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14 Mar. 2022

正しい情報提供インフラの挑戦 ~WCW2022 セッションプログラム取材レポートCancerX 情報②~

高田愛
産業カウンセラー/キャリアコンサルタント
高田愛

がんの社会課題を解決しようと活動している一般社団法人CancerXが主催した、World Cancer Week 2022。1月30日から2月5日で実施された30のセッションの中から、9件目の記事となる今回は「情報②~医療情報は届いていない?!この情報格差をどう解決するのか?~」を取り上げる。   

筆者自身が、がんになった時、私を心配する人たちから様々な情報や食品やサプリメントが送られてきた。例えば、「がんが消えた」という体験記や特別な水、本と共にビタミン点滴を勧めてくれた。主人は、毎朝リンゴとにんじんをすりおろしたものを作ってくれた。ある人は整体で治してあげる。など……このようにがん患者自身はもちろん、周囲の環境からも、様々な情報が持ち込まれて来る。

本セッションでは、医療に限らず、正しい情報を届けるための課題や、各社の取り組みを聞いた。もちろん、大量にある情報から正しいものを選択するリテラシーや、国の制度やサービスが行き届かない問題もあるが、心に留めておくべきは「がん患者が、【がん】【消えた】【治った】という情報の成否に限らず、藁をも掴む心理状態にある」ということ。その状態から、どんな行動をとっていくのかを理解したうえで、情報を提供する側がどうあるべきか、がん罹患経験者であり、支援者として活動している視点からセッションを聞き強く印象に残ったポイントをレポートする。

登壇者:
秋葉 賢也氏(衆議院議員・元内閣総理大臣補佐官)
上野 直人氏(CancerX/米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター 乳腺腫瘍内科 教授)
岡田 聡氏(ヤフー株式会社メディアチーフディレクター)
古賀真美氏(NPO法人キャンサーネットジャパン常務理事)
モデレーター:
滝口 友理奈氏(株式会社セント・フォース)

信頼性の高い情報をトップへYahoo!のチャレンジ

(ⒸCancerX)
岡田氏からは、Yahoo!として正しいがん情報を届けるための試みが紹介された。

情報量の爆発的な増大により、たくさん選択肢が出来たが、自分に寄り添った情報がどこにあるのか判らなくなった。逆にメディア側は、わかりやすく過不足なく適切に届けるということが簡単になってきたという。

Yahoo!の2つの試みとして、①たとえば「大腸がん」と検索したとき、国立がん研究センターのがん情報サービスが上部に出るようにしていたり、メディカルノートと連携することで医療関係者が発信している情報が出るようにしている。②各がんにのっとったテーマをフォローして、自分好みの情報をまとめてチェックすることができる機能がある。

現時点では、がん患者が検索しがちな「がん 消えた 治った」などをはじめ、すべてのワードの辞書化と、反映は途上のようである。しかし、技術的にはコントロール可能ということがわかり、今後に期待したい。

見たい情報を探してしまうがん患者心理

(ⒸCancerX)
古賀氏は、弟が急性リンパ性白血病に罹患し、自身は弟のドナーとなった体験がある。「当時は、インターネット上で正しい情報を探すのが難しかったこともあって、弟の闘病記&自身のドナー体験記をWebで公開すると、たくさんのみなさんから相談が来るようになり、自然とがん支援をする立場になった」とのこと。※2020年当時の記事はコチラ

現在、認定NPO法人キャンサーネットジャパンで支援していく中で、「正しいがん情報は、なかなか届かないんだな。それよりも、キャッチ₋な情報【がんが治る】【がんが消えた】という言葉に、どうしても、がん患者さんは、引き寄せられていってしまう。がん患者が知りたいことだけでなく、知っておくといいことも届くようにするにはどうしたらいいか。」ということに頭を悩ませてきたという。

活動の中で、がん患者本人だけではなく、家族、ご友人や同僚も含めた一般の方々も含めて、がんの情報を求めていることがイベントの参加者属性からも読めてきた。とのこと。

古賀氏曰く「以前、上野先生が、【がん患者力】という言葉を使われていたことがありますが、さらに【がん患者家族力】【がん患者サポーター力】を高めていくことによって、情報の格差をなくしていけるのではないかと考えている。」とおっしゃっていた。

がん患者にとっての後悔のない治療と人生を選択するためにも、家族やサポーターにとっても、悔いの残らない関わり方や支援を考える上でも、きちんと必要な情報を取り込んでいけるように【がん患者力】【がん患者家族力】【がん患者サポーター力】を高めていくことは、非常に大切なことだと感じた。

移植の専門医であっても、情報に惑わされることも

(ⒸCancerX)

移植の専門医であり、骨髄移植の経験もお持ちの上野氏の「専門医である自分ですら、情報に惑わされる。自分が治りたい。何とかしたい気持ちがあって、それに対して、反応してくれる情報に全部飛びつく傾向がある。」という言葉は印象的。「結局、僕が変な方向に行かなかったのは、パートナーが、おかしいと言ってくれたということもあった。」薬剤師である奥さまには、医学的なバックグラウンドがあったので「おかしい」と言えた側面もあるのかもしれない。このように、「誰かが冷静な目で違う角度から情報を提供してくれたり、がん情報センターや、キャンサーネットジャパンのようにキュレーションされた情報にアクセスできることが大切だ」と考えられていた。

情報提供者力はどう培うのか
医学的なバックグラウンドを持つことは、一般人には難しいと感じるかもしれない。私は、昨年キャンサーネットジャパンの実施している「がんナビゲーター認定試験」を受験し、合格した。2日間かけて医療情報を調べながら受験する。エビデンスの意味や最新の治療や薬、治療の難しいがん種、予防と治療の違いなど、確かな情報ソースを求めて10時間くらいをかけて調べ、学び回答する試験だ。

受験した理由は、LAVENDER RINGの活動推進やグループ会社内のがん罹患経験者の自助グループLAVENDER CAFEの運営をしているので、安心安全に参加してもらうための企画や運営をするため、必要不可欠だと思ったため。

とはいえ、私から医療情報を参加者に提供することはなく、心の方に寄り添うのが主体となる。企画運営する側としては、参加者の誰も悲しんだり傷つくことのないように、補足していったり、医療・商品を提供する側にも、悪意のある提供者もいるため、それらを見極めていける目を養っていかないといけないと考えている。

医療従事者の間でも質の違いがある
上野氏から指摘のあった「医療従事者間でも、正しい情報を出すのは当然なのだが、正しい情報の判断基準を理解していない医療従事者もいて質に違いがある。また、直接医療をやっている複雑な内容に関して、みんなが書くことや、訳すことが得意な訳ではない。」というのは、よく考えたら当然の話なのだが、医療従事者に対して、神格化しすぎているところがあって、医者が間違ったことを言うはずがないと思っているところがある。リテラシーの平準化は必要だが、メディア側や、行政側に間に入って通訳してもらうなど助け合える部分がありそうだ。

情報提供側も、まだまだ発展途上 

(ⒸCancerX) 
セッションを通じて、それぞれの立場で正しい情報をいかに届けるかの試みが行われていることが分かった。ただ、がん情報に限って言えば、正しい情報の定義自体が曖昧で、このセッションの中でもリテラシーや情報に対する意識の格差を感じた。がん患者が情報をどう受け止め、どのような行動になるのか、メディア側や行政側はもっと自分事として受け止めなければならないと感じる。

ポリシーがなければ成し遂げられないし、そのポリシーを作るためにも行政、メディア、NPO法人、医療者と連携して学び合うことが大切だ。 

そしてもう一つは、アナログではあるけれど、がん患者の周囲がもっとがん情報を学び「がんサポーター力」を高めることが必要。そうすれば、がん患者本人が惑わされるときも一緒に正しい情報にアクセスしやすくなるのかもしれない。

取材・文: 高田愛
Reporting and Statement: aitakata

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