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Apr.

2021

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25 Dec. 2020

「新しい循環」を生み出し、多様な他者と共に生きる

鈴木陽子
ストラテジスト/PRプランナー
鈴木陽子

コロナ禍によるライフスタイルの変化を受けて生じた新たな課題に焦点を当て、一人ひとりの思いやりでできる解決アクションを考える、NPO法人・シブヤ大学のシリーズ講座の3回目が、12月22日に実施された(1回目記事2回目記事)。

最終回となる3回目のテーマは、『新しい循環をつくる地域共生のカタチ』。自粛生活やリモートワークへの切り替えなどにより、家と会社との往復生活から解放され、自分が住んでいるまちで過ごす時間が増えた人も多いのではないだろうか。

たとえ自分のまちで過ごす時間が増えたとしても、まちの中に居場所を作れているかは別問題だ。自分が住む地域に関わりたいと思っても、その取っ掛かりが掴めなかったり、気兼ねなく話せる人がなかなかできなかったりする人もいることだろう。

まちで過ごす時間を有意義にするためにも、多様な人たちが住むまちにおいて他者とどうやって共存し、つながりを作り、居場所を見つけていくことができるのか。その問いに対する答えのヒントを探った。

 

なぜいま地域での共生が必要なのか

今回講師を務めてくださったのは、「編集」を軸として様々なデザインプロジェクトを手掛ける編集家/プロジェクトエディター/デザインプロデューサーの紫牟田伸子さん。プロダクトなどの狭義のデザインだけではなく、市民の力でまちをデザインしていくプロジェクトにも多数関わられてきた経歴をお持ちである。「地域活性化には、“市民が都市に対してもつ自負と愛着が重要である”」という考え方と事例をまとめた書籍『シビックプライド』の監修も担当されている。

紫牟田さんが近年、地域共生における新たなムーブメントとして注目しているのが「シビックエコノミー」というコンセプトだ。今回はこのキーワードを軸として、地域共生にとって大切な考え方を学んでいった。


(講師の紫牟田伸子さん)

 

「シビックエコノミー」とは、社会全体に新しい循環を作り出すために、市民が主体となっておこなう活動のこと。地域の資源を活用しながら、民間・行政・第三セクターの枠を超えて連携し、公共性と事業性の両立という側面を持つ継続的なスモールビジネスを展開していくことによって、社会課題の解決に寄与することを目指す地域イノベーション活動だ。

「シビックエコノミー」についての本が日本で出版されたのは2014年、『シビックエコノミー 世界に学ぶ小さな経済のつくり方』が最初となる。「名もなき市民1人1人の知恵を結集して起こした、海外の『地域イノベーション』の実例集」(*)である本書だが、紫牟田さんがポイントと考えるのは、「名もなき市民」が活動の主体になっているという部分である。

「シビックエコノミー」の事例となるような活動を担っているのは、資金潤沢な大企業でも注目を集めやすい有名人でもない。大多数を占める私たち「名もなき市民」が、自分たちで地域内での資源の循環を作り出し、社会課題の解決に取り組むことができるのだ。

紫牟田さんは2014年に出版された本を受け、日本における地域イノベーションの事例を集めた「シビックエコノミー」の入門書として、『日本のシビックエコノミー 私たちが小さな経済を生み出す方法』(2016年)の編集に参画された。そのあとがきには、「シビックエコノミー」が必要とされる理由が端的に示されている。

“近代の経済は市民を消費者に仕立ててきました。ものごとが商品として細分化され処分され、消費されていきます。(中略)コミュニティも家族も世代も好みもどんどん分けられていきます。”

 “シビックエコノミーは分断された神経系をつなぎ直すようなアクションの連鎖です。”

振り返れば、今年はこれまで日常的に接していたものや場所からの分断がさらに進んだ年と言えるかもしれない。「シビックエコノミー」の考え方は、ニューノーマルといわれる時代においてより一層必要となってくるのではないだろうか。

 

多様な主体によって担われる「シビックエコノミー」の活動

「シビックエコノミー」のよく知られた事例としては、雑誌「THE BIG ISSUE」が挙げられる。雑誌を売るという仕事をホームレスに提供し、彼らはその利益を元手にアパートを借りられるようにするといった自立を支援する仕組みは、まさしく地域社会における新しい循環だ。

日本でも広まりつつある「こども食堂」も「シビックエコノミー」といえる活動の1つである。空きスペースとなった場所で運営をおこない、子どもだけではなく、地域のお年寄りや訪問客など皆の心の拠りどころになるケースも現れており、地域における新しいつながりや地域資源の共有がなされている好事例と言えよう。

それ以外にも、「子どもの勉強をする場所がない」という課題に対して、スーパーマーケットの一角を提供するなど、様々な主体がまずは自分たちでできることからサービスを提供しているのが、多くの「シビックエコノミー」で見られる特徴である。

 

「シビックエコノミー」の活動を始めたいと思ったら

では、私たちが実際に「シビックエコノミー」となりうる活動を始めたいと思った時は、どこから始めればよいのだろうか。

「シビックエコノミー」へのアプローチは、主に「場所をひらく」、「他の人と共有する」、「複合する」、「あるものを別の用途に転用する」、「資源と思われてなかったものを資源化/価値化する」の5つに分けられると紫牟田さんは考える。

例えば、個人で持っている資源・所有物について、皆で使えるかもしれないという発見をした瞬間に、その所有物は地域の資源になっていく。持っている資源を、自分だけが儲けるために使おうとするのではなく、地域の色々な人たち、特にソーシャルインクルージョンの対象となるような「自分からは見えないところにいるような人たち」と共有し、共生できるような仕組みを作るという視点が、「シビックエコノミー」では重要になってくるのだ。

ただし、いきなり自分が中心となって地域の中に循環を作ろうと思ってもハードルが高いこともあるだろう。紫牟田さんがお話されたのは、この新しい循環への関わり方自体も多様であってよいということ。自分が主体的にプロジェクトを作り出す以外にも、他人を主体的にする後押しをしたり、既に他の人がやっていることを応援したりすることも新しいエコノミーへの参加方法の1つとなる。

「シビックエコノミー」は皆で支えていく仕組みと考え、自分がモチベーションを保てることから小さく始めてみることが、新しい循環を作り出すための第一歩となっていく。


(紫牟田さんが編集された『日本のシビックエコノミー 私たちが小さな経済を生み出す方法』(2016年))

「シビックエコノミー」のプロジェクトを考えるときのポイントは?

続いて、「シビックエコノミー」に自分が主体的に関わりたいと考えた場合、どこから考えていけばいいのか。簡単なワークを通して、紫牟田さんにその考え方のポイントを教えて頂いた。

新しいプロジェクトを始める際にまず考える必要があるのは、「自分の思い」と「自分でどんなことができるか?」、つまり自分のリソースを棚卸することである。

ここで勘違いをしてはいけないのは、「自分の思い」といっても、自分のやりたいことをただ地域で展開するのとは違うということだ。自分のやりたいことを地域を舞台にしてやるだけの発想では、地域の中に循環は生まれにくい。自分の思いだけではなく、対象となる地域がどのようなところで、そこに自分の思いを入れていくと地域がどうなるのか、という考え方をしていくことがキーとなってくる。

考えるべきなのは、自分のリソースを元にして「どこで、誰に、何を届けたいのか」ということ。そのためにも、地域で何が問題になっていて、誰が困っているのかを自分の中で明確にしていくことがプランニングを進める上では必要だ。地域について知ること、調べることはとても大切なプロセスで、地域の課題を見つけるためにまち歩きをすることも有効な手段の1つとなる。

自分が知らないことや、見えていないことがまちの中にもたくさんある。まち歩きをしながら、「どうして障害者の方がまちの中に少ないのだろう」といったことに気づくこともあるかもしれない。そんな中で、「これがあるといいな」、「こうしたら“みんなが”喜ぶんじゃないかな」とイメージすることがプロジェクトづくりのきっかけになっていくのではないか、と紫牟田さんは考えている。



そこから、プロジェクトを具体化して動かしていく際に考える必要があるのが、その活動のステークホルダーとチームメンバーだ。活動をおこなうためには、どんな人に話を通しておいた方がいいのか、自分のリソースだけで活動を実現できないときにはどんな仲間の力を借りなければならないのか。プロジェクトを回していくための仕組みのデザインが必要になる。

さらには、自分たちが活動を継続的におこなっていくために、そのための資金をどうやって作り出していくのかという視点も大切だ。「運営主体にとっての利益をどう生み出すのか」ではなく、「活動を続けていくためにはどうすればいいのか」を考える、つまり「シビックエコノミー」における事業モデルを考えることに取り組む必要も出てくる。

事業モデルの検討において、

“シビックエコノミーとなる地域活動をしていくためには、利益をお金に換算して考えすぎないことが大切です。”

と紫牟田さんは言う。その活動をおこなうことによって、税金によって賄われる行政の仕事が削減され、社会コストが抑制されるといったことも、活動を通じた利益として捉えてみる。利益をお金で考えすぎず、お金は活動基盤として考えるという風に、利益とお金の役割を定義しなおすことも、「シビックエコノミー」の活動を生み出す重要なポイントとなるのだ。



これから必要となる「地域共生」の在り方とは

地域内で資源の小さな循環を生み出していく「シビックエコノミー」の考え方とプロジェクトの作り方について、その全体像を教えて頂いた今回の授業。

最後に、紫牟田さんが考える地域共生について、お話を頂いた。 

“地域共生社会とは、お金でサービスを買う経済活動では得られない、人と人とが助け合い、共に生きていることが実感できる社会です。

それは、この社会は、その地域に生きる人々が、こどもも大人も高齢者も障がい者も、皆が生きていくためにそれぞれが支え合っているのであることを理解するということです。”

地域で過ごす時間が増えた私たちにとって、自分のまちに暮らしている多様な他者と共に生きていく、という視点は益々大切なものになっていくだろう。まちの中に存在している他者の課題に目を向け、その課題に対して自分ができることは何かを考える主体性を持つこと。そのことは当事者の課題解決に貢献するだけでなく、自分自身が「まちと共に生きている」という実感を持つことにもつながっていくのではないだろうか。


(*)フィルムアート社サイト(http://filmart.co.jp/books/architecture/civic_econom/)より引用

<授業概要>

「新しい循環をつくる地域共生のカタチ」
https://www.shibuya-univ.net/classes/detail/1542/

主催:特定非営利活動法人シブヤ大学
開催日:2020年12月22日(火)19時半~21時半
講師:紫牟田 伸子 氏(編集家/プロジェクトエディター/デザインプロデューサー)
参加方法:オンライン

取材・文: 鈴木陽子
Reporting and Statement: yokosuzuki

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