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Mar.

2024

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15 Mar. 2022

がんになっても自分らしい人生を ~WCW2022 セッションプログラム取材レポートCancerX ライフデザイン~

海東彩加
ソリューション・プランナー
海東彩加

World Cancer Week 2022 の10件目の記事となる今回は、「ライフデザイン」をテーマにしたセッションをご紹介します。

 

本セッションのテーマである「ライフデザイン」とは、自分がどう生きたいかを、自分の価値観に基づき、決定し実行していくこと。

一見当たり前のように感じることですが、がんを前にすると後ろ回しにされてしまうことも多くあります。

 

ライフデザインとは(@CancerX)

 

そんながんとライフデザインの関係について、本セッションでは5名の登壇者と考えていきます。

 

【登壇者】

安宅 ルミ子さん (花王株式会社 ビューティリサーチ&クリエーションセンター シニアビューティセラピスト / CIDESCOインターナショナルエステティシャン / IFA国際アロマセラピスト)

栗田 陽介さん (元パラリンピック日本代表)

杉本 佳香さん (北里大学病院 形成外科・美容外科 助教)

渡辺 貴一さん (NPO法人 Japan Hair Donation & Charity(JHD&C・ジャーダック)代表理事)

モデレーター : 水田 悠子さん (株式会社encyclo 代表取締役)

 

 

モデレーターの水田さんは子宮頸がんの経験者。

無事手術を終えたものの、手術後にリンパ浮腫(がんの手術/治療後にリンパの流れが悪くなり、むくみやすくなる状態)に。

むくみを防ぐために医療用のストッキングを履く必要があり、好きな服を着たり、がんになる前のように自由に出かけられなくなったりしたことがあったそう。

 

その時に、治療後のライフデザインを制限されてしまうことがあると知り、リンパ浮腫に向けたファッション性を意識した医療用の弾性ストッキングの開発販売を行いました。

 

ライフデザインの大切さについて身をもって実感された水田さんのモデレートのもと、様々な領域や立場でライフデザインを考え実践する登壇者のお話を伺っていきます。

 

 

自分らしく生きるための「選択肢」をつくる

 

パネルディスカッション形式で進んだ本セッションの一つ目のテーマは、ライフデザインに携わる活動の中で目指していること。登壇者の皆さんの活動とともに、その活動を通して目指すことをお話してくださいました。

 

パネルディスカッションテーマ①(@CancerX)

 

元パラリンピック日本代表の栗田さんは、高校時代に事故に遭ってから20年近く義足で生活をする中で、義足に求めることが変わってきたといいます。

 

使い始めてしばらくは、いかに交通事故に遭う前の元の状態に戻れるか、すなわち機能を重視しより元の足に近い義足を求めていました。

しかし、時が経つにつれ、義足は毎日身につけているにもかかわらず、服のように選択肢がないのはなぜかという疑問を持ち、義足でのファッションや義足の機能の拡張を楽しむ気持ちに変化していったといいます。

 

実際にネイルサロンで義足にデザインを施してもらった時には爪にデザインするのと変わらないという声もあったようです。栗田さんは、いつしかネイルサロンや車の塗装屋さんで義足のデザインがグランドメニューに入り、「義足のデザインを楽しめること」が当たり前の社会を目指していきたいといいます。

 

義足にセンサーを埋め込み、義足の動きとドローンの動きが連携する機能拡張にも挑戦(@CancerX)

 

 

 

続いては、美容師をしながら、ヘアドネーション(髪の毛の寄付)を募って医療用ウィッグを作って18歳以下に無料提供する活動を行う渡辺さんのお話です。

ヘアドネーション・JHD&Cとは?(@CancerX)

 

渡辺さんはウィッグの提供を続ける中、ある高校生との出会いをきっかけに、ウィッグの必要性について考えたといいます。

 

ウィッグを着用する高校生が渡辺さんの元に訪れ、メンテナンスのためにウィッグをはずしたところ、その姿がとても格好良く、思わずご本人にそのことを告げたとのこと。ご本人も同じように思っていたようで、やっぱりそう思う?と返されたそうです。

 

その時から、渡辺さんは「ウィッグをかぶらない選択肢もあるのにその高校生がなぜウィッグをかぶっているのか」と、考え始めました。

その結果、「必ずしも本人がウィッグを必要としている」わけではなく、髪が生えている方がいいという価値観が「社会がウィッグを必要とさせている」のではないかという気づきを得たといいます。

 

この経験を通して、渡辺さんはウィッグを渡すだけでなく、ウィッグを使うことを一つの「選択肢」とした上で、社会の価値観を変えていくことも目指していくべきだと考えました。

 

 

続いて、北里大学病院の杉本さん、花王株式会社の安宅さんが連携・協業し実践する「メディカルソワンエステティック」のお話がありました。

メディカルソワンエステティックとは、医療の場において患者さんに行う美容施術のことで、外見上の悩みに対してスキンケアやメイクアップなどの美容施術を行うこと。

メディカルソワンエステティックとは?(@CancerX)

 

メディカルソワンエステティックは、見た目の変化に寄与するだけでなく、心理的なサポートにもなるといいます。実際に、メイクによって明らかな見た目の変化がなくても、QOLが高まるという研究データもあるようです。

 

その理由として、見た目の変化により自信がつくということもありますが、「施術を通して直接触れ合うこと」「施術中のコミュニケーションを行うこと」が、当事者の心のあり方に寄り添うことにつながっているとも考えられています。

 

メディカルソワンエステティックでは、時間をかけて患者さんが自分のことを受け入れ、自分の価値観で満足感をもって日常生活を送れるようことを目指し、日々ライフデザインのサポートを行っています。

 

 

一人一人のライフデザインが受け入れられる「社会」をつくる

 

二つ目のテーマは、どう生きるかに欠かせない、人それぞれの価値観にどう向き合うか。

パネルディスカッションテーマ②(@CancerX)

 

安宅さんは、実際にメディカルソワンエステティックを施術する中で、「見守りながらサポートする」ことが大切と言います。施術を繰り返す中で、自分の状態と向き合い前向きになっていくことが多いのですが、そうなるまでにどのくらいの時間がかかるかは人それぞれ。

周りがタイミングを与えるのではなく、本人にタイミングが訪れるのを見守っていくことが大切といいます。

 

 

栗田さんはご本人の体験から「時間をかけて向き合う」ことが大切だと感じるようになりました。

足を切断した直後は失ったものへの意識が強かったものの、時間をかけて「何かを欠損した」ではなく、「失った分広がった部分もある」と考えるようになりました。

例えば、義足なら気軽にドローンを操作できるセンサーだって埋め込めるし、足のデザインだって変えられる。失ったところに目を向けるよりも、逆にできるようになったことに目を向けられるようになったのは、時間をかけて新たな知識を得て、多くの人との出会いを繰り返したからこそだといいます。

 

 

渡辺さんは、「対話する」ことが大切だと考えています。

自分がどんな人生を生きたいか、自分で考えていくためには対話を通して、自分のことを知ることが大切とのこと。

そして、自分の考えを行動に移すための選択肢が用意されていることが大切で、メディカルソワンエステティック、ウィッグもその一つです。

 

その一方で、特定の選択肢しか認められていない社会から脱することも必要だといいます。顔の傷を覆わなければならない、髪が生えていなければならないと強要される社会では、自分がどう生きるかを決めていくのは難しいことです。

 

がん経験や障害の有無などは関係なく、一人一人の価値観を大切にできる社会は多くの人にとって良い社会なのではないかと渡辺さんはいいます。

 

本セッションのグラフィックレコーディング(@CancerX)

 

 

さいごに

 

今回のセッションでは、がんに限らず様々な立場からライフデザインを考え実践する登壇者のお話をききましたが、共通することも多くありました。

 

ライフデザインを考えるにはまずは自分自身と向き合う時間が必要であること、ライフデザインを行動に移せるような選択肢があること、そして一人一人のライフデザインを受け入れられる社会であること。

 

美容施術やウィッグ、義足でファッションを楽しむことは、自分らしく生きることを実践する上で、大切な選択肢の一つだと感じました。

その一方で、この選択肢を押し付けることは、誰かにとってのライフデザインを阻害してしまいます。

選択肢を広げること、そしてその選択肢を自由に選べることが重要なのではないでしょうか。

 

そして、がんや障害の有無にかかわらず、自分のライフデザインも、誰かのライフデザインも、同じように大切にしていきたいと感じるセッションでした。

 

取材・文: 海東彩加
Reporting and Statement: ayakakaito

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