cococolor cococolor

25

Nov.

2024

event
17 Feb. 2022

大手企業の経営者に聞く、ESG経営実現のためのアイデア。

半澤絵里奈
編集長 / プロデューサー
半澤絵里奈

「RETHINK, REBUILD. Building Sustainable Systems for All. これからの続けられる社会とは」というスローガンのもと実施された5回目のMASHING UPカンファレンス

この記事では『今私が考えていること。ESG経営と新しいリーダーシップ』というセッションについてレポートいたします。
(冒頭写真 ⒸMASHING UP)

モデレーターの篠田真貴子さん(エール株式会社 取締役)より、ESG経営を実現するべく企業のパーパスがあるが、このパーパスとの距離感やつながらなさをこのセッションを通して埋めていきたいというセッションの意図が共有されセッションはスタートしました。登壇者は、江川雅子さん(一橋大学大学院経営管理研究科特任教授)、吉本浩之さん(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc. 日本 社長)、桑原茂雄さん(イーデザイン損害保険 取締役社長)、樋口泰行さん(パナソニック 代表取締役専務執行役員)の4名でした。

 

ミッション・パーパス・ビジョンなどを定めるときに意図したことは?

まず、登壇者に問いかけられたのは「ミッション・パーパス・ビジョンなどを定めるときに意図したことは?」ということ。

パナソニックの樋口さんは、2023年以降パナソニックが持ち株会社制に移行するため、各社の自立した経営を求められる立場です。樋口さんは、社員の気持ちや方向性を合わせて力を発揮するという目的に加えて、社会から求められる/尊敬される存在になることを意図してパーパスをつくっていると述べられました。具体的には、モノが求められる時代から変遷している今、モノではないけれどもESGという領域で社会に貢献することがテーマだということです。

自動車保険を専門とするイーデザイン損保の桑原さんは、お客様の体験(CX)を突き詰めて考えていくと「事故がない世界=保険がいらなくなるような保険会社」を目指すべきだと述べられました。この「事故のない世界そのものをお客様と共創する」というのはイーデザイン損保のミッションにも記載されているセンテンスです。ビジネスのキーワードが実感のないものではなく、CX起点で考えたからこそこのミッションが産まれ、ビジョンとバリューが形成されたということです。

アメリカン・エキスプレスの吉本さんは、お客様に世界最高の体験を提供するためにはまず自社の社員を大事にすることを大きな特徴としています。具体的には、社長も含めて全員を「collegue(コリーグ=同僚の意)」と呼び、その上でcollegue同士、お客様、社会とのリレーションシップを大切にしています。常に、collegueの延長線上にお客様がいるという思想のもとにミッションを定めているそうです。

 

経営者として社員に働きかけていること・期待することは?

複数企業の社外取締役も務める江川さんは、基本原則や規範は良いことが書いてあるけれどあまり読まないし距離を感じるものなので、ビジョンやパーパスという価値観を社員に浸透させて実践してもらうというのは経営者にとって難しい課題であると述べられました。

 パナソニックの樋口さんは、価値観の社員への浸透について、経営者としてまず自分が信じていることをパーパスに置かないといけないと考えていて、その上で、パーパスはロングジャーニーなので社員に対しては行動規範を別に定め、盲目的に従ってもらうよりも行動規範を基に社員自らが考え動くことを求めると述べられました。

続いて、会社に「まじきら(少人数で真面目な話を気楽にする会)」という文化があるというイーデザイン損保の桑原さんは、「まじきら」でなぜそのミッションがあるのかという背景や想いをしっかり伝えるとのこと。しかし、社員は疑問を抱えていることも多いので、社員の置かれている環境や状況に合わせて伝え方を変え、理解・意識をもってもらえるように工夫しているそうです。そして働く目的やモチベーションはみんな異なるので、それぞれ伸び伸びやりましょうということも伝えられるとのことでした。

さらに、アメリカン・エキスプレスの吉本さんは、経営の基本として、経営者・管理職の強いコミットメントや評価制度、賃金格差の是正等に加え、それだけではなくcollegue一人ひとりのボトムアップを醸成し経営として支援していると述べられました。collegue一人ひとりがリーダーシップを持って自主的に会社を良くしていくことがお客様への価値も上げていくと考えているそうです。

パーパスという言葉が急上昇したのはなぜ?

経営者のみなさんの発言を受け、江川さんは、①若い人を中心に仕事の意義を考えるようになった傾向、②組織と個人の関係に変化が生じ始めキャリアを自分で築く時代になり組織の作り方も変わった影響、③組織の枠を超えたコラボがやりやすい時代に優秀なパートナーを求め始めている潮流などがパーパスという言葉が重要視されている背景にあるのではないかという見解を述べられました。

また、会社の経営方針などを自分ゴトにしてもらうためには、方向性を強くしすぎると自立性が失われることもあるので塩梅の大事さや、社会や環境の課題をどれだけ重視するかが企業の競争力に直結する課題を感じているとも訴えられました。

そして最後に篠田さんは、ご登壇者のみなさんが社内に多くの対話の機会を設けているという共通点について触れ、「話せるということは聞いてもらえる。聞いてもらえると信じるから話せる」ことで自分の大切にしている価値観が会社のパーパスと接続していく経験ができているのではないか、これがものすごく求められていると日々の仕事のなかでも実感しているとまとめられました。

 

ESG経営、まずは社内のエンゲージメントが最優先

セッションを取材し感じたのは、「ESG経営、まずは社内のエンゲージメントだ」ということです。ESGというキーワードだけあげれば、そこには、投資家に評価を受ける前提での数字や実績のプレゼンテーション、社会から理解・共感されやすいミッション・パーパス・ビジョンの策定も存在しています。しかし、篠田さんの最後のまとめにも通じますが、企業の経営者である本セッションの登壇者のみなさんが何より大切にしていたのは経営者とそこで働く人たちのエンゲージメントだと感じました。そして共通して、働く人たちの内から湧き上がるパッションやモチベーションをサポートし、個々の業務でもそのパワーが活かされていくことがESG経営に大きく影響するのだと意識されている印象を持ちました。

 

取材・文: 半澤絵里奈
Reporting and Statement: elinahanzawa

関連記事

この人の記事