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Nov.

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7 Jun. 2016

オイシイQUEST #1 フードピクト導入率80%の成田空港で、”みんなでオイシイ”が見つかる。

伊藤亜実
cococolor編集員 / ライター
伊藤亜実

食のダイバーシティに関する活動や、積極的に取り組むスポットを紹介する連載「オイシイQUEST!」

第1回目の今回は、日本の玄関である国際空港の取り組みをご紹介します。

 

今回訪れたのは、成田国際空港。

毎日、約450本の国際便が発着し、約8万5,000人が利用する、日本を代表する国際空港です。

DSC_4010(写真)毎日世界中の飛行機が発着する成田国際空港は、人種の坩堝となっている

 

先日の大型連休でも、成田空港を利用されたという方が多いのではないでしょうか。

様々なインクルーシブアクションに取り組む成田空港ですが、近年では、食事のダイバーシティへも、積極的に対応しています。その一つが、今回ご紹介する「フードピクト」です。

DSC_4061(写真)成田空港で採用されている「フードピクト」

 

【フードピクトって?】

「ハラル」、「ベジタリアン」などといった言葉は聞かれたことがあるでしょうか。

文化や信仰、ライフスタイルなど、あらゆる価値観を背景に、食べられない食材があったり、特別な過程を経た食材でないと口にできなかったり、といった、食事に関する価値観の多様性が、近年注目されています。

お子さんをお持ちの方であれば、「アレルギー」も、気になるトピックかもしれません。

他にもビジネスマンであれば、海外から来られたムスリムのお客さんをおもてなししようにも、どのレストランに連れて行けば良いかわからない・・・というような経験をされている方は多いかもしれません。

実は身近に存在する、食のダイバーシティ。

自分自身には、食べられない食材がない人でも、知っておけば、いろいろな人と一緒に食事をするときに、心配が要らなくなります。

今や、食事の材料に何が使われているのか、ということが多くの人にとっての大事な関心事となったのです。

食べられる食材に制限がある人にとって、いちばん大変なのは、旅行先での食事の場面です。

本当はいろいろな食べものを試してみたいのに、何が入っているかわからないと、すべての食事に疑心暗鬼になって、何も食べられなくなってしまいます。

そこで、開発されたのが、食事に含まれている食材を可視化するマーク、「フードピクト」です。

あらゆる人が、心配なく食事をできる環境を整えるため、NPO法人インターナショクナル代表、菊池信孝さんが学生時代の2006年から活動を始めました。

フードピクトには、宗教やアレルギーなどの食の多様性に対応する、全14種類のピクトグラムが用意されています。メニューに含まれる該当食材のピクトをメニュー等に表記することで、来店者が食べられない食材を意図せず口にしてしまうことを、回避することができます。

日常的にダイバーシティに触れることの多い欧米諸国では、ハラルやベジタリアンの概念も浸透しており、対応メニューが用意されていることも多いですが、日本の飲食店では、まだまだ一般化していません。

インターナショクナルでは、フードピクト導入指導や、ワークショップ開催など、様々な取り組みを通して、食のダイバーシティを普及啓発しています.

 

【成田空港での取り組み】

フードピクトが国際空港へ次々に導入されるようになり、このピクトの存在が多くの方の目に触れやすくなりました。

国際空港は、訪日外国人をはじめとした、多様な文化を持つ人が数時間を過ごす場所ですので、食事のダイバーシティへの対応は必至です。店舗毎ではなく、空港全体での表記を統一する必要性から、成田空港では、2014年から、フードピクトを導入しています。

DSC_4044(写真)N’s Courtには、連日様々な食文化を持ったお客様が訪れる

 

成田空港第2ターミナル最大級の広さで、200 席以上の客席を持つ開放的なカフェテリア、「N’s Court(エヌズコート)」。導入初年から、フードピクトを積極的に取り入れています。

店頭でのオペレーションで試行錯誤を繰り返し、現在では、店頭のショーウィンドウとメニューに掲出しています。

DSC_4075(写真)店頭ではショーウィンドウの前で足を止める人が多数

「当店の利用者の約半数が、外国人のお客様です。日々、いろいろな国籍や文化に精一杯対応していますが、外国語が堪能なスタッフばかりではないので、食材の名前を言葉で伝えるのは、とても時間がかかっていました。」

そう語るのは、森本大伸店長。

フードピクトを導入したことで、指差しでのコミュニケーションができるようになり、接客が非常にスムーズになり、より積極的に活用するようになったといいます。

DSC_4028

(写真)フードピクトを記載しているメニュー

 

DSC_4058(写真)N’s Courtの店長森本氏

 

フードピクトの導入も3年目を迎え、成田空港では、テナント飲食店の約8割で採用されています。

採用店舗に対しては、食のダイバーシティについて知り、フードピクトを効果的に運用していくための研修を毎年提供。加えて、店舗での運用状況を確認し、フィードバックすることで、フードピクトのさらなる改善に役立てています。

DSC_4068(写真)フードピクトが記載されているN’sCOURTのショーウィンドウ

 

【食のダイバーシティについて、関心を持つきっかけに。】

成田国際空港株式会社 営業部門リテール営業部 企画グループマネージャー 田中大補さんは、かつて障害児クラスのある小学校に通っていて、そのクラスの生徒たちと学校行事を一緒に楽しんだりと、幼少からダイバーシティに自然に触れる環境があったそうです。

「一緒に生活していれば、その状態がごく当たり前になってきます。自分自身と障害者との、違う部分や違わない部分を自然に意識することができる。そうすると、助けを必要としているときには、自然と手を差し出すことができるようになります。障害者や多文化など、いろいろなダイバーシティがありますが、日常的に触れ合う機会を増やし、自然と理解が醸成されていくような、きっかけの提供が必要だと思っています。」

DSC_4147(写真) 左からNPO法人インターナショクナル菊池氏、押谷氏、成田国際空港株式会社 営業部門リテール営業部 田中氏、井ノ口氏、小林氏 

 

本取材では、成田国際空港の皆さん、インターナショクナルのお二人それぞれから、ダイバーシティに対する使命感に溢れたお言葉を、伺うことができました。

成田空港では以前から、急激に増加するインバウンドへの対応が求められていました。しかし、誰しもが日々接する「食」というテーマにおいて、代表的な国際空港である成田空港が積極的に取り組むことは、単なる対応の域を超え、人々の日常の中にダイバーシティを溶け込ませ、理解するための「きっかけ」づくりになっているのではないでしょうか。

みなさんも、成田空港にお越しの際には、ぜひ、フードピクトを見つけてみてください。身近なあの人や、今度あの国から来るあの人と一緒に食事をするなら、どのメニューが良いだろう、と、想像してみてはいかがでしょうか。

 

関連サイト:

特定非営利活動法人インターナショクナル

取材・文: 伊藤亜実
Reporting and Statement: atimo

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