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25

Jun.

2017

interview
2 Oct. 2015

「ノーライン・キャリア」の時代 ⑤ ~才能に障害はない~

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<ダイバーシティな働き方  「ノーライン・キャリア」>

グローバル経済の進展、少子高齢化、労働市場の流動化などの環境変化によっ て、日本人の働き方が変わりつつある、と言われ始めて久しい。終身雇用、年功序列といった慣行が崩れるなど、やや恐怖訴求的な論調のニュースが目立つ。一 方、この変化をチャンスととらえ、これまで当たり前とされて来た枠組み(ライン)に縛られず、逆に自分で自分の限界(ライン)を決めない多様で新しい働き 方、つまり「ノーライン・キャリア」を創りだしている取り組みが、現れはじめた。そうした開拓者たちの“いま”をレポートして行きたい。

<第5回 才能に障害はない>

現在、障害者の法定雇用率は2%。各企業とも、その数値目標達成に躍起となっている。だが、いわゆる「障害者」と言われる社員、一人一人に目を配り、才能を開発する取り組みは、まだ数少ない。今回ご紹介するパソナグループの特例子会社「パソナハートフル」は2003年に設立された。業務としては、パソナハートフル内での事務補助からはじまり、スキルアップに伴いメール室での集配業務や、優先順位を自身で判断することが求められるパソナ営業部内での庶務業務といった役割につくようになって行く。

(メール室での集配業務)メール室での集配業務

注目すべきは、絵を描くことを仕事にする「アーティスト社員」という制度だ。
「アーティスト社員」制度は、1992年に就労困難な障害者の、芸術活動による就労分野拡大を目的に設立された「アート村」という試みからスタート。2004年には、より長期的な雇用と(健常者)社員との共生をめざすために、パソナグループへの採用が開始された。

絵を描くアーティスト社員

絵を描くアーテイスト社員絵を描くアーティスト社員

現在、アーティスト社員は、全18名。うち三分の二は他業務(印刷、事務)との兼務で、残り三分の一は専任として絵画や陶芸制作を行っている。指導をされているのは、採用開始時からこの取り組みに携わって来られた千田貢美加チーム長と、画家の相澤登喜恵先生。
絵画制作を行う工房に入ると、全員が立ち上がって、元気に挨拶をしてくださる。工房でのルールは「全面的に、肯定すること」。どのような自己表現も自由。歌を歌いたくなったら、歌うことも許される。
こうした“場づくり”をはじめとして、一人一人の個性を尊重する方針が貫かれている。選抜の基準は、「絵が好き」であること。それが、伸びしろとなるからだ。その上で、メンバーに合った画材やテーマを選択する。メンバーは、モノの把握の仕方が、それぞれ異なる。ともすればそれは、健常者か障害者か、という二元論で捉えられがちだが、それは「障害ではなく、人によって異なる心の事情の問題。それが理解できるのは、“絵画”という共通言語があるからこそ。(アーティスト社員にとっては)外の世界を把握し、自分の内なる世界を確認するプロセスなのです。」と相澤先生は言う。一目で複雑な構図や色彩を把握し、それを独自の形でアレンジする工房でのアーティスト社員の姿を実際に目にすると、それはまぎれもなく、障害なのではなく「才能」なのだと気づかされる。

(左から)千田チーム長、ハートフル社員・矢島さん、相澤先生(左から)千田チーム長、ハートフル社員・矢島さん、相澤さん

こうして、個性を尊重しながら描かれた作品がクライアントに評価されれば、速やかに本人にフィードバックする。ほめられたことで、さらにモチベーションが高まり、飛躍的にスキルが伸びた社員もいる、という。
昨年、多くの作品が生み出された成果をお披露目するため、大規模な展覧会を開催され大きな評判を呼び、注文は引きも切らない。だからと言って決して無理は強いたくない、と千田さん。クライアントからの注文に忠実なあまり、才能が矮小化されてしまうことは避けたい。めざすものは、心から絵画が好き、工房に来ることが楽しい、という状態を続けること、だと言う。

 実は、ハートフルの取り組みは、立ち上げ当初、社内からも「本当に出来るのか?」と危惧された。しかし、実績を積むに従い、それは「障害」なのではなく「特性(個性)」なのだという理解が広がって行った、と語るのはハートフルの坂口役員だ。同社で危惧されたようなムードは、いまだに日本では支配的だ。そこには重度の障害に、メディアがフォーカスを当てたため、特異なイメージが出来上がってしまったことに起因している。結果、福祉施設に多くの人が閉じ込められることになった。だが現在、「障害」と認定される国民は6%(16人に一人)。ハートフルの取り組みは、長く閉ざされて来た日本の状態を「オープン」へと転換する挑戦なのだ。

人と会えば自然に挨拶をすること。一人一人の個性を全面的に肯定し、尊重すること。

成果は素直にフィードバックすること。考えてみれば、それはあるべき、当たり前のコミュニケーションであることに気づく。では、みなさんの職場では、その「当たり前のコミュニケーション」が行われているだろうか。2018年には、障害者の法定雇用率が引き上げられる予定だ。その時、私たちは心から「オープン」になることが出来るのか、日本に真のノーマライゼーションは実現するのか。パソナハートフルの取り組みは、一人一人に問いかけている。

参考:パソナハートフル

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取材・文: メビウス4U
Reporting and Statement: moebius4u
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