超福祉展2020③Final~ここからはじまる『超新星爆発』 前編~
- cococolor事業部長 / cococolor発行人
- 林孝裕
2014年から、毎年秋に渋谷で開催されてきた『2020年渋谷、超福祉の日常を体験しよう展(以下:超福祉展)』は、東京オリンピック・パラリンピック開催予定だった今年を最後の開催とし、幕を閉じました。オンライン配信をメインに実現されており、こちらのリンクから一部を除き視聴ができます。
http://peopledesign.or.jp/fukushi/
参加者、出展者、主催者の三者の視点で、お送りしてきたシリーズ記事「超福祉展2020」。今回は、主催者の視点を通じて振り返る、シリーズフィナーレです。
■『超福祉展』cococolorからの総覧
私たちcococolorおよび電通ダイバーシティ・ラボは、これまで取材者として、出展者として、時にはシンポジウムコンテンツの提供者としてこの超福祉展というプロジェクトに参加をさせて頂いてきた。改めて振り返ってみれば、本稿で18記事目を数える超福祉展関連記事となる。
これまでも私たちだけではなく、多くのメディアを通じて超福祉展は発信されており、特にダイバーシティをテーマとするメディアであるcococolor読者の皆さんの中には、記事の内容以上に、より深く直接的な関わりを持たれている方も多いのではと思う。
そうした中で、今年のシリーズ最終回として、そして数年にわたり取材をさせて頂いてきたcococolorの超福祉展レポートの締めくくりとして、今回は、前編・後編の2編にわたって、この超福祉展を生み出し、動かして来た人々、言うなれば『ナカの人たち』との対話から、超福祉展とその7年間の取り組みを通じてそのナカで育まれたものを、そしてここから始まっていくであろうこれからの可能性を、私たちcococolorならではの視点から探っていきたい。
取材執筆はcococolor発行人/事業部統括の林孝裕、タイトルのグラフィックおよび文中のグラフィック、取材コーディネートは超福祉展のナカの人の一人であり、唯一「美術家」という肩書でcococolorに参加するセンス(sense)こと坂巻善徳さんにお願いした。
※謎のタイトルおよびタイトル画も超福祉展で出会った二人のディスカッションチャットから生まれた。その意味は、ぜひ中身を読み進めて頂ければと思う。
■『超福祉展』はどこから来たのか
まずは、超福祉展の誕生に至るまでの経緯について。
これについては、主催者であるNPO法人ピープルデザイン研究所著 「PEOPLE DESIGN 超福祉 インクルーシブ社会の実現に向けたアイデアと実践の記録(ポット出版プラス)」に詳しく紹介されているので、そこから一部抜粋し要約する。
キーワードは、「ピープルデザイン」「まちづくり」「渋谷」「2020」そして「超福祉」。
<2012年>
代表理事の須藤シンジ氏をはじめとする4人のメンバーで、NPO法人ピープルデザイン研究所(以下:PDI)を渋谷区に設立。「心のバリアフリーをクリエイティブに実現する思想と方法論」を「ピープルデザイン」と定義し、ダイバーシティ社会の実現を目指したまちづくりをテーマに活動。
原宿と青山にて「エコロジー×ハンディキャップ」「モビリティ×ファッション」といった新たなミックスを通じて渋谷の未来像を考えていくイベント「PEOPLE DESIGN MIXTURE」を開催。
2021年に開催された「PEOPLE DESIGN MIXTURE」より
<2013年>
東京国体とコラボした「Mixture! People Design Fes.」を開催。
東京都や渋谷区と連携の下、前年に好評を博したモビリティの試乗会や、障害者就労支援をするキッチンカーの提供などを通じて大会を盛り上げた。
「Mixture! People Design Fes.」でのセグウェイ試乗会
この年から、翌年の超福祉展開催を目指した準備が始まる。
ノーマライゼーションの「マイナスをゼロに引き上げる」視座を超え、「意識のバリア」を、「カッコいい」「かわいい」「ヤバイ」といった「憧れ」へ転換させるような心のバリアフリー、意識のイノベーションを「超福祉」と定義。
<2014年>
過去2年の取り組みをパワーアップさせる形で、従来の福祉を超えた姿を魅せるイベントとして、第1回「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展。」、通称「超福祉展」を開催。
会場は、ファッションやポップカルチャーの発祥地であり、今後を担う若者たちが集う場所である、渋谷のど真ん中「渋谷ヒカリエ」を拠点に、渋谷のまち全体を媒体として意識の変革を起こしていく事を狙った。
2014年より渋谷ヒカリエを主会場とした超福祉展が始まった
以降、2020年を最終回と設定し、毎年拡大成長を繰り返しながら年1回の超福祉展開催を実現していった。
<2014年~2020年までの超福祉展の変遷>
超福祉展の実績 ※2020年は会場ボランティアと在宅ボランティアの合計
超福祉展の変遷(2019年超福祉展パンフレットより)
■『超福祉展』のナカミは何だったのか?
こうして時を重ねてきた超福祉展。しかし、その本当のナカミは一体何であったのか?を考えるうえで、「ナカの人たち」に集まってもらい、そのナカミについて聞いてみることとし、超福祉展のプロデュースを担われてきたPDIディレクター田中さんのご協力も得て、最強のナカの人たちを集めたZoom座談会が実現した。
◇「超福祉展のナカの人たち」Zoom座談会
参加者
須藤シンジさん(PDI代表理事)
sense・坂巻善徳さん(美術家)
岡部修三さん(建築家・upsetters architecs主宰)
布施田祥子さん(PDI運営委員・株式会社LUYL代表取締役)
鳥羽和輝さん(PDI運営委員・慶応義塾大学4年)
コーディネータ
田中真宏さん(PDIディレクター)
聞き手
林孝裕
ナカの人たち座談会の様子
左上より、田中さん、林、センスさん、岡部さん、鳥羽さん、布施田さん、須藤さん
それぞれの「たまたま」が自然につながっていく多様な人たち
まず、集まっていただいたナカの人たちがそれこそ多様。「超福祉」というよりも、「超多様」。年齢も職業も性別もなにもかもばらばらで、いったいこの人たちがどうやってつながり合ったのかがまず謎である。そこで、まずはそれぞれの超福祉展への関わり方と、どうやってそこに行きついたのかについて伺った。
岡部:「僕はセンス君に声をかけられたのがきっかけで、それこそ何の説明もないまま初回の会合に連れて行かれたっていうのがスタートですね。2014年の第1回超福祉展の企画段階からの参加で、主に会場の展示デザインをやらせて頂いています。センス君とは2005年くらいから知り合っていて、その頃に須藤さんにもお会いしているんです。」
センス:「そうそう、なんかちょっと面白い人がいるからみんなで会おうよってことで。」
岡部:「超福祉の全然前でしたが、かなり熱くピープルデザインの話をされて、僕自身そういう領域に興味があったのですが、思っていたことを言語化して進めている人がいるんだっていうことをそこで初めて知って、これはすごいなって思ったんです。実は後で知るのですが、ピープルデザインの初期に関わっていたジェフステイプルというクリエイティブディレクターがいるのですが、その頃ちょうど僕も彼と仕事をしていたんです。実は全然別の知らないところで自然とつながっていました。そうして超福祉展の企画が始まるタイミングで改めてセンス君から、こういうイベントがあるよという事で声をかけてもらいました。」
センス:「僕はPEOPLE DESIGN MIXTUREの頃からアーティストとして参加していたのですが、いよいよ超福祉展という形で展開するにあたって、このイベントの考え方を前提にしたら、直感的に岡部君しかいないなと思って。自然に対するスタンスとか、音楽やストリートへの感覚とか、そういうことが僕のアートには密接に関係しているんですが、そういうところの共有度が高い人だと感じていました。ナカに入ってもらえばきっと勝手にいろいろやってくれるだろうなと思って誘ったら、やっぱりその通りになりました。」
岡部:「最初は単純に会場設計っていうポジションだったんですが、超福祉展っていうものが目指しているところとか、どこに向かって何のためにやるのかっていう、ナカミのことをちゃんとキャッチアップしながら、場合によってはそれをより良くしていきながら形にしていかなきゃなっていうスタンスで関わっていました。初回はとにかく形にすることで精いっぱいだったんですが、ひとつ印象的だったことがあって、それは第1回が終わったときに、すぐに次をどうしようかという事をみんなで話していたこと。結構コテンパンな第1回だったのに、すぐに2回目の話をする。これは結構面白いなと思いました。」
こうして、超福祉展を生み出すコアになる人たちが、あいまいながらなんとなく共有できるものを持ち合わせていることを数年前に確認し合い、それぞれの場所で別の活動をしながら、後になって気が付くような自然さでつながりあって行ったのだというのはとても興味深かった。
後に参加することとなる布施田さんや鳥羽さんも、また自然と、そしてある部分では必然的につながって行った。
布施田:「私は2017年に初めて接点持ったのですが、当時自分で事業を立ち上げようとしていたタイミングでした。自分自身に左半身麻痺の障害があって、日常的に下肢装具というものをつけているのですが、その装具で履ける靴ってなかなか見つからなかったので、自分でつくろうと考えて。ビジネスコンテストなどには出していたのですが、これから具体的にどうやって動こうかというときに、ネットで「障害者」「装具」「おしゃれな靴」「開発」とかそういうワードで検索をしていたら、たまたま須藤さんの記事がいくつかヒットしたんです。そこで須藤さんに会いたいとPDIにメールしたら、超福祉展のボランティア説明会に須藤さんが来るという事を教えて頂きました。参加者のフリではないんですけれど、娘と一緒に参加して、そこで帰り際の須藤さんを追いかけていって、ビジコンに出していた事業の企画書をプレゼンしたのが初めです。」
須藤:「かなり真面目な企画書だなという印象でした。さっき出てきたジェフステイプルと一緒に、2002年頃からやっていたプロジェクトがあるんですが、実はその時のキーアイテムが靴だったんです。なので、その難しさを身に染みて知っていたので、内心は結構否定的で、リスキーだなという印象でした。でも、考え方としては当時の僕と同じだなと思いまして、まずは超福祉展のみならず我々PDIの持っている土俵を、僕らも作り手として利用していきながら、布施田さんのような人にも自分の好きなように媒体として使ってもらったらいいんじゃないかと思って、一緒にやらないかと声を掛けました。」
超福祉展には本当に多様な人たちが関わられてきたと思うが、テーマとしてメッセージすることの大前提として、そこに集まった人それぞれが個々の目標を持っていて、それを同じ土俵に受け入れ合って、お互いにうまく使い合ったりするということが重要な考え方なのだろうか。
布施田:「実際に私も関わるようになって、うちのロボット使ってみて下さいと依頼されたものを使いながら自分のリハビリも再開したり、自分の事業としては出展企業さんと一緒に試着会をやらせて頂いたりして、展示会の運営もしながら、そこで自分だけではできないことも含めて自分なりの目的に向けてもアクティブに動いてきました。そういう機会やきっかけはたくさん頂けたと思います。私たちがつくっている靴も、おしゃれにしていったり、装具をアップデートしていく事で、街に出たいとか、これで入学式だったり卒業式に出たいとか、そんな目的を持つきっかけになったらいいなと思っています。超福祉展という場も、誰かのそんなきっかけになったらと思って運営をしています。
2018年にはシンポジウムの枠を頂いて発信したり、昨年はセンスさん達と一緒に出展もさせて頂きました。まだまだ障害とファッションって結びつかないというか、当事者としては普通におしゃれもできないんだよっていう現状も理解されていないという想いがあったので、超福祉展の場で、もう一度ダサいものじゃないんだというファッションの目線で表現をさせてもらいました。」
2019年には運営に関わりながら自社のプロトタイプを展示
鳥羽さんはSFCで学ぶ大学4年生だ。今回の座談会に誰を呼ぶかという事を田中さん、センスさんと相談している中で、お二人が声をそろえて「鳥羽君は是非呼んだ方がいい」とい言わしめた人である。彼もまた偶然と必然が重なり合ったつながりでその中核にどんどんと入っていった人だった。
鳥羽:「2つ下にダウン症で知的障害のある弟がいまして、僕は中高がアメリカなんですが、アメリカでの障害者の暮らし方を見ていく中で、いま日本ってどうなんだろうと考えるようになりました。例えば弟のような障害のある人たちが、いわゆる特別支援学校を卒業したあとの働き方ってどうなのかとか、そういうことを勉強したり自分でも活動をしたりしたいと考えてSFCに入学しました。
入学してしばらくして大きな転機になったのが、相模原で起きた障害者施設殺傷事件です。僕が何か始めたいなと思っていた時にそういう悲しい事件が起きて、SFC生としても、一人の兄としても、本気で活動を始めなければいけないと考えました。
とは言えいきなり何かができるわけではないので、色々な福祉イベントなどに参加していたのですが、正直どれも手ごたえがなかったんです。そうした中で本当にたまたま検索でヒットしたのが2016年の超福祉展でした。「渋谷」「福祉」「イベント」とか本当にそんなものです。そして来場者として渋谷のヒカリエに行ってみたら、本当にこれまで見て来ていた福祉イベントとは全く違うワクワク感がそこにありました。それが僕の初めての超福祉展です。
2016年に一般来場者として展示をみる鳥羽さん
それから、これもたまたま僕がその後お世話になる井庭崇先生が須藤さんとお仕事をされていて、先生のところで学んでいたら、今度超福祉展のボランティアがあるらしいから鳥羽行って来いよと言ってくれる先輩もいらして、先生と先輩の後押しで2017年のボランティアに参加することになりました。
17年のボランティアはとても楽しかったのですが、当時統括をされていた学生リーダーから、来年卒業するので後釜としてボランティアの方々をまとめてくれないかというお話を頂いて、PDIの定例会を一回覗きに行ったら、そのままお返事する間もなく、ボランティア統括をさせて頂いたりして今に至ります。」
色々な背景やきっかけがつながり、この超福祉展との接点を持って行った鳥羽さん。その後、ナカへの入り込み方はさらに加速していったという。
鳥羽:「2019年には1年休学をして、PDIに参加して須藤さんの下で学ばせて頂きました。ボランティア統括だけでなく、それこそ岡部さん達とクリエイティブな部分にも関わらせて頂いたり、布施田さんと一緒に広報をやらせて頂いたり、超福祉展の色々なところに首を突っ込ませて頂いています。さっき言っていた、使い合うじゃないですけど、丁度ピープルデザインが掲げている『次世代』というものと、僕が主体的に活動できる場を探していたという事が上手く合致して、僕は学ぶ場としてベストな場所でしたし、ピープルとしても次世代を作り出せる空気感を持った一人という部分で貢献できたこともあるのかなって思います。」
「物差し」が共有された自由なコミュニティ
1年間休学をしてまでナカに入り込んでいきながらも、お互いWIN-WINであったはずと分析をしていく鳥羽さん。しかし、それだけでは終わらせずに、そのWINをさらに広げていったのがまさしく鳥羽さんだったという。
鳥羽:「ボランティアには障害のある方もない方も、学生から60代まで、本当にいろいろな方がいます。特に一番多いのはやはり学生の方で、もちろん福祉の勉強がしたいという方もいらっしゃいますが、それだけじゃなくて、なんか渋谷で面白そうなイベントをやっていて、それをたまたま見つけたのでそのままボランティアとかもいます。むしろそういう方にこそ、色々な発見があるような実りのある時間にして頂きたいなっていうのはすごく思っています。なので、それぞれの志望動機などを見て、それに合うシンポジウムや出展企業などと接点を持ちやすいシフトやポジションをマッチングさせたり、それぞれの意思に沿って全体を運営していくという事をやってきました。」
2019年ボランティア統括をした際のとある1日ボランティアの皆さんと
須藤:「今年の鳥羽君はボランティア統括を飛び越えて、超福祉展全体統括っていう立場でやっていました。
彼に大学を休学してうちに弟子入りしたいと言われた時におじさんマインドに火がついちゃいまして、コンセプトの組み立てから、そのコンセプトの物差しを現場のオペレーションにどう持っていって、エンドユーザーとの接点の部分に至されるかまで、微に入り細に入り古きオヤジとして伝授しました。
どこに出しても恥ずかしくない人材に成長してくれたと思っています。」
ここで出てきた「コンセプトの物差し」という言葉に岡部さんが重ねた。
岡部:「超福祉展に限らず、ピープルデザインの周辺には何か本質的な物差しのようなものが引かれていて、別にこうしなきゃいけないというわけではないんだけれど、あらゆるジャッジメントに対する物差しが存在するような気がします。個人によって解釈も違うんだけどなんとなく本質的な物差しのようなものだけを共有していることで、あとはみんなが勝手に動くという。その輪郭では、ちょっと違うんじゃないって言う様なことも頻発はするんだけれども、それもみんなでちゃんと議論できるような土俵もある感じ。コミュニティにとってそういうものが本当に大事なあり方なのではないかと思います。」
ちゃんと理解していなくてもそれでいい、真ん中にあるあり方
ナカの人たちもみな外からやってきて、集まり、そこにまたいろいろな人がどんどん集まって、動き続けていく。「超福祉」や「ピープルデザイン」という中核をなす言葉やその概念はあるものの、例えば300人いる、レベル感もまちまちのボランティアだけをとっても、どのようにそれらが共有されていくのだろうか。
岡部:「そのナカミの部分については、なにか渡されたり、話されたり一切しておらず、でもなんとなく分かるなというアバウトな感じだと思うんですね。それはなぜなんだろうと考えていたのですが、きっとアタリマエのことを言っているに過ぎないからなんだと思います。でもそのアタリマエがものすごく難しくなっている中で、みんなが実直に向き合おうとする感じが軸をつくって行くっていう話なのかなと思います。全部は理解していないけれどそれでいいんじゃないかという感じがいいのかなと。」
センス:「福祉とかを置いておいたとしても、愛とか平和とか、割と大きなものが『あり方』としてまず共有されていて、そこに超福祉展という『やり方』が出てきたという事なのだと思います。なので、超福祉とか福祉とは何かということでモチベーションをあえてつくる必要もなかったんじゃないかなと。」
布施田:「私も初めの頃、定例会に参加していても皆さんの言語がわからずに、いったい何を言っているのか正直よくわからなくて、メモして家に帰って調べたりとかしていました。でも、何となく目指している未来とかそれがとてもすてきだなと思えるものだという事は分かって、理解できていなかったかもしれないけどそこにいるのは毎回とても楽しくて、それを許される場としてもとても居心地がよかったんです。」
鳥羽:「僕も、すごくいい意味で、あ、ちょっと悪い意味もあるんですけど、ゆるいなとは思います。絶対に何かしなくちゃいけないとかがあるわけではなく、ゆるい雰囲気が流れているなと。」
あらためて「福祉」という言葉を調べると、「福」も「祉」も、幸せであることや幸いであることを意味するという事がわかる。純粋に、「アタリマエに幸せな状態」のことを「福祉」というのである。しかしその言葉は多くの場合、障害や社会的弱者などを対象とした支援や救済など、バイアスが掛かった理解をされており、言葉が元の意味から離れた理解をつくってしまっているのではないだろうか。
超福祉展のナカの人たちは、そうした元の意味の「福祉=アタリマエに幸せを望んでいくこと」という、事細かに言葉化しなくともおおよそ共有できるような大きなあり方が真ん中にあり、それを「物差し」にして自然にお互いつながり合うことで、あとは安心して自由に動き回れる人たちなのだという事を理解できたような気がした。
こうした経典やテキストのない人と人との共感性によってつながりあうコミュニティがインクルーシブな社会を目指す超福祉展のコアにあるという事はとても説得力があるのではないだろうか。
後編では、超福祉展が残したもの、そしてその先の可能性について探っていきます。
(後編はこちら)
■超福祉展のナカの人たちプロフィール
須藤 シンジ
NPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事
“心のバリアフリー”をクリエイティブに実現する思想や方法として、「ピープルデザイン」という概念を提唱。国内外の教育機関との連携や渋谷区や川崎市の行政と連動したマチづくりまで、幅広い活動をしている。
坂巻 善徳 a.k.a. sense
美術家 クリエイティブ・プロデューサー 作品はこちらをご覧ください
美術作家、ライブペインターとしての活動を軸に店舗内壁画、グラフィックデザイン、プロダクトアートディレクション、クリエィティブコンサルティングなど、様々な分野で多数のコラボレーション作品を制作。その作品を通して世界に<Peace & Happiness>を送り出し続ける。超福祉展へはTHE BLUE LOVE by sense + KAZとして参加。cococolor編集部美術家。
岡部 修三
建築家 upsetters architecs主宰
2004年よりupsetters architectsを主宰。「新しい時代のための環境」を目指して、建築的な思考に基づく環境デザインと、ビジョンと事業性の両立のためのストラテジデザインを行う。2014年よりブランド構築に特化したLED enterprise 代表、グローバル戦略のためのアメリカ法人 New York Design Lab. 代表を兼任。JCDデザイン賞金賞、グッドデザイン賞、iFデザイン賞など、国内外での受賞歴多数。
布施田 祥子
株式会社LUYL 代表
NPO法人ピープルデザイン研究所 運営委員
当事者目線で「下肢装具にも履けるオシャレな靴」企画、開発、販売を手掛け、障害のある無しに関係なくオシャレが楽しめるセレクトショップ「Mana’olana」を運営。教育機関、医療機関などでも講演活動を行う。2020年度グッドデザインを受賞。
鳥羽 和輝
慶應義塾大学総合政策学部4年
NPO法人ピープルデザイン研究所 運営委員
ダウン症の弟の兄として、選択肢の開拓をテーマに掲げ、人と人とがつながり、誰もが心豊かに暮らす、多様性に寛容な社会の実現に向けた創造実践に取り組む。2018年よりPDI運営委員として、複数プロジェクトの企画・運営を担当。
田中 真宏
NPO法人ピープルデザイン研究所 ディレクター
文化服装学院卒業後、スノーボードインストラクター、アパレルの販売員・企画・デザインを経て、2009年にネクスタイド・エヴォリューション社に入社。2012年、PDI設立と共に運営メンバーに。現在はディレクターとして、超福祉展などのイベントや、障害者の就労体験プロジェクトなどの企画から運営までを担っている。
取材・執筆 林孝裕
グラフィック 坂巻 善徳 a.k.a. sense / sense + KAZ
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