一人一人のちがいを大切に。日本初のペット共生型障害者グループホームとは。
- プロデューサー
- 在原遥子
「障害者グループホームの不足」「空き家問題」「ペット殺処分問題」。一見、それぞれ何の関連もない日本の社会課題。これらを同時に解決しようと取り組む事業がある。それは、日本初のペット共生型障害者グループホーム「わおん」「にゃおん」だ。
グループホームとは高齢者、障害者などが一般住宅で生活する、社会的介護、養護の一形態である。「わおん」「にゃおん」では、一般的な障害者グループホームと異なり、保護犬や保護猫の引き取りを行い、人と動物との共生環境を整えている。動物とのふれあいを通じて、心が癒され、コミュニケーションを促進するアニマルセラピー効果が期待できると共に、殺処分される犬・猫の命を救っている。
今回は、ペット共生型障害者グループホーム「わおん」「にゃおん」を立ち上げた、アニスピ代表の藤田英明さんに話を伺った。
株式会社アニスピホールディングス 代表取締役藤田英明さん
動物の福祉も人の福祉も同時に成し遂げたい
今までにない新しい仕組みである、ペット共生型障害者グループホームを藤田さんはなぜ立ち上げたのか。そこには動物への愛と、グループホームの重要性への気づきがあった。
根っからの動物好きで、10代のときから個人で動物の保護に取り組んでいた藤田さん。ずっと動物と人が共生できる仕組みを考えていたという。ただ、当時は「ペットは外で飼う」という考えが一般的で、実際に共生を目指す行動に移すことは難しく、本格的に取り組み始めることはできなかった。しかし、40歳の時にあるきっかけがあり、そこから本格的に立ち上げに向けて動き出したという。
「僕は子どものときから動物が好きで、けがをした犬や猫を見かけるたび、保護を繰り返していたのですが、11歳のときに黒猫を拾ったんです。その黒猫が本当に長生きで30年近く生きて、僕が40歳の時に亡くなりました。その頃にはペットや動物に対する世の中の考え方も変わってきていたので、このタイミングで本格的に動物の保護にもつながる取り組みをやろうと。長年寄り添った黒猫に背中を押されました。」
動物への愛にあふれる藤田さんだが、人間の福祉にも熱い思いを持っている。大学で福祉を学ぶ中で、今の社会におけるグループホームの必要性を強く感じたという。
「今日本の障害者の人口は990万人(※1)で、もうすぐ1,000万人です。10人に1人は何らかの障害を抱えているんですよね。ご自身の障害を認識したうえで生活する人が増えている中、さらに日本では高齢化も進んでいて、障害者の親が高齢化することで、老老介護ならぬ、「老障介護」(高齢者が障害者の介護をする)も増えてきていて、障害者の暮らしの維持も難しくなってきています。
さらに、障害のある人が高齢者になったとき、介護施設では受け入れてくれないこともあります。グループホームなら親子そろって入居することも、障害のある高齢者を受け入れることもできる。今不足しているグループホームを増やしていくことが、これから重要であると思います。」
課題を突き詰めアイデアを生む
動物の福祉にも人の福祉にも関心のあった藤田さん。それぞれが抱える「障害者グループホームの不足」「ペット殺処分問題」という課題を一つずつ解決に導くのではなく、その二つを同時に解決するアイデアはなぜ生まれたのか。
一石二鳥、一石三鳥を狙い、「誰も損しないものを生み出したい」と語る藤田さんに、課題を掛け合わせてアイデアを生む極意を伺った。
「元々は動物の保護をしたいという思いから始まったのですが、保護をする場所や資金を確保しながら継続することは難しいという壁にぶつかってしまって。そんな時に、これからグループホームの必要性が高まっていくことを思い出し、それを活用しようと。さらに、グループホームを作るという目的ではなかなか物件を貸してもらえないという壁にぶつかっていたところ、空き家であれば借りられることに気付き、空き家問題の解決にもつながることになりました。」
一つ一つの課題に取り組むと壁にぶつかる、そこで別の課題と組み合わせることで壁を乗り越える。それぞれの課題を突き詰めて取り組んでいく藤田さんだからこそ生まれたアイデアである。
社会貢献をビジネスに
社会課題を組み合わせて生まれた「わおん」「にゃおん」。そもそも、藤田さんはなぜ社会課題の解決に取り組もうと思ったのか、その理由を伺った。
「最初に社会課題への興味をもったのは中学生のときですね。サッカーをやっていて8ヶ月間のブラジル留学に行くことになったんです。ブラジルは日本に比べると治安があまり良くないものの、とても活気がありました。もちろん文化の違いもあるとは思うのですが、日本に帰ってきたときに静かで元気がない国のように感じてしまって。
そんなブラジルと日本の違いを知るために社会課題を自分なりに学び始めました。最初に学んだのは貧困のこと。そこからさらに調べていくと、貧困のベースには障害があることを知り、貧困に苦しむ人や障害のある人の生活を支える仕事をしたいと思い、大学で社会福祉学科に入りました。」
中学生時代の原体験から興味を持ち始め、社会課題の解決を考え続けている。ただ、その解決方法はボランタリーなものではなく、ビジネスとして成り立つものばかりである。
「社会貢献を必ずビジネスにしているのは、資本主義的な考えを強く持つ銀行員だった父親の影響です。父親の仕事の話を聞いていると、いくら社会にとっていいことでも、しっかり利益が出ないと継続できないことに気付きました。目の前の人を助けていくためには、自分で事業化して継続可能な仕組みをつくる必要があると考えています。」
社会課題に対し真剣に向き合い、一時的な支援ではなく、継続的に支援したいという思いがあるからこそ、ビジネスとして成り立つことも重視している。
一人一人の特性を大切に
社会課題の解決を目指し、動物も人も隔たりなく接する藤田さんの考えるダイバーシティとは何か。
「そもそも福祉って、障害の有無に限らず、一人一人の特性を捉えていくことが大切なんです。逆に言うとその特性を活かしていかないと、福祉の仕事はそもそも成り立たない。誰にだって特性はあるのだから会社や組織でも適材適所がちゃんと実現されれば、みんな働きやすいかな。ある一定の基準を設けて常識を押しつけると、できる人とできない人という線引きが生まれてしまうじゃないですか。
今の社会は、社会的にどんな価値観だろうが、どんな過去だろうが、どんな特性だろうが、それを受け入れていく方向に入っていると思います。」
さいごに
藤田さんの話を伺って印象的だったのは、肩書や表面上の違いでレッテルを貼らず、それぞれに異なる個性や特性があると考えていること。そこには、障害の有無はもちろん、動物と人など、種の違いも関係ない。
実はアニスピでは「社員犬」も働いており、最近その社員犬が広報部長と広報課長に就任したという。既存の型やルールにはめず、それぞれの特性を生かした適材適所を考え続けているからこその判断であるように感じた。
左:広報課長のカフィー、右:広報部長のパル
全員に特性があるのだから、そもそもすべての組織にダイバーシティは「在る」のだ。一人一人、目の前にいる人の違いや個性を大切にする。そのことがインクルーシブな社会の実現のための第一歩なのではないか。
文:海東彩加、在原遥子
※1:厚生労働省 令和3年度版厚生労働白書(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/20-2/dl/09.pdf)
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