みんスポ・ソーシャルドリンクスVol.8–スポーツの支え手は誰だ!?
- 共同執筆
- ココカラー編集部
ゲストスピーカーによる「おもしろそう」な実践事例ヒントに、ゆるく飲みながら、みんなのスポーツ(みんスポ)を広げるためのアイデアを語りあう「みんスポ・ソーシャルドリンクス」。第8回目は「スポーツの支え手は誰だ!?」をテーマに、アクサ生命保険株式会社の小笠原隆裕さん、NPO法人チャリティーサンタの清輔夏輝さんをゲストに2015月9月18日に開催されました。
<個人の純粋なミッションと企業ミッションの融合から>
アクサ生命保険株式会社は、公共性や社会的意義の高い保険というサービスを取り扱う企業として、事業戦略に企業として社会的責任を果たすための取組みを組み込み、80年代から「良き企業市民」として社会貢献活動(アトクール)を開始、2000年代後半に社会起業家・団体を支援する方針を決定しました。2006年から日本ブラインドサッカー協会への支援を開始し、2013年からは日本選手権を「アクサブレイブカップ」と名称変更して、本格的な支援活動を行っています。 (アクサ生命 小笠原さん)
世界59カ国で事業を展開するアクサグループは、多様性を重んじ、政治や宗教などのセンシティブなテーマについて特定ポジションを取らないという方針から、ヨーロッパ諸国を中心に政治や文化と深い関係性を持つサッカーの支援は行っていません。しかし、ブラインドサッカーについては、社会的意義の大きさ、協会が掲げる「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現する」という理念とアクサが掲げるダイバーシティ&インクルージョンの理念との共鳴性の高さなどの理由から、全面的な支援を決めました。
企業の社会的責任を果たす取組みを継続させる鍵は、社員の持つ「Genuine Mission(純粋に支援したいという使命感)」にあると、小笠原さんは考えています。社員の中に支援したいという気持ちが起こり、その自発的な活動を後押しするような形で、会社としても支援を行っていく。「どんなことも、動き出すまでが難しいですが、ひとたび想いが社内に共有され、企業文化として浸透していけば、取組みが自然に継続していく流れが生まれるのです」。
日本にはまだ、14の都道府県にしか、ブラインドサッカーの日本選手権に参加するチームがありません。小笠原さんは、これをなんとか、47都道府県にまで広げていきたいと考えているそうです。社員の熱い想いによって支えられているアクサ生命のブラインドサッカー支援。2020年東京パラリンピック優勝を目指し、ブラインドサッカーの裾野を広げるさまざまな活動が今後も展開される見込みです。
<サンタ体験が、社会に関心を持つきっかけに>
サンタクロースからのプレゼントを楽しみに待って過ごした幼い頃の思い出。多くの人たちが共有するこの体験を、サンタクロースに扮した大人によるスペシャルな演出で届ける活動を行っているのが、NPO法人チャリティーサンタです。
ITフリーランスとして活動していた清輔夏輝さんが、友人と共にこの活動を立ち上げたのは2008年。自身の幼少期のサンタの思い出と、ヒッチハイクをしていた時代に受け取った「恩送り(受け取った恩は誰か他の人に届ける)」という考え方から着想してのスタートでした。2014年にはNPO法人化し、現在では全国23カ所に支部を持つほどに成長。2014年までの累計で、サンタのサービスを受け取った子どもは約13000人。8千人以上の大人が、サンタのボランティアを体験しています。
(NPO法人チャリティーサンタの清輔さん)
チャリティーサンタは「想いやりがつながるしくみ」で運営されていると、清輔さんは語ります。サンタ派遣のサービスを受けたい家族が、プレゼントとチャリティー金をチャリティーサンタに預ける。そのプレゼントに込めた想いや、受け取る子どもについての保護者からのヒアリングに基づき、サンタ役のボランティアスタッフが、子どもたちへのスペシャルなプレゼントを「一年間頑張ってね」というメッセージと共に届ける。預かったチャリティー金は、世界の子どもたちを救う支援のために使われる。大人になって、サンタの存在を信じなくなった子どもたちには、実はサンタが親からのプレゼントであったという種明かしをする。すると、その子どもたちも、自分たちが大人になったらサンタになろうと考える。「誰か」の幸せが、また他の「誰か」の幸せにつながるという流れです。このように、社会課題の解決に結びついているチャリティーサンタの活動ですが、実際、サンタ役を志願するボランティアの多くは「楽しそうだからやってみたい」という個人的な理由から参加するケースが多いそうです。けれども、実際にサンタを体験し、目の前の子どもと一対一で向き合い、その子どもが喜ぶ姿を目の当たりにすることを通じて、自分の活動の意義を実感し、「社会とのつながり」について自然と意識するようになるとのこと。「チャリティーサンタは、無関心という社会課題を変えていくことを通じて、さまざまな社会課題を解決していきたいと考えています」。清輔さんは、社会を変える大きなうねりをつくることに、手応えを感じています。
チャリティーサンタの活動には、企業も注目しています。大手通販サイトを運営するヤフー株式会社では、クリスマスのキャンペーンにチャリティーサンタを起用しました。ショップを利用したお客さまの依頼先に、社員がサンタとなり、商品を直接届ける。このことは、社員がサービスを受け取るお客さまを直接知るきっかけともなり、働くことへの動機付けにもつながると、社内的にもとても好評だったとのこと。
「エリアを広げ、世代をまたいで、サンタを待つ子がいる限り活動を続けたい」。そんな想いを胸に活動している清輔さんが今目指しているのは、「サンタがこないような過程環境の子どもたちにこそ、チャリティーサンタを派遣する」ということです。「課題はたくさんあるけれど、なんとか実現させたいので、是非、知恵と力を貸していただきたいです!」。チャリティーサンタに生涯をかけていきたいという、清輔さんの切実なメッセージが印象的でした。
<一見「関係ない」と思われる人を巻き込む>
ゲストの二人からのプレゼンテーションに共通して見られたのが「社会貢献」が自然に広がるムードをつくっているということ。何故それが可能だったのでしょうか。これに対して、チャリティーサンタの清輔さんからは「サンタをやりたいという動機で一番多いのは、口コミで知ったことなんです。思わず話したくなるような体験が生まれるところから、関わる人の中に当事者意識というのが芽生えて、人にも伝達していくのではないかと思います」と、アクサの小笠原さんからは「自分が関わりたくなって、有給をとってでも参加してしまうという社員が何人もいます。会社から社員に強要しようとしても広がりませんが、楽しそうに取り組んでいる社員を見て、それが口コミ的に広がるというところが大きいと感じています」とコメントがありました。社会貢献活動を推進し、社会変革の担い手を育てるという大義を支えるのは、実は、個人の想いと共感にある。スポーツの支え手を考える上でも、大きなヒントと言えそうです。
これらのトークを受けて、参加者からは「企業のCSR活動推進に取り組んでいますが、こういった場でネットワーキングを広げ、2020年をオールジャパンで迎えていきたいと思っています」(日本フィランソロピー協会 青木さん:写真右)、「視覚障害者総合支援のベンチャーで働いています。多くの人とつながることで、パラリンピックに向けてアクションを考えていけたらと思っています」(株式会社アーチャレジー 浅野さん:写真中央)といったコメントがありました。
出会いに触発されて、多くのアイデアが育まれる「みんスポソーシャルドリンクス」。次回は10月30日の開催です。
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