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25

Apr.

2024

interview
16 Jan. 2019

スマホ精子チェックサービス「Seem」開発者と探る、妊活のダイバーシティとは

坂野広奈
プランナー
坂野広奈

結婚や出産といった人生におけるライフイベントにおいて、その時期やあり方が個々の価値観に合わせて多様化してきています。こと日本では晩婚化が進んだ結果、不妊に悩む人は増加しており、「妊活」という言葉を耳にする機会も増えました。不妊の原因は様々ですが、WHOの調査ではその約半数は男性にあると言われています。しかし、”妊活は女性が主体的に行うもの”という社会の意識が強く、多くの男性にとって、妊活を自分事化することは難しいままです。

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不妊症の原因(出典:WHO)

妊活における男女の意識の違いからうまれる課題を解決したい、という思いから生まれた「Seem(※Seemウェブサイトにリンクします)」はスマートフォンで精子の濃度と運動率を測定できるサービスです。自宅での手軽な解析を可能にしたことで、これまで妊活への関心度が高くなかった層にとってのきっかけとなりやすく、男性が積極的に妊活に取り組む社会の実現を目指しています。

開発者である入澤諒さんに、プロダクトの開発背景や妊活における課題について話を伺ってきました。

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Seemのキットには検査用の顕微鏡レンズや採取棒付きの説明書が入っている

 
男性妊活の必要性って?

なかなか妊娠ができない。すると、まずは女性側が基礎体温記録などの自己管理を始め、検査や治療を実施します。治療開始から1~2年が経つ頃にステップアップをし、そこではじめて男性側が精液検査を行う、というケースが一般的です。しかしこの時に、不妊の要因が男性側にあると分かることが多々あるというのです。男性側の要因がもっと早くにわかっていたら、時間やお金をどれほど節約できるでしょうか。男性が早期に妊活へ参加することの必要性を感じた入澤さんは、Seemの開発に取り掛かりました。

精子解析サービスという特異な分野であることや、当時リクルートでは自社プロダクトの開発を行っていなかった事から、はじめ開発への協力や賛同を得ることが難しく、医者やメーカーに相談しつつ開発をすすめていました。ターニングポイントは、社内のあるテストモニターがSeemの利用をきかっけに医療機関を受診し、無精子症であると分かった時です。妊活を始めて2ヶ月のタイミングで分かったことで早期に適切な治療を受けられ、Seemの利用からの半年後には待望の第一子を授かりました。

この出来事を通じて社内で承認されたSeemは、2016年に販売を開始しました。その後、グッドデザイン特別賞である「未来づくり」賞の受賞や、カンヌライオンズでモバイル部門グランプリに輝くなど、今は世界的に注目されています。


試して知ってわかること

入澤さんの着想ははじめから、病院への検査を促すキャンペーンやサービスではなく、実際に自分で簡易チェックができるプロダクトをつくることでした。女性は、月経を通して毎月自分の体について意識をするけれども、男性にこうした機会はない為、妊活や出産を自分事化することが難しいといいます。現に、精液検査を受けない要因でも「自分に問題があると思わない」が最も多いことから、低関心層には簡易な方法から試してもらうことが必要だと感じたのです。

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男性が精液検査を受けない要因(出典:リクルートライフスタイル「不妊に関する意識調査」)

Seemを利用した男性には、「妊活の話題が増え」、「妊活に協力的になった」など、妊活へのモチベーションにも影響を与えています。また、Seemをきっかけに病院に検査にくる男性も増えたと、医師たちからも支持されているといいます。


自分に忠実であるということ

「妊活は女性のもの」という考え方が根付く社会で、精液検査の重要性を知って男性向けプロダクトの開発をする、その柔軟な発想はどのようにして生まれたのでしょうか。

生物学と建築学の両方を学ぶために二度大学を卒業し、医療系のITプロダクトを学ぶために女性だらけの職場でたった一人の男性としてルナルナ(※)の新規企画に携わるなど、非常に珍しい経歴をもつ入澤さん。昔から周りの目を気にせずに、「自分がこうしたい」という気持ちへまっすぐ挑戦してきた人生だったといいます。

また何かに挑戦する時は、あえて最初に明確な目標は立てないようにしているとのこと。「こうあるべき」という固定概念が生まれない為、失敗による挫折感に苦しむことなく突き進むことができるそうです。

人生100年時代に向けて

「人生100年時代」と言われるように寿命が長くなり社会も成熟したことで、ライフイベントの年齢が高齢化する傾向にあります。しかし、生物としての人間の妊娠適齢期は以前と変わっていません。

昨今、不妊は「社会的不妊」と呼ばれることもあります。子育てへの経済的な負荷、フルタイムで働く女性の増加、出産や育児への自治体のサポート不足など様々な社会的要因が、妊娠に適した機会を遠ざけているのです。

 

小さな顕微鏡レンズとアプリで構成されるSeemが、妊活における男性の意識と行動の改革を行うように、テクノロジーの発展は、個人や社会の多様な選択を実現させる環境を作ることを可能としています。

TECHNOLOGY MEETS DIVERSITYプロジェクトでは、これからもこの領域における新しい可能性に注目していきます。


※ルナルナ…生理日予測を始めとする、女性のための健康管理アプリケーションツール。

 

取材・文: 坂野広奈
Reporting and Statement: hirona

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