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9 Mar. 2022

まずは対話から 正しい医療情報を届けるために ~WCW2022 セッションプログラム取材レポートCancerX 情報①~

高田愛
産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
高田愛

がんの社会課題を解決しようと活動している一般社団法人CancerXが主催した、World Cancer Week 2022。1月30日から2月5日で実施された30のセッションの中から、7件目の記事となる今回は「情報①~正確な医療情報を届けるためのシステムアプローチとは~」を取り上げる。

「どう生きたいか」に深くかかわる医療情報の受け止め方
本当に正しい医療情報というのは、厳密に言うと難しいと感じている。がん患者にとっても、家族にとっても、「どう生きたいか」に関わってくるからだ。私は2007年に耳下腺がんの診断を受けた。顔面神経切除は確実で、さらに、耳も顎も、場合によっては鼻も切除の可能性があると主治医から告げられた。元々、口蓋裂口唇裂という障害の修正ため、顎周りは20回以上手術を受けて来たこともあり、必死に「切らないで治す」を探した。当時は、切るくらいなら死んだほうがましだ。とまで思っていた。

検索すると、重粒子線、クリスパーキャス9の論文、体温上昇させる、食事療法、点滴、光を当てる、スピリチュアルまで、いろいろ情報が出てきた。分類すると、「切除」「切除して、同時に再建する」「切除しない」治療に分かれた。セカンドオピニオンは3つ行き、医師に同じ疑問をぶつけた結果、「切除して、同時に再建する」治療を受けた。

私のように、治療によって元々あった機能を失う人も、治療が困難な局面を迎えることもある。そういう意味で、一人一人にとって正しい治療って何なのか、判断するための情報を届けることが必要だと切に感じる。

発信する側として、受け手が聞きたくなる正しい情報の届け方を、システムアプローチで解決できないか模索したのが今回のセッションだ。がん罹患経験者であり、支援者として活動している視点からセッションを聞き強く印象に残ったポイントをレポートする。

※システムアプローチとは、自然現象や社会現象をはじめとする多くの複雑な事象のなかで発生する問題を解決するときの、意思決定を助ける一つの方法である。

登壇者:
市川 衛氏:READYFOR株式会社 基金開発室長 / 広島大学医学部 客員准教授
川畑 恵美子氏:TBSテレビ報道局 JNNニュース・Nスタ 編集長
関屋 裕希氏:東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 心理学博士 臨床心理士 公認心理師
モデレーター:
加藤 容崇氏:慶應義塾大学医学部腫瘍センターゲノム医療ユニット

一番求められている情報は「正しさ」ではなかったりする

(ⒸCancerX) 
市川氏から、事例と2つの問題点が提起された。

  1. 例えば、書籍販売サイトで「がん 完治」と検索すると、【癌を完治させる】【手術も抗がん剤もいらない】【がんの治療に苦痛も絶望もいらない】【余命2か月を完治に導く】【がん活性消滅療法】【がんの特効薬】などの見出しが並ぶ。こういうものが検索結果を占める。

  2. さらに、専門家以外でも容易に、デジタル上で安価に、内容の正否を問わず自費出版できるようになっている。そういうものも、同列に検索結果として挙がって来て、一般消費者にリーチできてしまうという状況がある。こうなってしまうと、どれが信頼できる情報なのかを見分けるのは難しい。


これがソーシャルメディアなどネットを通じ、噂やデマなどを含めた真偽不明の情報が大量に拡散されるインフォデミックの本質だと語る。そのことが対処を難しくしており、がんの世界にも起きている。



注意すべきは、誤った情報も、悪意ある情報も、操作された情報も、意図に関わらず情報の生態系を汚染する「インフォデミック」につながり、人々の判断を誤らせる危険性があるということだ。
※情報汚染の概念図と本文 引用元:治療 vol,103.No.12. 1488

インターネットの普及により圧倒的に情報量が増えた。書籍は、一見、信頼性が高い媒体のように思えるが自費出版などの方法により真偽不明の内容も出版出来てしまっているようだ。こうなると、情報の選別自体がかなり難しくなる。まさか、専門家が間違ったことを言うなんて一般人は思わない。そして、その専門家も、自身が提供している療法を信じていて善意である場合もある。まさに、情報汚染の概念図に描かれている状態が起こっていると言える。

ファクトチェックについては、がん患者自身もその家族も知らないことが多いのではないか。
・そもそもファクトって何なのか
・がんの予防と治療の違い
・標準治療と、自由診療を比較したときの治療の効果と費用
・標準治療で、出来ることがなくなった時に求める治療
上記は、それぞれレベル感も違えば、時系列上も違う。恥ずかしながら、最近まで私は混同していたが、グループ会社内の自助グループの運営やLAVENDER RINGで支援活動を続ける上で、この差をきちんと分類できることが、必要だと考えるようになった。

「正しさ」の前に、「共感」が大切

(ⒸCancerX) 
お父様をがんで亡くされた経験があり、心理学博士でもある関屋氏は「がん患者や家族は、不安が強かったり、感情が揺さぶられたりする」という。お父様の場合、判った時は肺がんステージ4だったので短い時間で判断しなければいけない状況であった。人って信じたいものを信じる「確証バイアス」が強く働くので、断言してくれたり、言い切ってくれたり、簡潔だったり、わかりやすい情報を受け取りやすくなってしまう。

一方、心理療法を提供する立場上、エビデンスに忠実であろうとすればするほど、歯切れが悪くなる。がん患者さんへの説明も「必ず〇〇」「絶対○○」とは言えない。「今は、こういうエビデンスがあるので、こちらの可能性が高い」など回りくどい表現になりがち。

もう一つ頭に置いておきたいと思うのは、正しい情報を伝えるとか受け取るということとセットで、がん患者の不安や怖さなどの感情を受け止めてくれる機能があるか?というところを、いつも思っている。

例えば、カウンセラーになったばかりの頃の自身の体験を例にとると「貴方って大丈夫?そんなに若くて。私の気持ちわかるの?」と言われることがある。その時に、正しい情報を伝えるとすると「臨床心理士の資格を持っています。大学院で5年学びました。」となるのが、その前に、相手の不安な気持ちや戸惑いなどの感情の部分を受け取って初めて、がん患者さんは正しい情報が受け取れる状態になるのではないか。と語られていた。

医師だけでなく、医療チームとして取り組む

(ⒸCancerX) 
それを受けて、加藤氏は、医師も電子カルテなどが進んで、相手の感情を受け止める余裕を作っていくことが必要と医師・研究者の立場から発言してくれた。

それに対し関屋氏は、感情の受け止めをしてから、正しい情報。今日は、どちらから伝える方がいいのかを考えられるといい。また、医療現場は、いろんな専門職が働いているので、医師だけで全てをやらなくていい。専門職が横断的に連携していくという対応も、いいのかも。と。

この議論の際、よく私は、医師を4種類に分類して考える。
・共感性も高くて、医師としての実績が多い
・共感性は低いが、医師としての実績は多い
・共感性は高いが、医師としての実績が少ない
・共感性も低くて、医師としての実績も少ない

もちろん、共感性も高くて、医師としての実績が多い医師がいいと思うが、医師としての実績は多い ことが、結果的には治療がうまくいく可能性が高いとなると、関屋氏の提案のように、チーム医療というシステムで対応していくのがよいと考える。

さらに、もし出来るのであれば、短い時間で満足度の高い診察のやり方に、もっと工夫が出来るといい。例えば、私はいつも、聞きたいことを書き出して診察に行っているが、病院の待合室などに、診察を待つ間に書けるメモを用意したり「今日は聞きたいことがあります」カードがあって、それを出すようにしたり、医療者は聞かれたことには答えてくれるものなので、納得できるコミュニケーションを叶えるサポートツールがあってもいいかもしれない。

医療と、支援者とメディアの側が学び合うことが大切
医療、当事者、支援者、メディアの人が互いに学び合い、教え合うことが必要で、それこそがシステムアプローチなのではないかと思う。

異なる属性の人や組織同士が一緒に、同じ目的に向かって、学び合うことがもっとできていくといいな。実際、その場づくりの準備を進められている市川氏から話があった。

(ⒸCancerX)

最後に:まずは、対話を始めることからスタート
正攻法では届かない正しい情報を、受け取りやすくしていくためには、がんをとり巻くステークホルダーが互いを理解し合い、同じ目標に向かって対話を始めることからスタートしようというのは、非常に優しくて未来のある話だと感じた。現実的に、何か動き出そうと思えるいいセッションだった。

取材・文: 高田愛
Reporting and Statement: aitakata

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