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26

Apr.

2024

interview
6 Jul. 2018

それは、セクシュアルマイノリィの物語であり、わたしたちの物語だった

岸本かほり
副編集長 / ストラテジックプランナー
岸本かほり

こんにちは、ダイバーシティについて学び始めたばかりのマーケティングプランナー岸本です。

今回は、来る7/28公開のインターセックス(※1)をはじめとする、セクシュアルマイノリティをテーマにしたドキュメンタリー映画「性別が、ない!インターセックス漫画家のクィア(※2)な日々」が公開されるにあたって、先輩の江口さんと一緒に、一足先に試写会で映画を鑑賞してきました!


日本では、ようやくLGBTという言葉が認知されるようになってきました。しかし、総称のように扱われている「LGBT」自体、L/G/B/Tの各々の同じカテゴリーの中でさえ、グラデーションのように違いがあります。そして、インターセックスは、LGBTとは異なるカテゴリーです。多様なセクシュアルマイノリティの世界に向けて、インターセックスの漫画家新井祥さんが発信する読者へのメッセージを通じて、セクシュアリティとは何かを問いかけるのが今回のドキュメンタリー映画です。

「性別が、ない!」という衝撃的なタイトルの一方で映画を観て感じたのは、私達がどれだけ”性別”という概念にとらわれてこれまでの人生を生きてきたか、如何に”性別”が私達の中にあるのか、という逆説的なメッセージでした。

今回この映画の製作背景を起点に、セクシュアルマイノリティが抱えている社会問題、映画を通して社会に伝えようとしているメッセージなどについて、映画監督である渡辺正悟さんにお伺いしました。

渡辺正悟監督

渡辺正悟監督

 セクシュアルマイノリティをテーマとした映画を製作すると決意された背景について 

岸本:「性別が、ない!」では、今まで自分の見てきた世界とは、違う形の世界を見ることができ、セクシュアルマイノリティの現状や、直面する問題、そして今後の課題について考えることができる作品でした。今回、社会的に注目度が高まっているセクシュアルマイノリティの中でも、インターセックスの漫画家についての映画を撮影しようと思ったのには、どのような背景があったのでしょうか。

 

渡辺監督:特に、注目が集まっているからとか、課題だからやろう、という事ではありませんでした。僕自身、「性別が、ない!」というセクシュアルマイノリティについてのエッセイ漫画を描いている新井祥さんがどういう人なのか、興味があったんです。作品は4コマで落ちを付けるギャグ漫画です。面白可笑しく表現されている漫画のコマとコマの間の余白に、絶望的な孤独や葛藤、そして希望を感じ取りました。このインターセックスの漫画家の根っこにある本当の気持ちを撮りたいと思いました。セクシュアルマイノリティを説明的に表現するのは、重要だけれど、今回僕がやりたかったのは、セクシュアルマイノリティの一人の人間に寄り添って、人間のドラマとして描きたいと思ったんです。説明してわかる映画ではなく、人々がこの映画をみて、何かを感じ取る、そんな映画を作りたかったんです。

 

インタビュー写真

撮影していて感じたセ
クシュアルマイノリティの抱える課題 

岸本:映画の製作を進めていくときに感じた、セクシュアルマイノリティについての、社会的・個人的な課題があれば教えてください。

渡辺監督:この映画を製作することを周りに伝えた際、第一声に、『キモイ!』といった人がいます。

なぜそのような言葉が出たのか探ると知らないことが一番の理由でした。当事者の方が周りにいないことがすごく大きい。周りにいたとしたら、その人のキャラクターや考え方を知り、理解することができて、隣にいることに何ら違和感がなくなると思います。でも、圧倒的にカムアウトする人は少ないと言えます。

最近、LGBT運動が盛り上がってきていて、メディア露出も増えてきました。それ自体は素晴らしいことだと思いますが、その先の段階で必要になってくることは、個別の当事者たちと日常的に出会うという経験だと思います。時間や空間を共にし、友として話したり食べたり喧嘩したりすることが、普通のことになる、それが本当のダイバーシティ社会だと思います。

 僕は、映画を撮るときに、被写体の中に自分が存在できるか、自分の中に被写体が存在するかどうか、ということを大切にしています。彼らが特別な存在ではなく、この映画を観た いわゆる “普通の”人たちが、今度会ったら挨拶をしたいなあと思うような、当事者たちが隣人のような存在になってくれたらいいなあと思っています。

 

香港におけるセクシュアルマイノリティパレードの映画内シーン                         ©ザ・ファクトリー

香港におけるセクシュアルマイノリティパレードの映画内シーン                              ©ザ・ファクトリー

 

 この映画で伝えたかったこと 

岸本:撮影を進めるにあたり、渡辺監督が伝えたかったメッセージや映画のテーマは何だったのでしょうか?

渡辺監督:今回、あらかじめテーマは設定しませんでした。寄り添っていく中で、テーマは自然に浮かび上がってくるだろうと思ったのです。どこかの誰かの物語ではなく、その人が現実に立ち向かっている壁はその人の壁として、まず描くべきだし、それが他者と共通する壁なら、社会の問題として考えることができるはずだと。大上段に振りかぶって社会と対峙しようなんて、全く考えていませんでした。

そして、撮影を進めるにつれて、大きく2つのテーマが見えてきました。

一つ目は、【性自認】です。

自分のセクシュアリティがどこにあるのか?どこに帰属するのか?

セクシュアリティの振れ幅やグラデーションについての気付きがそれぞれあると思いました。トランスジェンダーの中にも、性自認がはっきりしないXジェンダーの人たち。インターセックスにも、それぞれ性自認があり、たまたま主人公は、男でもない、女でもない「中性」と性自認しています。

この映画の中では、さまざまなセクシュアルマイノリティの方を描きましたが、彼らの心情や置かれた環境を説明的にではなく、その人々の生活に寄り添うことによって、それぞれの持つ喜びや悩み、悲しみの瞬間を捉え、見る人に感じてもらえるといいと思いました。長い間、自分のセクシュアリティの不確かさ、わからなさに悩んできたが、自分が求めるジェンダーがわかった瞬間に、こんなに人は輝くことができるのだ!と人々に感じてもらうことができたら、いいなあと思いました。

 

二つ目は、【パートナーの大切さ】です。

セクシュアルマイノリティの当事者に寄り添うことで、パートナーと共に生きていくことの大切さが、どういうことなのか?なぜ重要なのか?ということを、当事者本人の生活・人生に寄り添って描くことにチャレンジをしたかったのです。人生のなかで困難にぶつかったときに、隣にいて自分と一緒に悩んだり歩んだりしてくれる人がいることの大切さはセクシュアルマイノリティであろうがなかろうが、変わりません。セクシュアルマイノリティがパートナーと一緒にいる、本来ならほほえましい風景を、なぜ、世間は奇異に思うのか?セクシュアルマイノリティにとっての恋愛対象はセクシュアルマイノリティでしかない場合、その切実さを笑ったり、差別のまなざしで見たりすることがどうしてできるのか!問われるのは当事者でなく、いわゆる「普通」とカテゴライズされる我々の方なのではないのか。 

最終的には、セクシュアルマイノリティの物語という風に閉じるのではなく、みんなの物語であると思ってほしかったのです。登場人物たちは“生き方”を選択しています。その勇気ある生き方を私はリスペクトしたいと思います。

 

岸本:映画を観賞する前は、セクシュアルマイノリティの方々の「性自認」がテーマだと思っていましたが、鑑賞後、すべての人々に通じる「パートナーの大切さ」というテーマだと受け止めました。

そして、セクシュアルマイノリティの方々と自分で違う部分だけではなく同じ部分も改めてわかり、その両方を知ることができ、より身近に感じることができました。

一人だけで悩む状態と悩んでいる時でも誰かが側にいてくれる状態だと、心理的に全然違いますよね。主人公である新井さんのリアルな姿を見ていて、相手の心情を100%理解することは難しいけれど、悩んだり、困ったりしている人に寄り添うことでその人たちの心を軽くすることはできるのだ、と思うことができました。

 

渡辺監督:当事者について理解をしてもらい、興味を持ち、近しい存在であると感じてもらう。また加えて、人々の中に当事者の方が自然に存在するようになるといいなという願いをこめて、製作をしました。

 

自分や人の性別を分類するということを無意識のうちに行っていた自分にとって、観た後に世界の見え方が180度変わるような経験でした。渡辺監督の狙いにも非常に感銘を受け、ダイバーシティ&インクルージョンの一歩として、是非たくさんの方々にこの映画をお勧めしたいです。

 

左から江口、渡辺監督、岸本、時枝さん(Rainbow Tokyo 北区)

左から江口、渡辺監督、岸本、時枝さん(Rainbow Tokyo 北区)

 渡辺監督、時枝さん、インタビューへのご協力誠にありがとうございました!

 

 

 

<上映情報>

「性別が、ない!インターセックス漫画家のクィアな日々」

7月28日(土)よりUPLINK渋谷、名古屋シネマスコーレ、大阪シネ・ヌーヴォほか全国順次ロードショー

オフィシャルサイト:https://seibetsu-movie.com/

取材・文: 岸本かほり
Reporting and Statement: kahorikishimoto

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