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Nov.

2024

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20 Mar. 2020

いのちの話、みんなの望みを分かち合うことから

石田温香
デジタルプランナー
石田温香

2019年の年末に『人生会議』という言葉がポスターの表現をめぐって話題になりました。厚生労働省によると、「人生会議」とは、もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のことを指します。健康であれば現実味のない話かもしれないですし、もし闘病中だったら避けたい話かもしれません。ゆえに、自分自身や家族が健康な時に、もしものときについて考える機会はみなさんあまりないのではないでしょうか。

 

2020年2月2日に開催された『CancerX Summit2020』のセッションのひとつ、『CancerX スペシャル いのち ~生きるとは?~』では、がんを患い、余命宣告を受ける状況に陥った方や積極的治療をやめた方、また、その周囲の方々がどうすれば納得のいく人生の終末期を過ごすことができるかについて、4名のスピーカーによる意見交換がなされました。

左から、鈴江氏、大橋氏、伊藤氏、秋山氏、西氏。

 

がん経験者の言葉から始まったセッション

セッションは、モデレーターの鈴江奈々さん(日本テレビ アナウンサー)を含む5名の登壇者によって進みました。

 

まず、緩和ケアを専門とする医師であり、ご自身も闘病中の大橋洋平さん(JA愛知厚生連 海南病院 緩和ケア医)、当日は三重県からお越しになったそうです。次に、実のお姉さまの終末期に寄り添った経験から在宅ケアを専門にし始め、昨年ナイチンゲール賞を受賞している秋山正子さん(認定NPO法人マギーズ東京 センター長・共同代表理事、看護師)。そして、宗教学の背景も踏まえてグリーフケアの専門家として伊藤高章さん(上智大学大学院実践宗教学研究科教授 死生学専任主任・上智大学グリーフケア研究所 副所長)。最後に、緩和ケア医で地域に根差した医療に力を入れる西智弘さん(川崎市立井田病院 腫瘍内科・緩和ケア医/一般社団法人プラスケア 代表理事)でした。

 

日本の現状 最期を迎える環境

日本では、がんを患って終末医療を受ける場合に病院で最期を過ごすことが多いのが現状です。秋山さんは、在宅ケアを通じて、患者が自分を取り戻し、今まで周囲の人に伝えられなかった気持ちを話す機会を得ることで納得した最期を迎えられる環境を整えるお仕事をされています。その中で「もっと早い段階で、在宅ケアについて患者さんと検討できていたらもっとよかったのに…」と思う経験が何度もあると話します。

西さんは、緩和ケアに携わる中で、スイスで安楽死をしたいと訴える女性に出会いました。彼女は『日本には安心して死ねる場所がない』と西さんに伝えました。現在、日本では安楽死が認められていないため、身近ではないテーマですが、患者の意思を尊重するという観点からは一つの選択肢になり得ます。そして、大切なこととして、患者が「生きていってもいい 」と思える社会にするにはどうしたらいいのかを考えていくべきです。

秋山さんと西さんのお話の共通する結論として、医師や家族など患者の周りに人がいたとしても患者は意思を聞いてもらえないケースが多く、患者が孤立してしまう場面があることが指摘されました。

 

 

患者の意思と周囲の意思のギャップ

「医師や家族など患者の周りに人がいたとしても、患者の意思を聞いてもらえないケースも多く、患者が孤立してしまう場面がある」理由として、患者の意思と周囲の意思にギャップがある場合が多いことがあります。

本人は辛くてもうこれ以上治療を行いたくないと思っていても、家族など周囲の人たちがもっと頑張ってほしいと思っている場合。またその逆で、本人は頑張りたいのに苦しむ患者を見るのが辛い等の気持ちにより、周りの人は頑張りすぎないでほしいと思っている場合。どちらにせよ、双方の気持ちが表出できる機会を設ける必要があります。気持ちを伝え合うことで折り合いをつけるきっかけになります。

緩和ケア医であり、自身もがん経験者である大橋さん曰く 、「患者側としては聞いてもらう と嬉しく、ほっとする」とのこと。大橋さんが闘病されている中で、うれしいというポジティブな感情が身体にも良い影響がある気がしているそうです。

しかし、患者と周囲の人が気持ちを伝え合う機会が大切とわかってはいても、中々 機会を見つけることが難しく、いざ患者の意思を聞くとなってもどうしたらいいのかわからないという声が多くあります。

 

 

患者のポジティブを生む聞き方

伊藤さんの属する上智大学グリーフケア研究所が認定する独自資格として臨床傾聴師があります。 臨床傾聴師の役割は患者さんに『寄り添い』『傾聴』することです。伊藤さんは臨床傾聴師に対して、傾聴(聞き方)のhow toは教えないそうです。臨床傾聴師自身が自分のことを他者にたくさん話し、ケアされることでケアすることを学ぶ方式をとっています。自己理解を深めた状態で他者の話を聞く方が、相手が聞いてほしい聞き方ができるようになります。家族だからこそ、患者の死のあり方やその意思に対して感情的になってしまうところですが、患者に意思を押し付ける伝え方をするのではなく自分が患者だったらどう感じるかを意識することが重要なようです。

 

 

個人や家族の殻にこもらない

西さん曰く、家族よりも大きい単位のコミュニティの中で解決していくことが重要だそうです。 家族に押し付けてしまうと、家族ごと孤立してしまう可能性があるからです。そのようにならないため、話ができる専門機関やコミュニティがあることを誰もが知っていることがいざという時に大切になります。

また、秋山さんからは看取りをされたご家族の経験談を聞くことのできる地域コミュニティを作ることも有効であるというお話がありました。患者もその家族も突然当事者になるため、わからないことだらけで焦ってしまいますが、コミュニティで経験談を聞くことができると気持ちの準備になります。

足し算の命

本セッションの最後に、スピーカーの皆さんから死と向き合うことについて考えが述べられました。

大橋さんは現在進行形でがんを患っており、医師に自らの余命はどれくらいか質問したご経験をお話くださいました 。

「(担当医に余命を聞いたが)余命はデータが揃っていないためわからないと言われました。余命というと日が経つと減っていくから嫌だなと思い、足していこうと思いました。がんになってから一番凹んだ 肝臓への転移が分かった時から『足し算命』の考え方で日を足しています」

CancerXに登壇された日は足し算命を初めてから300日と1日目だったそうです。

 

自分自身や家族の命の終わりに向き合うことは、つらさや厳しさが伴います。しかし、本人の意思が尊重された生き方・最期はどうゆうことなのか?について、異なる価値観を分かち合って考える時間は非常に重要であることをこれまでより強く感じました。そして、対話した結果として納得のいく準備が整っていけば、周囲の人々も含めてより豊かな時間を過ごすことができるのではないかと思います。

取材・文: 石田温香
Reporting and Statement: harukaishida

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