「チョイワルナイトvol.4」ダンスでインクルージョンに挑戦!
- cococolor編集員 / ライター
- 伊藤亜実
8月18日、お盆を締めくくる週末に開催されたダンスイベント「チョイワルナイト」の会場内は、外の残暑にも負けないほどヒートアップしていた。
流行のアップテンポなダンスミュージックが流れ、身体を揺らしたり、近くの人と向き合って踊ったりと、それぞれに日ごろのストレスを忘れて楽しむ人々がフロアに溢れる様子を、輝くミラーボールが天井から見守っている。
一見、六本木などのクラブでもよく見る光景だが、ただひとつこのイベントが異なるのは、フロアの大半が小学生以下の子どもたちや、様々な障害を持った当事者、その家族の人たちだということだ。そこかしこに、車椅子に乗る人も見られる。もう半分は、ダンサーをはじめとしたアーティストたち。彼ら・彼女らは、世のクラブで人々が楽しんでいるのと同じように音楽に身を委ね、盛り上がっている。
「チョイワルナイト」は、障害のある人も、持たない人も、大人も子供も関係なく楽しめるダンスイベントだ。地域の福祉施設の利用者や、子どもたち、その他様々な人が来場している。イベントの内容は2段構え。一つ目は、プロ並みのテクニックを持ったダンサーやシンガーによるショーケースで、ダンスなどのパフォーマンスをゆっくり鑑賞できる。二つ目はDJタイムで、フロアに流れるダンスミュージックに合わせて、誰もが好きに踊ることができる。その際には、ショーケースを終えたダンサーもフロアに加わり、時には自慢のテクニックを見せ、互いに拍手を送るような場面も見られた。
記者も、クラブなどのイベントには何度か訪れているが、チョイワルナイトはそれらと全く変わらない盛り上がりを見せており、障がい者やアーティストといった壁なく、そこにいる人みんなが楽しく過ごしている姿に感銘を受けた。
このイベントを主宰しているのは、ダンスや音楽を通じて、これまでとは違った福祉の考え方を提案して行こうと活動している集団、その名も「SOCIAL WORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)」。
SOCIAL WORKEEERZのメンバー。(写真はSOCIAL WORKEEERZオフィシャルサイトよりhttp://socialworkeeerz.com/)この集団、見た目はいかついが、想いと活動はホンモノだ。
代表のTOMOYAは、幼少のころから身近にアスペルガー症候群の友人がいた影響で、福祉に関心を持っていた。現在も、介護施設でケアワーカーをしながら、SOCIAL WORKEEERZの代表を務めている。
彼にとってもう一つ関心のあった事柄がストリートダンス。この2つを結びつけるきっかけは、18歳の頃に参加したボランティア活動だった。障がい者と共に過ごす余暇時間の際、得意のストリートダンスを見せてほしいというリクエストを受けたのだ。しかも、居合わせた和太鼓の奏者とのコラボレーション。
ストリートダンスと和太鼓という異色の組み合わせに、「さすがにわかってもらえないのではないか」と思いながらパフォーマンスを始めたTOMOYAだったが、その予想は見事に外れることになる。演奏やダンスが始まると、みんなが楽しそうに身体を揺らし、音に乗り始めたのだ。
「ダンスで、福祉に新しい風を取り入れられるのではないか」。その瞬間から、TOMOYAにとっての二つの関心が重なり、ひとつの形となっていく。そして、「STREET介護FIGHTER」と名乗り、全国の介護施設を回って、ダンスのショーやワークショップを行い始めた。
一人で始めた活動だが、やがて、共感した仲間が次々と参加し、規模も大きくなってくる。TOMOYAの大学時代のダンス仲間である1☆LOWも、心打たれ参加を決意した一人であり、やがて、SOCIAL WORKEEERZの副代表を務めることとなる。
SOCIAL WORKEEERZ代表のTOYOYA(右)と、副代表の1☆LOW(左)。音楽やダンスで福祉を変えるため、それぞれ本職も忙しい中、精力的に活動している。
次第にメンバーも増え、輪が広がってくる中で、ついに2012年、SOCIAL WORKEEERZが誕生する。チョイワルナイトの企画・運営の開始だ。
チョイワルナイトは、今回で4回目を迎え、出演者数やショーの内容は、どんどん進化を遂げてきている。第4回目は、様々なジャンルのダンサーをはじめ、R&Bシンガー、来場者を巻き込みながらその場で絵を描くペインター、パーティーを盛り上げるGOGOガール、DJタイムのビートに厚みを加える和太鼓奏者など、豪華な顔ぶれ。和太鼓奏者は、ご自身が知的障害の当事者でもある。そして今回、来場者は351人に達した。
会場では、GOGOガールが盛り上げる。参加者が記念撮影をしているひとコマ。
また、イベントの雰囲気も回を追うごとに良くなっていると1☆LOWは語る。
「障害を持っている方とダンサーって一見相容れないように感じられるので、はじめは緊張感があったんです。でも、どんどんほぐれてきている。今回はすごく自然に楽しめる雰囲気になっていました」。
イベント終了後、興奮冷めやらぬ中で行ったインタビューで、記者の「楽しかったですね」という問いかけに対して、彼が返してくれた言葉が印象的だ。「だって僕たちが一番楽しんでますから」。
彼らの表情には達成感が溢れていたし、帰っていく来場者の表情には、高揚感と、イベントが終わってしまったことへの名残惜しさが、包み隠さず表れていた。TOMOYAと1☆LOWと少しでも話したい、御礼を言いたい、という人が、出演者・来場者共に後を絶たず、インタビューは細切れの時間を頂きながら行うこととなった。だが、その様子を見ていることが、何を質問するよりも、このイベントの成功を物語っていた。
出演者についても、彼らは興奮気味に語ってくれた。
「アーティストは、思った以上に障害といったことに対してハードルが低くて、イベントの趣旨を説明すると、多くの人が快く出演してくれました。今日も、来場者と一緒に盛り上がっていて、その姿を見るのが嬉しいんです」
参加者の描いた絵を、アーティストが一つにつなげて大きな絵を作成している。
TOMOYAは自身のブログの中で、SOCIAL WORKEEERZは、「ソーシャルワーカー(社会福祉士)」という一般的に使われている言葉の意味とは違い、その活動範囲は「福祉」だけを強く意識しているわけではないと語っている。
チョイワルナイトを始めた理由についても、ダンスや音楽を通じて、障害の当事者や家族、アーティスト、大人や子どもなどの、社会通念となっている人間のカテゴリー分けを気にせずに、色々な人と触れあう場を作りたい、というとても単純な動機だというのだ。
このことについて、彼は本質的な問いかけをしている。
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僕はこの団体を設立し、ダンスパーティーを企画する事で
色んな人たちと出会っていきたいし、
社会に存在する一人としてみなさんと関わっていきたいです。
そんな事普通のコミュニケーションで十分できるじゃないか。
なんて事言われてしまうでしょうけど。
果たして本当にそうなのかと。
(中略)
言葉や理屈ではなく
肌と心で感じるという事
体感するという事
でコミュニケーションが取れるという事。
誰もが偏見は持たないように、と頭で思ってはいても、実際にはなかなか壁を取り払えないというのが現実。そんな中、人が理屈抜きに心を開いてしまえる、そして見知らぬ人とも時間や感動を分かち合える音楽やダンスの力を借りて、触れあいのハードルを少しでも下げようと目論んでいる団体がSOCIAL WORKEEERZ、そして、その理念が実現されている場がチョイワルナイトだ。
心から楽しそうに踊る参加者たちの様子。
ソーシャルインクルージョンにおいての一番のネックとなる人々の意識に、無理なく踏み込んだSOCIAL WORKEEERZ。代表のTOMOYAは、今後はさらにインクルージョンの仕組みについて学んでいきたいと語る。
より多くの人や社会が自然に触れあい、前向きに生きていけるような未来に向けて、STREET介護FIGHTERとSOCIAL WORKEEERZの挑戦は続く。
■SOCIALWORKEEERZ(ソーシャルワーカーズ)とは
音楽やダンスを通じて福祉を変えていこうと活動している有志団体。代表 笹本智哉、副代表 桑原一郎、2012年結成。
川崎市を中心に、福祉施設および児童養護施設、各種福祉関連のイベントに出演。また、障害を持った方やその親御さん、施設福祉職員を招いてのダンスイベント「DANCE PARTY チョイワルナイト -DANCEと福祉をつなぐ-」主催。ダンスパフォーマンスおよび音楽にのってみんなで遊ぶ「DJ TIME」で、みんなで一緒に楽しむ空間を提供している。
『あらゆる人達が各々のバックグランドや社会的な仕組みなど面倒な部分を超えて、共鳴し合える環境を提供していきたい。(中略)音楽とダンスという感性と右脳の働きかけが、福祉のコミュニケーションを抜本的にくつがえすと信じています。(中略)誰も卑下せず、自信に満ち溢れ「俺達はサイコーだぜ!」 と思い合える。音楽・ダンスを通じて全ての人達が社会から排除されず包摂されていく。そんな世の中になってほしい。 これが私たちの願いです。』(オフィシャルサイトより抜粋)
オフィシャルサイト:http://socialworkeeerz.com/
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