗教も同様です。
もちろん、食の禁忌がないエリアだけをターゲットにするのであれば問題ないですが、ムスリムやベジタリアンは、世界でも非常に多いので、食べていただけるお客様の母数を増やすことができます。
特に、ムスリムは世界に16億人います。ムスリム対応するかしないかで、世界の16億人が食べれるかどうかが決まるわけです。」
インドネシアで開催されたフランチャイズEXPOにもオンラインで登壇された青木さんは、選択してもらう土壌にあがるためのフード・ダイバーシティの重要性についてこちらの絵で説明してくれました。
(引用:フードダイバーシティ株式会社)
お店Aとお店Bが、食べられないという壁に立ちふさがれているという絵ですが、大久手山本屋の味噌煮込みうどんは、この壁を越えています。
(引用:フードダイバーシティ株式会社)
そもそもムスリム対応していないと、24.3憶の人から選択してもらう土壌には立てないことになります。
「フードダイバーシティを行っていないということは、マイナスからのスタートであるということ。食のダイバーシティ・アテンダントは、飲食業界においても武器になるという視点を広げてほしいです。」と青木さん。
より多くの人々に味わってもらうためには、食材、調理法を含めてオープンにし、まず見つけてもらえるアピールが大切になります。
前回、世界規格という視点で「食」を捉えた際、日本人の食文化は、決してスタンダードではないということに触れました。
日本の食文化を守ろうとするがあまり、海外展開を恐れているのではないでしょうか。
例えば、お寿司ひとつとっても、「これは寿司じゃない!」と否定してしまうのは、日本食のフードダイバーシティのチャンスを逃しているように感じました。
その土地ならではの規格に合わせて進化、適応することこそが食のダイバーシティ・アテンダントなのかもしれません。
我々も、本場のインドカレーのように辛くないカレーなど新しい領域を生み出していますよね。
日本食は、フードダイバーシティと相性が良い?!
Q. 日本食のムスリム対応のハードルは高いのでしょうか?
「日本食では、みりん、お酢を別のものに転換させるだけ。お店の方が思っているより意外と簡単です。
特に、日本の歴史を振り返れば、一汁一菜などの粗食は今で言うところのベジタリアンの生活に近く、日本食にはベジタリアン向きの食材が多い。こんにゃく、きのこなど植物性だけど、うま味が強い!という食材が多いので、こういった食材は生かしていきたいですね。」
(一汁一菜などの日本古来の粗食文化)
日本食は、ダイバーシティ・アテンダントの一歩を踏み出しやすい食文化であると分かりました。
繊細で奥深い日本食だからこそ、調味料の足し算引き算をすることで日本食の伝統を引き継いだダイバーシティ・アテンダントが可能なのではないでしょうか。
Q.ダイバーシティ・アテンダントして欲しい食材やメニューはありますか?
「全ての食事は、対応できると思いますが、特に、ラーメンです。
ラーメンの認知度はものすごく高く、日本に来てラーメンを食べにくる海外の方はとても多いです。ベジタリアン対応にはまだ課題がありますが、お寿司などは対応が進んでいますね。」
Vol.1でも紹介した博多豚骨ラーメン「一風堂」もその一例です。
もはやラーメンは、中華麵ではなく、日本食として定着しているのです。
「あとは、ご当地グルメは全般的に、どんどん対応してほしいです。結局、名古屋に行っても…。北海道に行っても…。その土地の名物を食べることができないというのは、おもてなしとしても勿体ないと思います。」
地域創生という観点でも、重要なキーワードになる食のダイバーシティ・アテンダント。
インバウンドの観光だけでなく、日本に住むムスリムの方の国内旅行での、”その地域の食材を口にしたい”という思いを形にしていって欲しいです。
⒞公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューローの公開する『多様な文化・習慣を持つ外国人旅行者受入のためのおもてなしガイドブック』では、飲食店のフードダイバーシティのはじめの一歩として、まずベジタリアン対応を考えてから、宗教ごとの対応などを掛け合わせていく。という方法を提唱しています。
(引用:『多様な文化・習慣を持つ外国人旅行者受入のためのおもてなしガイドブック』 )
このように多様性も様々です。グラデーションに合わせ、足し引きで考えると、ダイバーシティ対応も難しくないのではないでしょうか。
(もやし多め、にんにく抜き、背油少なめと、ラーメンを食べる時のこだわりのほうが高度だったりします…)
調味料の輸出の難しさ
Q.フードダイバーシティにおける青木さんの次の目標を教えてください。
「ダイバーシティ・アテンダントしている日本食を増やし、そして世界に、日本食を広げるキッカケを創っていきたいですね。
というのも、味噌煮込みうどんは9割が愛知県の素材で出来ています。味噌、お醤油など、まさに愛知県の情報文化の結晶です。味噌やみりんを海外に売りたい人達はいるのですが、調味料単体での海外展開は難しい。
だからこそ、世界への土台となるキッカケを創り、食を起点とした多文化共生を日本で進めたいです。まずは、愛知県、この大久手という町から踏み出します。」
醤油や抹茶は広く世界で愛されていますが、それでも調理やひと手間必要な素材は単体での販売はなかなか難しいようです。
だからこそ、最終完成品の「料理」として味噌煮込みうどんを世界広げていくことに使命感を感じているという青木さん。
100年後の大久手山本屋も、愛知県の素材、食材と手を取り合って、世界に味噌煮込みうどんを届けていて欲しいです。
これからのダイバーシティ・アテンダント
食の禁忌は大きく3つ、アレルギーなどの身体的理由と、宗教的理由、信条的理由がありましたが、食の禁忌や信条の変革は、この先どうなっていくのかは分かりません。
いつも食べているものが当たり前じゃなくなるかもしれません。
今、食べていないものを、これから食べるようになるかもしれません。
私たちが1つ1つ食べているもの。選んでいるもの。
その時その時の選択は、その時その時の自分の意思の主張であるのではないでしょうか。
この先も進化を続けるフードダイバーシティ。
ココカラーでは国内国外問わず、様々な動向に注目していきたいと思います。
皆さんの多文化共生への1つのキッカケ、気づきになりますように。
青木裕典さんプロフィール
家業の味噌煮込みうどんの有限会社山本屋の5代目だけでなく、フードロス改善、多文化共生対応、北米展開支援を行うキールアンドカンパニーグループ株式会社の取締役でもある。
食のロス、ダイバーシティ関係の講師活動や愛知県企業との連携など活動は広く、多岐にわたる。元々は、海外の建設現場へ建設機械を届ける事業のスタートアップにも関わった、若き敏腕代表。
取材:増山晶、高橋大、河合はるか
文:河合はるか
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