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Dec.

2024

interview
10 May. 2022

多様な性のあり方に配慮した院内環境づくりをめざして

川村章子
メディカルコミュニケーション プロデューサー/イベントコーディネーター
川村章子

LGBTQ+をはじめ多様な性的指向・性自認(SOGI*1)を有する方が通院や入院のために医療機関を訪れる際に不安を感じたり、暗い気持ちになることがある。

*1 「Sexual Orientation & Gender Identity」の頭文字を取ったもの。”好きになる相手の性(性的指向)”と”自分の性別に対する認識(性自認)”のこと。(順天堂医院ホームページから引用)

 

2020年にTRanS(Team Respect and Solidarity)と名古屋市立大学看護学研究科国際保健看護学が共同で実施した「GID*2/GD*3/トランスジェンダー当事者の医療アクセスに関するアンケート調査」では「風邪、けが、体調不良時に医療機関の受診をためらったことがあるか」という問いに対し、48%が受診をためらったことがあると回答している。(図1)

  *2 Gender Identity Disorderの略称。「性同一性障害」 
  *3 Gender Dysphoriaの略称。「性別違和」


「見た目と戸籍上の性別が異なることから性別を何度も確認されないだろうか」「入院・手術時の代諾者として同性パートナーでも認めてもらえるだろうか」「入院時の病室は戸籍上の性で割り当てられるのだろうか」「問診票の性別の記入に抵抗がある」「待合室などで戸籍上の名前で呼び出しされたくない」など医療機関受診の障壁も多様である。

順天堂医院では、こうしたSOGIにまつわる院内の課題を解決するためにワーキンググループを立ち上げ、研修の実施やSOGI相談窓口を設立するなど多様な性のあり方に配慮した取り組みを積極的にすすめている。今回このワーキンググループの中心となっている武田裕子氏と川﨑志保理氏にお話を伺った。

■組織横断的に始まったSOGIにまつわる環境整備
2020年10月ごろ医療倫理や臨床倫理などを担当している川﨑氏に院内からSOGIをめぐる対応に関して相談があった。しかし、川﨑氏自身も当時は理解が深くなかったため、まずはじめたのが情報収集。すると院内では多様な性のあり方に配慮した対応がほとんどできていないという現実に直面する。「患者の権利」という側面からも病院として取り組むべき重要な課題であると感じ院内に働きかけた。

一方で、武田氏は医学教育を専門としている。2014年からこれまで「性的少数者への医療者の理解」を学生・医療者教育の側面ですすめてきた。必要性を説いていながらも、医療機関への導入には時間がかかると想像していた。

専門は違う二人だが、それぞれの立場でSOGIをめぐる対応に想いがあった。川﨑氏が上層部への働きかけを始めたと同じころ、院長をはじめ執行部でも「SOGIにまつわる院内の環境整備は重要な取り組みである」と認識。法人として本格的に対策を進める運びとなった。2021年川﨑氏と武田氏がタッグをくみワーキンググループを設立。多様な性に配慮した順天堂医院の環境整備が大きく動きはじめた。

■患者さんが不安なく受診できる病院をめざす
レインボーフラッグを掲げる、レインボーバッジを着用するというLGBTQ+フレンドリーの表明だけではなく、基盤をつくり体制を整えることが大切だと武田氏と川﨑氏は考えた。

そこで、「アライ(Ally:LGBTQ+のことを理解し、支援のために行動するLGBTQ+フレンドリーな人)」の職員を増やす研修を実施。この研修は講演を聞くだけの受け身の研修ではなく、事前学習なども組み合わせながら10人程の少人数制ですすめられている。

  ※参考記事:LGBTQ+支援をひろげる『アライアクションガイド』を作りました

これには武田氏の想いがある。「Nothing About Us Without Us(私たちのことを決めるのに私たち抜きで決めないで)」という言葉がある。研修ではLGBTQ+当事者の方をゲストにむかえ、研修参加者と双方向でやりとりする時間を大切にしている。少人数だからこそ率直に対話できることもある。

また、川﨑氏は「これまで学ぶ機会もなく知識がないことによる誤解が多い。当事者の本音をきき、まずは研修を通じてそういった誤解を取り除くことが必要。」と語った。2021年8月から少人数での研修を繰り返し、これまでの研修修了者は200名をこえる。 

■多様な性に配慮した順天堂医院の取り組み
順天堂医院では研修のほかにも多様な性に配慮したさまざまな取り組みをおこなっている。

 

現状は公的機関への手続き上、カルテに性別の登録は必須である。しかしながら、問診票へ性別を記載することに抵抗がある方や戸籍上の名前で呼ばれたくないという方にどういう工夫ができるか、どのように寄り添えるか、現在も改善にむけて進行中とのこと。大きな病院ではシステムの変更なども伴うが、各部門への理解を促しながら推進している。

■SOGIに関する取り組みの広がり
医療現場ではSOGIに対しての誤解や偏見がまだまだ見受けられる。しかし、学びたい・寄り添う取り組みをしたいと思っている医療者は少なくない。実際、順天堂医院の研修は本院だけでなく浦安や練馬にある附属病院からの参加や、学部、研究部門からの参加希望も増えているという。掲げられたレインボーフラッグをみた学生からの相談もあるなど、取り組みの成果が確実に広がっている。

■おわりに
電通ダイバーシティ・ラボが2020年に実施した「LGBTQ+調査」では8.9%の人がLGBTQ+層に該当すると回答している。しかし、医療現場ではLGBTQ+をはじめ多様な性的指向・性自認を有する方たちが受診・入院することを想定した環境整備はあまり進んでいない。医療にアクセスした際に不安感や嫌悪感を抱くことなく、安心して医療を受けられるように、医療者の多様な性への理解や配慮が求められていると感じる。また、医療現場には性別・セクシャリティの属性だけではなく、年齢や国籍、身体的機能など多様な属性をもった人が訪れる。視点をかえれば、誰しもが少数者になるのだと順天堂医院の研修に参加した方が教えてくれた。全ての人々が医療機関への受診に障壁を感じることなく公平にアクセスできるように、順天堂医院のような取り組みが広がることを願いたい。

※参考:順天堂医院のSOGIへの取り組み

 

取材・文: 川村章子
Reporting and Statement: akikokawamura

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